重要事項説明書と売買契約書の事前チェックの重要性
「駅から近くて、この価格なら掘り出し物かもしれない」。住まい探しの途中で、そんなふうに気持ちが動いたことはありませんか?
利便性や価格に惹かれるのは自然なことですが、その土地の水害リスク、つまり大雨の日にどんな姿になるのかまで確かめてから決める方は、まだ少ないというのが、住まいのご相談を受けている私の実感です。
この夏から秋にかけて、関東では大きな水害が続いたこともあり、建物の地震への強さ(耐震性)や火への強さ(耐火性)に加えて、「水への強さ」、つまり建物の耐水性に目が向けられるようになっています。今回は、そうした視点を踏まえた住まい選びについて、私が大切にしている考え方をお伝えします。
【千葉の豪雨が問いかけた「建物の耐水性」】
実は、今回の被害で私がとくに考えさせられたのは、川から離れた街なかでの浸水です。
2026年8月13日から14日にかけての「令和8年8月千葉豪雨」では、千葉市で1時間115mmの雨が観測されました。これは、千葉市が雨水対策の目安としてきた雨量(整備重点地区で1時間65.1mm)の約2倍にあたります。
8月18日16時時点で、床上浸水1,105棟、床下浸水1,209棟の住家被害が報告されています(出典:東京海上ディーアール「令和8年8月千葉豪雨―浸水被害の概況と都市型水害への備え」、2026年8月21日発表)。
内水氾濫とは、降った雨が下水道の排水能力を超え、用水路やマンホールなどからあふれ出す現象のことです。これに対して外水氾濫とは、川の堤防からの越水や決壊によって市街地に水があふれる現象を指します。千葉の豪雨では、この内水氾濫による浸水が各地で起きたとみられています。
続く9月の台風25号では、船橋市で48時間降水量393.5mmと観測史上最大を記録しました(出典:船橋市「台風25号に伴う被害状況」、2026年9月)。印旛沼では堤防の一部が決壊し、周辺で冠水が続いています(出典:琉球朝日放送〈ANN系列〉配信ニュース、2026年9月)。こちらは外水氾濫の典型的な例です。
もう一つ見逃せないのが、千葉市内の少なくとも12棟のマンションで、地下の電気設備が浸水し停電・断水が続いたという報告です(出典:東京海上ディーアール、同上)。
UR賃貸住宅の管理運営に30年近く携わってきた私から見ると、これは「部屋が水に浸からなくても、暮らしは止まる」ことを示す出来事でした。耐水性は床の高さだけの話ではなく、設備を含めて建物が水にどう備えているかという視点で考えるべき話なのだと思います。
【「まさか」の背景にある3つの見落とし】
「まさかここまで浸水するとは思わなかった」。水害のあとによく耳にする言葉ですが、背景をたどると、住まい選びのときの見落としに行き着くことがあります。私が気になるのは次の3つです。
1つめは、「利便性」や「価格の安さ」に目を奪われてしまうことです。条件のよさに気持ちが傾くと、水害リスクの確認はどうしても後回しになりがちです。2つめは、晴れた日の印象だけで決めてしまうこと。見学はたいてい天気のよい日に行われますが、雨の日にその場所へ水がどう集まるのかは、眺めただけではわかりません。
3つめは、ハザードマップだけで判断してしまうことです。「ハザードマップで確認したから大丈夫」とおっしゃる方もいますが、意外と見落とされているのが、小さな河川の影響や内水が反映されていない場合があるという点です。千葉の豪雨でも、内水の浸水想定区域の外で浸水が発生したことが報告されています(出典:東京海上ディーアール、同上)。
2020年8月28日からは、不動産取引の重要事項説明で、水害ハザードマップにおける物件の所在地を説明することが宅地建物取引業者に義務づけられました(出典:長野県「不動産取引時の重要事項説明における水害リスクに係る説明義務について」)。
一方で堺市は、内水の浸水想定区域図などは重要事項説明の対象ではないと案内しています(出典:堺市「宅地建物取引業者の皆様へ」、2026年6月更新)。説明を受けたから十分、とは言い切れないのです。
私は大学院で、住まいや不動産をめぐる情報の非対称性を研究してきました。住まいの消費者教育研究所が「消費者と事業者の情報格差の解消」を行動指針に掲げているのも、そのためです。水害リスクは、まさにこの格差が生まれやすい分野の一つだと考えています。
【ハザードマップ・内水・標高を重ねて調べる】
では、具体的にどう調べればよいのでしょうか。私がお勧めしているのは、3つの情報を重ねて見ることです。
まず、国土交通省の「重ねるハザードマップ」で、想定される浸水の深さと浸水継続時間を確認します。どこまで水が来るかだけでなく、水が引くまでにどれくらいかかるかも、暮らしへの影響を考えるうえで大切な情報です。
次に、自治体の内水ハザードマップで、下水道があふれた場合の浸水を調べます。川の氾濫とは別に、雨水が排水しきれずにあふれるリスクを見るためです。そして、国土地理院のウェブ地図などで、周辺エリアと対象の敷地の標高を比べます。
実はこの3つめが、見落とされやすいポイントです。「このあたりは標高が高いから大丈夫」と考えがちですが、私は地域全体の標高だけでは判断しません。相対的に標高が高い地域でも、その敷地が周囲より1mほど低い窪地であれば、雨水が集まって浸水リスクは高まるからです。
千葉の豪雨でも、浸水想定区域の外で浸水したとみられる区域が、周囲より低い土地だったと分析されています(出典:東京海上ディーアール、同上)。
外水氾濫で注意したいのは、低地やゼロメートル地帯、デルタ地帯、旧河道などです。内水氾濫では、周囲より低い窪地や谷地、アンダーパス付近などが挙げられます。こうした場所にお住まいの方、これから住もうと考えている方は、ぜひ一度この3つを重ねてみてください。
土地選びと設計で進める浸水対策
調べた結果リスクがあるとわかっても、そこで話が終わるわけではありません。私がまずお伝えするのは土地選び、その次に建物の設計です。
これから住まいを選ぶ段階なら、ここまでの調査を踏まえて土地そのものを選ぶことが、対策の根本にあたると私は考えています。すでに土地をお持ちの場合や建て替えを考える場合は、設計の工夫が選択肢になります。敷地の嵩上げ、防水扉や止水板の設置、1階を柱だけの空間にするピロティなどです。
あわせて、電気設備を高い場所に設置すること、重要なものを浸水しにくい場所に保管すること、避難経路の確認、非常用電源などの防災用品の準備も進めておきたいところです。千葉のマンションの例を思い返すと、電気設備の位置はとくに見直していただきたいポイントです。
こうした備えを早めに進めることには、いくつもの意味があります。被害の軽減、安全性の向上、経済的な損失の削減。事業をされている方なら事業継続性の確保にもつながりますし、環境への配慮や心理的な安心感にも結びつきます。
不動産鑑定士として資産評価に携わってきた立場からも、水害リスクは住まいを選ぶうえで欠かせない判断材料の一つだと考えています。
ただ、水害リスクの調べ方や読み解き方は、不動産や建築の事業者にとっては身近な知識でも、一般の方が知る機会はあまりありません。この差に気づかないまま土地や住まいを決めてしまい、後から悔やむ方もいらっしゃいます。私が「住まいの消費者教育」に取り組んでいるのは、こうした差を少しでも縮めたいと考えているからです。
「住まいの消費者教育」とは、住まい選びや維持管理について、消費者と事業者の間にある情報の格差を埋めるための学びの場をつくり、届けていくことです。水害リスクの調べ方も、その大切なテーマです。
【まとめ】
水害リスクは、地図を重ね、標高を確かめ、備えを考えることで、住まいを選ぶ段階から向き合えるものだと私は考えています。晴れた日の印象だけでなく、雨の日の姿を思い描くことから始めてみてください。
・水害リスクの高い地域にお住まいで、備えを見直したい方
・これから土地や住まいを選ぶにあたり、浸水リスクを確かめたい方
・ハザードマップの見方や標高の調べ方に不安がある方
住まいの消費者教育研究所では、消費者の立場に寄り添うセカンドオピニオンとして、中立的な立場から情報提供を行っています。浸水対策や土地選びで迷ったときは、どうぞお気軽にご相談ください。
以上


