大人ピアノ指導法:「学びたくなる教室」のご案内方法-No.2
「簡単」「やさしい」と書かれた大人ピアノの本でも、指導の際に配慮したいこと
大人ピアノ指導の本には、「簡単」「やさしい」「初心者向け」と書かれているものがたくさんあります。
楽々ピアノの本にある程度親しんでくださった方でも、本屋さんで別の教材を見つけて、「こんな本も買ってきました」と持って来られることがよくあります。
つまり、楽々ピアノ譜以外の楽譜を手にされる機会は少なくないということです。
けれども、そのようなとき、中高年の受講生の皆様は、さまざまな場面で戸惑われることがあります。
そこで今回は、指導する際に特に配慮したい六つのポイントについてお伝えしたいと思います。
その六つとは、
1、かな付きの楽譜について
2、アレンジについて
3、曲の長さについて
4、指数字について
5、演奏レベルについて
6、その他について です。
1.かな付き楽譜は「左右」と「高さ」の混乱が起こりやすい
まず一つ目は、かな付き楽譜についてです。
かな付き楽譜は、一見すると親切に見えます。けれども、中高年の方にとっては、かえって混乱が起こることがあります。
特に起こりやすいのが、左右の混同と音の高さの混乱です。
たとえば、右手のところに「ラ」、左手のところに「ド」と書かれているとします。
それを見て鍵盤に目を向けたときに、「あれ、どちらがラでしたっけ」と、右と左の認識が混乱してしまうことがあるのです。
楽々ピアノの場合、右手はドレミ、左手はCなどと表記を分けていますので、この左右の混乱が起こりにくい工夫があります。
けれども、一般のかな付き楽譜では、この区別がなく、初期の段階で戸惑われる方が少なくありません。
もう一つは、高さの混乱です。
同じ「ド」でも、高いドなのか、低いドなのかがわかりにくいことがあります。
楽々ピアノでは、高いドの場合、右手のドの上に点を一つ付けるなどして、ひと目で「高い音なのですね」とわかるように工夫されています。
こうした工夫がない楽譜では、どの高さで弾けばよいのか迷ってしまい、理解に時間がかかることがあります。
ですから、かな付き楽譜を使う際には、ただ「かなが書いてあるから安心」と考えるのではなく、左右や高さの認識が混乱していないかを、丁寧に見て差し上げることが大切です。
2.アレンジは「簡単そうに見えて弾きにくい」ことがある
二つ目は、アレンジについてです。
市販の教材の中には、見た目にはとてもシンプルな伴奏がついているものがあります。
たとえば、左手が「ポーン」と単音を弾くだけで、また右手、そしてまた「ポーン」というような形です。
けれども、実はこのような伴奏は、中高年の初心者の方にとって、あまり楽しくないことがあります。
しかも、シンプルすぎるがゆえに、右手でしっかりリズムを取らなければならず、かえって弾きにくくなることがあるのです。
一方で、たとえば一本の指で「トントントン」と拍を感じられるような形のほうが、リズムをつかみやすいことがあります。
拍の流れの中で弾くほうが、安心して音楽に乗ることができるのです。
また反対に、左手のアレンジが難しすぎる場合もあります。
一生懸命練習しても、終わる頃にはくたくたになってしまい、「楽しい」よりも「しんどい」が先に立ってしまうことがあります。
ですから、アレンジを見るときには、ただ音数が少ないかどうかではなく、
楽しく弾けるか
リズムが取りやすいか
無理なく続けられるか
という点に配慮することが必要です。
3.曲は長すぎると、それだけで大きな負担になる
三つ目は、曲の長さについてです。
市販の大人向け楽譜の中には、歌謡曲や流行歌などで、思った以上に長い構成になっているものがあります。
けれども、中高年の方にとって理想的なのは、やはり見開き二ページ程度で収まる長さです。
イントロが長く、Aメロがあり、Bメロがあり、サビまでたどり着くのに時間がかかる。
そうした構成は、初心者にとっては大きな負担になります。
楽々ピアノの本をご覧になった方はお気づきかと思いますが、イントロをあえて書いていないことが多いのです。
これは大切なポイントです。
いきなり曲の本体から入ることで、「少し弾けた」という実感を早く持っていただけるからです。
ところが、市販の本では、イントロの理解に時間がかかり、その時点で疲れてしまうことがあります。
曲の本体にたどり着く前に、「やれやれ」となってしまうのです。
そのような場合には、最初から全部をなぞるのではなく、まずサビから弾くことをおすすめします。
「ここが弾けたらうれしい」という部分を先に体験していただき、そのあとでイントロや前半に戻る。
その順番にすることで、気持ちが続きやすくなります。
4.指数字は「見えにくさ」が大きな壁になる
四つ目は、指数字についてです。
中高年の方から、本当によく伺うのが、
「指数字が小さくて見えません」
というお声です。
一般の楽譜では、右手の音符があり、その上に小さく「4」などの数字が書かれ、その下に「ミ」などのかなが書かれていることがあります。
そうすると、音を見て、数字を見て、かなを見て、と視線があちこちに動いてしまいます。
さらに左手も加わると、目がとても忙しくなり、「見にくい」「追えない」という状態になってしまいます。
楽々ピアノでは、音名のすぐ下に、大きく太字で指数字が入っているため、かなと数字を一度に見やすく工夫されています。
この違いは、中高年の方にとって非常に大きいのです。
ですから、市販の楽譜を使う場合には、そのまま使うのではなく、必要に応じて指数字を太く大きく書き直して差し上げることも大切な配慮です。
少し手を加えるだけで、ぐっと読みやすくなり、取り組みやすさが変わってきます。
5.「簡単」「初心者向け」という言葉を、そのまま受け取らせないこと
五つ目は、演奏レベルについてです。
これは本当に重要なことですが、本のタイトルに書かれている
「簡単」
「やさしい」
「初めてのための」
「初心者向け」
という言葉は、必ずしも中高年の初心者にとって本当にやさしいとは限りません。
これは、ある意味では販売のための表現でもあります。
そう書いてあると、やはり手に取りやすく、売れやすいのです。
ところが、受講生の皆様は、その言葉をそのまま信じて購入されます。
そして実際に弾いてみて、「えっ、初心者向けと書いてあるのに、こんなに難しいのですか」と驚かれることがよくあります。
指導者の側は、「これは簡単と書いてあっても、なかなか難しいわね」と笑って受け流せることがあります。
けれども、受講生の方は違います。
「簡単と書いてあるものさえ弾けなかった」
「やっぱり私は向いていないのだ」
と、必要以上に落ち込んでしまうことがあるのです。
ですから、ここはぜひ、先生の側から
「これは売るために、そのように書かれていることもあるのですよ」
「あなたができないのではなく、表記と実際の難しさに差があるのです」
とお伝えして差し上げてください。
それだけで、ほっとされる方はとても多いのです。
6.「やりたい気持ち」と「続けられること」は別である
そして六つ目、その他についてです。
ここで特に大切なのは、しんどくなっていないかという視点です。
これは経験上、よくあることなのですが、
「先生、この曲は昔からずっと弾きたかったのです。半年でも一年でも取り組みたいです」
と、情熱いっぱいに話してくださる方がおられます。
そのお気持ちは本物ですし、とても尊いものです。
ですから、こちらも「それでは、ぜひやりましょう」とお伝えします。
けれども、一か月も経つと、少し疲れてこられることがあります。
だんだんと用事も増え、気持ちも揺れ、やがて「ちょっとしんどいです」となってしまうことがあるのです。
大人の場合、一度「これをやりたい」と宣言すると、自分で責任を感じてしまう方も多くいらっしゃいます。
そのため、途中で苦しくなっても言い出しにくくなり、結果としてレッスンそのものから離れてしまうことさえあります。
そうならないためには、最初から区切りを作ることが大切です。
たとえば、
まずはサビの部分をゴールにする。
そこができたら、曲の終わりまでを次の目標にする。
それができたら、最後にイントロやエンディングを加える。
このように、小さな段階に分けて進めていくのです。
そうすることで、
「ここまでできた」
「次はここまでにしよう」
という達成感が積み重なり、無理なく次のステップに進みやすくなります。
大切なのは、「本当にやりたい曲だからこそ、最後まで続けられる形に整えること」です。
指導で大切なのは、楽譜そのものより“受け取られ方”
大人ピアノ指導では、教材そのものの良し悪しだけではなく、その楽譜が受講生にどう受け取られるかを考えることがとても大切です。
かな付きなら安心、簡単と書いてあれば弾きやすい、ページ数が多くても大丈夫。
そう単純にはいかないのが、中高年指導の難しさであり、また大切さでもあります。
だからこそ、
左右の混乱はないか。
高さはわかりやすいか。
アレンジは楽しいか。
長さは無理がないか。
指数字は見やすいか。
レベル表記に傷ついていないか。
そして、しんどくなっていないか。
そうした一つひとつに目を配ることが、安心して続けていただけるレッスンにつながります。
中高年の方が「弾けた」「楽しい」「また来たい」と感じられるように。
教材を見るときにも、ぜひこのような視点を持っていただけたらと思います。


