住まいを「自分で考える」機会を、もっと身近に

菊池浩史

菊池浩史

テーマ:空き家と住まいの終活

【住まいは人生に関わるのに、考える機会が少ない】
私たちは、住まいについて人生の中で何度も重要な判断を迫られます。家を買うのか借りるのか、どこに住むのか、住み替えるのか。さらに、親が高齢になれば実家をどうするのか、相続した家をどうするのかという問題にも直面します。
ところが、こうした判断をするために、日頃から住まいについて体系的に考える機会は、意外に少ないのではないでしょうか。
不動産会社や金融機関、行政などから情報を得る機会はあっても、それは住宅の購入や売却、ローン、相続など、具体的な問題が生じた時になりがちです。その時点では、すでに判断を急がなければならないこともあります。
私は、住まいについて困ってから知識を得るのではなく、もっと早い段階から、自分の暮らしや将来との関係で考える機会を持つことが必要だと考えています。
【職業人講話で見えた「住まいの自分事化」】
そのことを実感したのが、先日行った学校での職業人講話でした。住まいや不動産の仕事について話した後、14名の受講生から感想を寄せてもらいました。
感想を整理すると、最も大きな変化として見えてきたのは、受講生が住まいを「自分の問題」として考え始めたことでした。
講話を聞く前には、住宅について深く考えたことがなかった受講生が、持ち家と賃貸の違い、将来どこに住むのか、老後の住まいをどうするのか、親の家をどうするのかといった問題を、自分の将来と結び付けて考えていました。
これは、単に住宅に関する知識が増えたということとは違います。
「住宅にはこういう仕組みがある」と知ることから、「自分ならどうするのか」と考える段階へ進んだということです。
私は、住まいを学ぶ意味は、まさにここにあるのではないかと思います。
【住まいには「一つの正解」がない】
住まいについて考えるとき、私たちは「持ち家と賃貸のどちらが得か」「戸建てとマンションのどちらがよいか」といった答えを求めがちです。
しかし、実際の住まい選びは、それほど単純ではありません。
住宅費だけでなく、立地、通勤や通学、家族構成、住宅ローン、維持管理や修繕、将来の資産価値など、さまざまな要素を考え合わせる必要があります。受講生の感想にも、こうした複数の要素を比較しながら、自分に合った住まいを考える必要があるとの気づきが表れていました。
つまり、住まいについて必要なのは「正解を覚えること」ではなく、「自分にとって何を大切にするのかを考え、その理由を整理すること」なのだと思います。
そのためには、住宅に関する基本的な知識を持つことに加えて、自分の暮らし方や将来像を考える機会が必要になります。
【「自分の住まい」から「社会の住まい」へ】
もう一つ、今回の感想から注目したいのは、住まいについて考えたことが、空き家、相続、高齢化、マンションの老朽化や管理、防災などへの関心につながっていたことです。
これは、住まいが個人の問題であると同時に、社会の問題でもあることを示しています。
例えば、親が住んでいた家を相続したとします。その家を自分が使うのか、売却するのか、賃貸するのか、あるいは解体するのか。その判断は所有者個人の問題に見えます。
しかし、利用されないまま放置されれば、地域の空き家問題にもつながります。
マンションについても同じです。個々の所有者が適切に管理できるかどうかは、建物の将来だけでなく、地域の住環境にも関係します。
このように考えると、「自分の住まいについて考える」という行為は、社会の住まいを考える入口にもなります。
【必要なのは「住まいの知識」だけではない】
今回の講話で私が最も重要だと感じたのは、受講生の中に「自分で考えること」の重要性に気づいた人がいたことです。
感想には、「自分に合ったものを考える」「自分の価値観を考える」「なぜそうなのかを考える」「自分ならどうするかを考える」といった内容が見られました。
住まいの問題では、専門家から情報を得ることは重要です。しかし、最終的にどの選択肢を選ぶのかを決めるのは、その住まいで暮らす本人や家族です。
だからこそ、専門家が答えを示すだけでは十分ではありません。
「どのような選択肢があるのか」を伝え、「それぞれにどのような意味や負担があるのか」を理解してもらい、そのうえで本人が自分の価値観に照らして判断できるようにする。
私は、これからの住まいに関する支援には、こうした視点が必要だと考えています。
【「おとなの住まい教育」を社会の中に】
今回の経験は、私が取り組んでいる「おとなの住まい教育」の考え方とも重なります。
これは、住宅に関する専門知識を一方的に教えることを目的としたものではありません。
身近な住まいを入口として、「自分ならどうするのか」「なぜそう考えるのか」を考えてもらうことを重視しています。
今回の14名の感想は、もちろん厳密な教育効果を測定したものではありません。しかし、「住まいについて知らなかった」から「住まいについて考えてみよう」へ意識が変化する可能性を示す一つの材料にはなりました。
私は、このような機会を、学校だけでなく、地域や自治体、住民向けの学びの場にも広げていくことができないかと考えています。
空き家問題や相続問題が深刻になってから対策を考えるだけではなく、その前段階で、住民一人ひとりが自分の住まいについて考える。
専門家に相談する場合にも、何を相談したいのか、どのような暮らしを望んでいるのかを自分なりに整理しておく。
そうした「考えるための土台」をつくることが、これからの住まいの問題に向き合ううえで重要になるのではないでしょうか。
【住まいの相談は、「答えを出すこと」から始めなくてもいい】
不動産について相談すると、「売るのか、貸すのか」「買うのか、買わないのか」といった具体的な結論を求められることがあります。
しかし、私は、住まいの相談は必ずしもそこから始める必要はないと思っています。
「親の家が気になっているけれど、どうしたらいいのか分からない」
「空き家を所有しているが、売るか残すか決められない」
「住み替えを考えているが、何を基準に考えればよいのか分からない」
このような段階で、一度立ち止まって状況を整理することにも意味があります。
住まいについて考えることは、単に不動産を選ぶことではありません。
【自分はこれから、どのように暮らしたいのか。】
その問いから始めることで、住宅購入や住み替え、親の家、相続、空き家など、一見別々に見える問題も整理しやすくなります。
私は、不動産の専門家として答えを提示するだけでなく、相談者自身が「自分はどうしたいのか」を考え、納得できる選択肢を見つけるための伴走者でありたいと考えています。
住まいについて、まだ結論が出ていなくても構いません。
まずは、今抱えている疑問や不安を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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菊池浩史
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菊池浩史

住まいの消費者教育研究所

住まいにまつわるビジネス経験や、不動産鑑定士としての専門的知見を活かし、顧客ファーストで「住まい教育」を普及・実践。住まい選びやメンテナンス、そして家仕舞いまで、ワンストップでトータルサポートします。

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