大人ピアノ指導法:講座全体の「流れと時間配分」(講座)

光畑浩美

光畑浩美

テーマ:講師の養成/大人ピアノ指導法

カルチャー教室や市民講座、サークルやグループでのピアノ講座では、個人レッスンとはまた違った運営の工夫が必要になります。
今日は、講座運営の基本的な流れと、その中でも特に大切にしている「良いこと日記」についてお話ししたいと思います。

私たちが講座運営で大切にしている流れは、大きく六つあります。

まず一つ目が、挨拶と本日のトピックス。
二つ目が、「良いこと日記」。二分間で五項目以上書いていただきます。
三つ目が、ソルフェージュ、ハノン、スケール。
四つ目が、本日のメイン曲。
五つ目が、個別指導。
そして六つ目が、全体指導、つまり皆さんで一緒に歌う時間です。

講座全体の時間としておすすめしているのは、一時間三十分です。
二時間になると、講師側としては「しっかり教えられた」という満足感がある一方で、受講生の皆さまには少し“お腹いっぱい”になってしまうことがあります。すると、「今日は満足したけれど、しばらくはいいかな」という気持ちにもなりやすいのです。

その点、一時間三十分ほどですと、内容にメリハリがつき、集中もしやすくなります。もちろん人数によっても変わりますが、講座としてのバランスを考えると、このくらいの長さがとてもおすすめです。

そして、この流れの中で最も注目していただきたいのが、二つ目の「良いこと日記」です。

なぜ、ピアノの前に「良いこと日記」なのか

「せっかくピアノを弾きに来たのに、なぜ最初に日記を書くのですか?」
そう感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

けれども、心理学の世界では、この「良いこと日記」はモチベーションを高めるうえで非常に効果的だとされています。
受講生の皆さまの気持ちが良い状態でなければ、継続は難しくなってしまいます。

これは、指導ノウハウや演奏メソッドとは少し別の話かもしれません。けれども、長く続けていただくためには、実はこの部分こそが最も大切だったりするのです。

やり方はとても簡単です。
「今から二分差し上げますので、良いことをお書きください」とお伝えし、大学ノートの後ろのページから、日付を書いて始めていただきます。

前のページは、ソルフェージュや聴音などで使います。ですから、一冊で済むように、後ろのページから「良いこと日記」を書いていくのです。

正直に申し上げると、二分間で五項目以上、できれば七項目ほど書けるくらいでないと、その教室のモチベーションは十分に高いとは言えないように感じます。
これも心理学的によく言われていることですが、一つか二つしか思いつかない、なかなか書けないという状態ですと、講座全体の雰囲気も暗くなりやすいのです。

ここで大切なのは、書く内容の立派さではありません。項目の多さです。

たとえば、

「今日はお化粧ののりが良かった」
「夫が“いってらっしゃい”と言ってくれた」
「お天気が良くて洗濯物が干せた」

そんな日常のささやかなことでいいのです。
何でもないことの中にある“良いこと”に気づき、書き留める。
そのことが、とても大切なのです。

最初は「ええ、そんなことを書くのですか」と戸惑われる方もいらっしゃいます。
けれども、書き始めると、そこから日々の見え方が変わっていきます。二週間過ごし、次の講座の日に「この二週間、どんな良いことがあったかしら」と振り返る。その繰り返しが、やがて習慣になっていくのです。

すると、この講座は、その方の人生におけるホームポジションのような存在になっていきます。
ここに来ると、自分の時間を取り戻せる。
ここに来ると、また前を向ける。
そんな場所になっていくのです。

「結構、いいことあったのね」――忘れられない受講生のお言葉

以前、とても熱心に通ってくださっていた方がいらっしゃいました。
本当に誰よりも熱心な方でしたが、残念ながらご主人を亡くされ、しばらくお休みされていたのです。

そして、かなり時間が経ってから、久しぶりに講座へ戻ってこられました。
ピアノのレッスンバッグも、きっとそのままの状態だったのでしょう。少しやせられて、静かに席に座っておられました。

その方は、その日、今日の「良いこと日記」を書くのではなく、ノートの後ろのページに積み重なっていた、これまでのご自分の記録を、ただ静かにパラパラとめくってご覧になっていました。

そして帰り際に、ぽつりと一言、こうおっしゃったのです。

「結構、いいことあったのね」

私はその言葉が、今でも忘れられません。

楽しかったことやうれしかったことは、もちろん心に残ります。
けれども、それをこうして書き重ねていくことによって、自分の人生の満足度を支える、大きなエネルギーになっていくのです。

これは本当に大切なことです。

特に、七十代、八十代の方々にピアノ指導をご提供するというのは、単に「ピアノを教える」ということではありません。
人生の時間に寄り添い、その方の価値ある日々を支えるということです。

ですから私は、導入の際にこんなお話をすることがあります。

「私たちは、ただピアノをお伝えしたいのではありません。人生と人生で出会い、共に生き、共に喜び合える教室をつくりたいのです。だからこそ、ぜひこの“良いこと日記”を取り入れてください」

そうお伝えすると、その意味を深く受け取っていただけることが多いのです。

講座の時間配分――最初の三十分で土台をつくる

ここからは、カルチャー教室や市民講座において特に大切な、時間配分と内容についてお話しします。
今回は、実際の講座運営について、ゲストの松森先生にもお話を伺いました。

まず、先ほどお話しした「良いこと日記」、そしてその後のソルフェージュ、ハノン、スケールまでで、おおよそ三十分ほどを使います。
全体が一時間半ですから、残りの一時間は、本日のメイン曲、個別指導、そして全体指導にあてることになります。

この後半一時間は、季節や講座の進行状況によって配分が変わります。
ある日はメイン曲にしっかり時間をかけることもありますし、また別の日には個別指導を中心に据えることもあります。

初めての方も安心して取り組める、ソルフェージュ・ハノン・スケール

講座には、本当にさまざまな方がいらっしゃいます。
経験者の方もいらっしゃれば、「今日が初めてです」という方もいらっしゃいます。

初めての方にとって、ハノンやスケールは、楽譜を目で追うだけでも精いっぱいということがあります。
けれども、継続されるうちに、両手で、しかも声を出しながら弾けるようになっていかれるのです。

らくらくピアノでは、言葉で言いながら弾くことを基本にしています。
たとえば「ドレミファソラシド、ドシラソファミレド」と声に出しながら進んでいく。初めての方は、まず楽譜を指で追いながら、今どの調をやっているのかを確認していきます。

そして次のステップとして、いきなり全部を弾こうとするのではなく、最初の音だけを弾く方法もあります。
「ドレミファソラシド」と言いながら、最初の“ド”だけを弾く。
次は“レ”だけを弾く。
そうして、タイミングに合わせて一音ずつ楽しみながら参加していただくのです。

こうした工夫によって、「できない」が「できるかも」に変わり、やがて「弾けた」に変わっていきます。

受講生の皆さまは、本当に学ぶ意欲が強く、毎回一生懸命取り組んでくださいます。
たとえば、ト音記号の書き方ひとつをお伝えしただけでも、「先生、今日は良いことを教えていただきました」と喜んでくださることがあります。

また、「脳の活性化のために取り組みたい」とおっしゃる方も多く、毎日少しずつ練習を重ね、その成果を講座で確認していかれます。
ハノンで十本の指をまんべんなく使えることも、大きな喜びのひとつです。
講座が始まる前に少し早めに来られて、ハノンで指ならしをしている方もいらっしゃるほどです。

このソルフェージュ、ハノン、スケールの時間は、講座の中で二十分から三十分ほど。
講座の土台をつくる、大切な時間です。

本日のメイン曲――季節、発表、憧れを育てる時間

四つ目は、本日のメイン曲です。

カルチャー教室や市民講座では、一年に一度、文化祭など人前で演奏する機会がある場合も少なくありません。
その場合は、半年ほど前から候補曲を選び、右手から合わせるなどしながら、少しずつ準備を進めていきます。

ただし、半年間ずっと同じ曲だけを練習するわけではありません。
発表曲は決めつつも、通常の講座の流れの中で、季節の曲やその時々にふさわしい楽曲も取り上げていきます。
そして発表が近づいたら、その曲に比重を置いていく。そうした柔軟な運営になります。

春なら「さくら」、冬なら「ジングルベル」。
季節の曲は、その場の空気をやわらかくし、皆さまの心を自然と一つにしてくれます。

また、市民講座やサークルのような形であれば、講座室を飛び出し、キーボードを持って外で楽しむことができる場合もあります。
近くの公園などで、空の下、皆で演奏したり歌ったりする。そんな時間は、音楽の楽しさをより身近に感じさせてくれます。

個別指導は「一人ずつ見る時間」以上の価値がある

五つ目は、個別指導です。
この時間は、講座の人数によって大きく変わります。

カルチャー教室では、最初から十人集まることもあれば、実際には二人、三人という少人数から始まることもあります。
そして徐々に人数が増え、十人、あるいは場合によっては四十人、五十人規模の講座になっていくこともあります。

そうした中で、すべての方に十分な個別時間を確保するのは難しい場合もあります。
けれども、そのことが直ちに「良くない講座」を意味するわけではありません。

待っている間にご自身の練習を進める方もいらっしゃいますし、
「それ、どうやって弾くの?」
「あなたの曲、素敵ね」
と、受講生同士で自然に情報交換が生まれることもあります。

ここで大切なのは、講師が「個別指導の時間は、自由に交流してよい時間でもあります」ときちんとお伝えすることです。
それを伝えないと、皆さまはずっと座ったまま、静かに待ってしまわれます。そうなると、二時間近い講座はとても疲れるものになってしまいます。

大人のピアノ指導では、交流そのものが大きな価値になります。
子どものレッスンとは異なり、学びの場であると同時に、人と人とがつながる場でもあるのです。

そしてもう一つ大切なのは、
「一人ひとりを見る時間が長いほど良い講座である」
「個別時間が短い講座は価値が低い」
という考え方ではない、ということです。

もししっかりと個人対応をご希望であれば、個人レッスンを併用していただく方法もあります。
講座には講座ならではの価値があります。
仲間と学び合い、励まし合い、交流の中で広がっていく喜び。
その価値を、ぜひ大切にしていただきたいと思います。

最後は、皆で歌う“デザート”の時間

最後の全体指導は、いわば講座のデザートのような時間です。
二、三分ほどの短い時間ですが、とても大切です。

次回取り組む曲を皆で歌ってみる。
今日演奏した曲を、改めて皆で歌ってみる。
そうすることで、曲のイメージがより深まり、「いつか弾いてみたい」という憧れも育っていきます。

講座では、単に弾くだけではありません。
時代背景を学んだり、作曲家について触れたり、スタッカートやスラーといった音楽表現を学んだりすることもできます。
ときには、交流の場としてお茶会のような時間を設けることもあるでしょう。

こうした多面的な学びがあるからこそ、講座は生涯学習の場となり、皆さまの生きがいにもつながっていきます。

おわりに

カルチャー教室や市民講座におけるピアノ指導は、単に「弾けるようになる」ことだけを目指すものではありません。
そこには、人と人とが出会い、励まし合い、喜びを分かち合う力があります。

そのためにこそ、時間配分を工夫し、内容にメリハリをつけ、そして何より、受講生の皆さまの心が前向きになる仕組みを整えることが大切です。

「良いこと日記」は、その象徴のような取り組みです。
音楽の学びを通して、人生そのものが少し明るく、あたたかくなる。
そんな講座づくりを、これからも大切にしていきたいと思います。

ぜひ、皆さまの講座運営にも取り入れてみてください。

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光畑浩美
専門家

光畑浩美(大人ピアノ指導の専門家)

一般社団法人全日本らくらくピアノ®協会  株式会社PREMUSE

大人のピアノ初心者向け。特許庁登録「らくらくピアノ®︎」で憧れの曲を楽しく実現。オンライン講座や認定講師養成講座を展開。著書累計17万部超、Amazonや全国書店で販売中。

光畑浩美プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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