大人ピアノ指導法:「親近感とパーソナルスペース」

光畑浩美

光畑浩美

テーマ:講師の養成/大人ピアノ指導法

今回は、男性と女性の思考回路の違いについてお話ししたいと思います。

まず、ひとつの分かりやすい言葉として、私はよく次のようにお伝えしています。

男性は物事を「上下」で考え、女性は「好き嫌い」で考える傾向がある。

もちろん、これはすべての方にぴったり当てはまるという意味ではありません。
けれども、レッスンの現場で多くの方と接していると、確かにそのような傾向を感じることがあります。

この違いを知っておくと、講座やレッスンの進め方、人との距離の取り方、生徒さんとの関係づくりにとても役立つのです。

男性と女性では、学びやすい環境が異なる

以前、イギリスのあるエリート校では、小学校の段階から男子と女子を分けて教育している、というお話を聞いたことがあります。
それは、学び方そのものに違いがあると考えられているからだそうです。

男性は、物事を上下関係や序列の中で理解しやすい傾向があるため、
たとえば教室の机の配置もスクール形式にし、先生が一定の権威を持って

「これはこうです」
「ここはこのようにしてください」
「では、やってみましょう」

と明確に伝えるほうが、学びの効率が良いと言われています。

一方、女性は「好き」「心地よい」「安心できる」といった感覚が学びに大きく影響しやすい傾向があります。
ですから、机が一方向に並ぶスクール形式よりも、班やグループのように、互いの顔が見える配置のほうがなじみやすいことがあります。

また、先生の言葉がけも、

「やってみましょうか」
「どうですか?」
「ご一緒に見ていきましょうね」

というように、やわらかく進めるほうが、気持ちよく学びに入っていけることが多いのです。

これはピアノレッスンでも同じです

このことは、ピアノレッスンにおいても同じです。

ピアノの先生は女性であることが多いのですが、相手が男性の受講生さんである場合、
「お友達になる」「まず仲良くなる」という感覚を前面に出しすぎなくても大丈夫なことがあります。

むしろ、
「ここについては、こうしてください」
「この点に気をつけましょう」
「今日はここまでです」

というように、要点を簡潔に、明確にお伝えするほうが、かえって伝わりやすいことも多いのです。

一方、女性の生徒さんの場合は、レッスンそのものだけでなく、そこに至るまでの気持ちや過程に寄り添うことが大切になります。

「そうでしたか」
「そんな中でも頑張ってこられたのですね」
「では、今日は一緒に見ていきましょうか」

このように、まず関係を築き、安心感を持っていただいたうえでレッスンに入っていく。
そこに重きを置くことが、とても大切になるのです。

パーソナルスペースにも違いがある

もう一つ、指導の場で知っておくと非常に役立つのが、パーソナルスペースの違いです。

パーソナルスペースとは、自分が「安全」と感じられる距離のことです。
これ以上近づかれると、なんとなくしんどい、圧迫感がある、少し離れてほしい、と感じる距離のことですね。

一般的には、女性のパーソナルスペースは
横50センチ、縦50センチほど、

男性は
横50センチ、縦1メートルほど
と言われることがあります。

つまり、男性のほうが、正面から近づかれることに対して、より強い圧迫感を覚えやすい傾向があるのです。

ぜひ一度、身近な方と試してみていただきたいのですが、相手と目線を合わせたまま少しずつ近づいていくと、あるところで

「これ以上近づかれると少し苦しい」
「なんだか近い」

と感じる地点があると思います。
それが、その人にとってのパーソナルスペースです。

女性の場合は、比較的近い距離でも違和感が少ないことがありますが、男性は正面から距離を詰められると、かなりしんどく感じる場合があります。

男性には「真正面」よりも「斜め45度」

この違いは、レッスンや講座の現場でとても重要です。

たとえば、女性の先生が男性の生徒さんに対して、ごく自然に正面から近づいて話しかけたとします。
先生側には違和感がなくても、男性の生徒さんにとっては「少し近い」「圧迫感がある」と感じられていることがあるのです。

ですから、男性の生徒さんに接するときは、真正面に立ちすぎないことが大切です。

おすすめは、斜め45度。
これがとても重要です。

ピアノがグランドピアノであれば、もともと横並びになることが多いので、あまり問題はありません。
けれども、講座の場では、机をはさんで先生が立ち、受講生さんが向かい側に座る形になりやすいですよね。

その場合、真正面に立つのではなく、少し斜めに位置を取る。
あるいは、ぐるっと回って横に近い位置からお伝えする。
そうすることで、相手に余計な圧迫感を与えずにすみます。

指導内容そのものだけでなく、どの位置から伝えるかもまた、指導のうちなのです。

女性の生徒さんに親近感を持っていただくには

では逆に、女性の生徒さんから親近感を持っていただくには、どんなことが大切なのでしょうか。

女性は「好き嫌い」で物事を受け止める傾向があるとお話ししました。
ですから、まず「この先生、なんだか安心できる」「感じがいい」「一緒にいると心地よい」と感じていただくことが、とても大切になります。

そのためのポイントは、大きく二つあります。

一つは、気遣いを示すこと。
もう一つは、さりげない触れ合いです。

気遣いについては、皆さんすでによくなさっていることと思います。

「お元気になられたのですね」
「その後、お加減はいかがですか」
「暑い日が続きますが、お変わりありませんか」

そんな一言があるだけで、生徒さんは「気にかけてもらえている」と感じられます。

中高年女性にとって、触れ合いが少ない時期がある

もう一つの「さりげない触れ合い」については、少し意識しないと、意外と抜けやすいものです。

若い頃は、恋愛や結婚、子育てなどの中で、人との触れ合いに恵まれていることが少なくありません。
子どもを抱っこしたり、家族と触れ合ったり、自然とスキンシップのある生活があるものです。

けれども、70代後半くらいになってこられると、まだ介護が必要なわけではなく、お元気に過ごしておられる方ほど、実は日常の中での触れ合いがとても少ない、ということがあります。

お孫さんが来られたときには触れ合いがあっても、普段の生活の中では、人と軽く触れ合う機会がほとんどない。
日本人は特に、その傾向が強いかもしれません。

だからこそ、

「お元気でしたか?」

と声をかけながら、相手に応じてごく自然に少し近づき、肘から下あたりに軽く触れる、あるいは一瞬だけ腕を添える。
そのようなほんのさりげない触れ合いが、心をやわらげることがあります。

もちろん、これはあくまで相手に合わせて、無理なく、自然にが大前提です。
長く触れ続けたり、距離感を誤ったりすると、かえって負担になりますので、その点は十分な配慮が必要です。

けれども、ほんの一瞬のあたたかな接し方によって、
「なんだかほっとする」
「この先生は親しみやすい」
と感じていただけることがあるのです。

指導は「内容」だけでなく「伝え方」でも変わる

レッスンでは、つい「何を教えるか」に意識が向きがちです。
けれども実際には、どう伝えるか、どんな距離で伝えるか、どんな関係を築くか
によって、伝わり方は大きく変わります。

男性には、簡潔に、明確に、距離感に配慮して。
女性には、安心感や親しみを大切に、関係づくりを丁寧に。

もちろん、最終的にはお一人おひとり違います。
それでも、こうした傾向を知っておくことで、相手にとって心地よい関わり方を見つけやすくなります。

中高年の方へのピアノ指導は、ただ技術を教えるだけではありません。
その方が安心してその場にいられること、心を開けること、気持ちよく学べること。
それらすべてが、より良いレッスンへとつながっていくのだと思います。

ぜひ、日々の講座やレッスンの中で、少し意識してみてください。

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光畑浩美
専門家

光畑浩美(大人ピアノ指導の専門家)

一般社団法人全日本らくらくピアノ®協会  株式会社PREMUSE

大人のピアノ初心者向け。特許庁登録「らくらくピアノ®︎」で憧れの曲を楽しく実現。オンライン講座や認定講師養成講座を展開。著書累計17万部超、Amazonや全国書店で販売中。

光畑浩美プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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