大人ピアノ指導法:⑧対処法:最初の個人レッスン「右脳・左脳」パターン
体験講座の個別指導で大切にしたいこと
〜不安を安心に変える、短くても大切な時間〜
体験講座では、全体の流れの中に「個別指導」の時間を設けることがとても大切です。
今回は、その個別指導において、
それぞれどのような点に留意するとよいのかをお伝えしたいと思います。
まず、体験講座の基本的な流れを振り返ってみましょう。
最初に受講者の皆さまに自己紹介をしていただき、
その後、講師が自己紹介をします。
そして、中高年のソルフェージュを行い、
右手のレクチャーへと進みます。
「なるほど、こうやって弾くのですね」という感覚を持っていただいたところで、
個別指導の時間を取る――こうした流れになります。
では、なぜここで個別指導の時間が必要なのでしょうか。
それは、体験講座には本当にさまざまな方が来られるからです。
中には「右手ならもう弾けますよ」とおっしゃるような方もいらっしゃいます。
講師が一人ひとりのお席を回りながら
「いかがですか」と拝見していくと、
紙鍵盤で熱心に練習されている方もいれば、
「これは簡単ですね」というご様子で、
もっと難しいことをやってみたいお気持ちを持ちながらも、
体験会だからと遠慮して静かに座っておられる方もいらっしゃいます。
そうしたときには、
その方のご経験や雰囲気に合わせて、
さりげなくお声がけをすることが大切です。
たとえば、動きのよい方には
「以前、ピアノをされたことがありますか」
「やはり手の動きが違いますね」とお声をかけた上で、
「今日は皆さま向けの体験会ですので、
とてもやさしい内容にしていますが、
実際の講座ではお一人おひとりに合わせて、
お好きな曲をお持ちいただき、それを拝見することもできます」とお伝えします。
そうすると、その方は
「今日は体験会だから、このレベルに付き合ってみよう」と
気持ちを切り替えてくださいます。
そして、その先の講座に自然と関心を持ってくださるのです。
この「これから先の流れ」をお伝えすることは、
とても大切なことだと思います。
一方で、初めてで、
一生懸命に取り組んでおられる方もいらっしゃいます。
そういう方には
「初めてなのに、こんなに一生懸命取り組んでくださってありがとうございます」と
まずしっかりお伝えしたいですね。
そして、「こういう方のために、らくらくピアノはあるのですよ」とお声がけします。
つまり、「あなたにぴったりの講座なのですよ」と伝えるのです。
その一言によって、
その方は「ここに来てよかった」「私でも大丈夫なのだ」と、
ほっと安心してくださいます。
私は、個別指導の時間というのは、
まさにそのためにあるのだと思っています。
決して、その短い時間の中で
上手に曲を弾けるようになることだけが目的ではありません。
不安を拭い去り、「ここなら大丈夫」と
感じていただくための時間なのです。
ただし、長くなりすぎると全体の流れが止まってしまいますので、
5分から7分程度の短い時間で行うのがよいでしょう。
右手の個別指導が終わると、
次は左手のレクチャーへと進みます。
左手は、まず一本指で「ポン、ポン」と弾くところから始めます。
そして、また個別指導の時間を設けます。
このときも、受講者のご様子はさまざまです。
左手だけで C や G を丁寧に練習される方もいれば、
右手と合わせてみようとされる方もいらっしゃいます。
たとえば、左手を C に置いたまま、
右手で「ミ・ミ・ファ・ソ」とゆっくり弾く。
それだけで、一小節分の両手奏ができたことになります。
そして次に、左手をゆっくり G に移して、
「ソ・ファ・ミ・レ」と弾いていく。
その場で「両手で弾けた」という実感が生まれるのです。
また、「これは簡単だから、もう少しやってみたい」と感じる方には、
個別に少し発展的な内容をお伝えしてもよいでしょう。
たとえば、「シ・ド・ミ・ソ」という和音を紹介してみるなど、
その方に応じた働きかけも一つの方法です。
そして、その後に「全体演奏」へと進みます。
ただ、実際の体験会では、皆さま手ぶらで来られることがほとんどです。
ですから、全体演奏といっても、楽器が十分にあるわけではありません。
そんなとき、講師がキーボードを一台だけ持参していると、
とてもよい形で進めることができます。
「よろしかったら、やってみましょう」と前に置いて、
希望される方、あるいは雰囲気の明るい方にお声をかけて、
実際に弾いていただくのです。
私自身、以前シニア大学で体験会をさせていただいたときのことを、
今でもよく覚えています。
その会場にはピアノがなく、皆さま全員が紙鍵盤でした。
私の手元にはキーボードが一台だけ。
しかも、大勢の方がおられました。
「さて、これをどう活かそうか」と思いながら、
紙鍵盤で弾き方の感覚がつかめてきた頃に、明るく活発そうな方に
「Aさん、こちらへどうぞ」とお声をかけて、前に来ていただいたのです。
初めて鍵盤に触れる方が、実際に「ミ・ミ・ファ・ソ」と音を出されたとき、
「わあ、音が出た」
「私の手から『第九』が出てきた」
そんな驚きと喜びに満ちた表情を見せてくださいました。
そのお顔が、本当に忘れられません。
あの喜びこそが、
今日までこの活動を続けてこられた支えの一つなのだと
私は感じています。
しかも、前で一人の方が弾いておられる間、
ほかの皆さまは退屈しているかと思えば、
実はそうではありません。
その音に合わせて、
それぞれがご自分の紙鍵盤で一生懸命練習しておられるのです。
そして、次に「ではBさん、こちらへ」とお呼びして、
今度は左手の C や G を担当していただく。
「Aさんは右手、Bさんは左手で、合わせてみましょうか」と進めると
会場に笑いが起こったり、「上手ですね」という声が上がったりします。
そうして、Cさん、Dさん……と少しずつ交代しながら進めていくと、
「次は自分かもしれない」
というほどよい緊張感も生まれ、
皆さまが自然と集中して練習されるようになります。
一台のキーボードでも、
十分に豊かな体験の場をつくることができるのです。
また、参加者が20名程度までであれば、
一台のキーボードでも十分対応できます。
皆さまに前に来ていただき、
立ったままで短く一人ずつ弾いていただくのもよい方法です。
右手、左手と役割を決めながら進めていけば、
体験会全体がとても活気のあるものになります。
そして、それが終わったら
「では全体演奏をしてみましょう」と進めます。
もちろん、皆さまのお手元から実際の音は出ませんが
、着席して紙鍵盤で動きをたどっていただきながら、
講師が伴奏をつけて『第九』を演奏する。
それだけでも、会場には一体感が生まれます。
その後に歌を歌う時間へとつなげ、
さらに「次回はこんなことをします」
「このテキストには、次にこんな曲が載っています。
たとえば『家路』もありますよ」
「今度はこれをやってみましょうね」と、
次への楽しみを感じていただけるようご案内します。
体験講座は、その日限りの時間ではありません。
その先に続く学びへの入口です。
だからこそ、個別指導の時間には、
「できる・できない」を見るのではなく、その方の不安を安心へ変え、
「ここで続けてみたい」と思っていただける空気をつくることが何より大切なのです。
短い時間の中にこそ、
講師のまなざしや言葉の力が表れます。
受講者お一人おひとりの思いに寄り添いながら、
その方に合った一言を届ける。
それが、らくらくピアノの体験講座における
個別指導の本質だと、私は思っています。


