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ホスピタリティと「一期一会」         ~「いつもの一人」ではなく、「今日出会う大切な一人」と向き合う~

長澤さおり

長澤さおり

テーマ:ホスピタリティ 接遇力向上 接客に携わる

ホスピタリティと「一期一会」

~「いつもの一人」ではなく、「今日出会う大切な一人」と向き合う~

ホスピタリティ&マナー・ラボ代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。

前回のコラムでは、近江商人の「三方よし」から、
ホスピタリティについて考えました。
「売り手よし・買い手よし・世間よし」。
相手だけではなく、自分も、組織も、そして社会も幸せになること。
(前回のコラムもご参照いただけますと幸いです
『ホスピタリティと「三方よし」―相手だけではなく、自分も、組織も、社会も幸せにする仕事とは』https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5232456

私は、ホスピタリティもまた、一方だけが与え続けるものではなく、
人から人へと「よろこび」が循環していくものだと考えています。

今回は、そこから視点を少し変えてみたいと思います。

「三方よし」が広い視点から人の幸せを考えるものだとすれば、
今回取り上げる「一期一会」は、
今、目の前にいる一人に向き合うことを教えてくれる言葉です。

「一期一会」。
茶道の世界で大切にされてきた言葉であり、

「この出会いは二度と同じ形では訪れない。だからこそ、今この瞬間、この時間を大切にする」
という心を表す言葉として知られています。

私は、この「一期一会」の心は、
ホスピタリティの本質にも深く通じていると感じています。

なぜなら、
私たちにとっては「いつもの仕事」の一場面であっても、
相手にとっては、人生の中の大切な一場面かもしれないからです。

「一期一会」とホスピタリティ―特別なことをすることではない

「一期一会」と聞くと、
「一生に一度の出会いなのだから、何か特別なことをしなければならない」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私はそうではないと考えています。

一期一会とは、特別なサービスをすることではありません。
目の前にいる人を見る。
相手の話を聴く。
相手の立場を想像する。
そして、
「この方との今この瞬間を、大切にしよう」
という気持ちを持つこと。

相手を見て挨拶をする。
心を込めて「ありがとうございます」とお伝えする。
困っていらっしゃるご様子に気づいたら、こちらから声をかける。
一つひとつは、決して特別なことではありません。
けれども、そこに「あなたを大切にしています」という気持ちがあるかどうかで、
相手が受け取る印象は大きく変わります。

接遇で大切にしたい、仕事への慣れを 人への慣れにしないこと


サービス業や医療・福祉の現場では、一日にたくさんのお客様や患者様と接します。

仕事に慣れることは、決して悪いことではありません。
経験を重ねることで判断が早くなり、
より安定したサービスをご提供できるようになります。

しかし、気をつけなければならないことがあります。
それは、
「仕事への慣れ」を「人への慣れ」にしないこと。
です。

「また同じ質問か」
「いつものことだから」
そのような気持ちは、言葉にしなくても、表情や声、態度に表れてしまうことがあります。

実は私は、客室乗務員時代のある出来事を、今でも思い出すことがあります。
そして、年齢を重ねるほど、そのときのことを後悔する気持ちが強くなっています。

客室乗務員2年目、「慣れ」が生んだ私の後悔

客室乗務員として働き始めて1年ほど経った頃のことです。
仕事にもすっかり慣れ、機内での業務にも少しずつ自信を持ち始めていた時期でした。

その日は、宮崎から大阪へ向かう国内線のフライトでした。
しかも、一緒に働くことが多い班のメンバーだけで乗務する「班フライト」
気心の知れた仲間と一緒に乗務できる安心感があり、
さらに隣の担当エリアを受け持っていたのは同期の客室乗務員でした。

今振り返ると、その安心感から、いつも以上に緊張感が少し緩んでいたことも事実だったと思います。

その便に、ご高齢のご夫婦がご搭乗になりました。
離陸後、まだシートベルト着用サインが消えていないにもかかわらず、
ご主人が座席から立ち上がろうとなさっていました。
私は、
「ああ、まだベルトサインが消えていないのに……」
と思いながら、お客様のもとへ伺い、
「まだシートベルト着用サインが点灯しておりますので、お座席でお待ちくださいね」
とお伝えしました。

その後、シートベルト着用サインが消えてしばらくすると、
今度はその方のお席から客室乗務員の呼び出しボタンが鳴りました。

伺ってみると、お客様はきょとんとされ、
「いやいや、呼んでいないよ」
とおっしゃいます。
どうやら、誤ってボタンに触れてしまわれたようでした。
「きっと、こちらのボタンに当たってしまったのですね」
とご説明すると、
「ああ、ごめん、ごめん」
と笑っていらっしゃいました。

今だからこそ申し上げると、そのときの私は心のどこかで、
「飛行機に乗り慣れていらっしゃらないのだな……」
「またか……」
と、少し面倒に感じてしまっていたのです。

もちろん、表面上はいつもどおりに応対していたつもりです。
その後、上空では少しお話もしました。

けれども振り返れば、
仕事への慣れ。
気心の知れた仲間と乗務する安心感。
そして、そこから生まれたわずかな気の緩み。


そうしたものが重なり、
私は目の前のお客様に十分に心を向けることができていなかったのではないか……

後日届いた、一通のお礼状

その便からしばらく経ったある日、私宛てにお客様からのお手紙が届きました。
封筒を見ても、私はすぐにはどなたからなのか分かりませんでした。
わざわざお礼状をいただくような思い当たる節が、私にはなかったのです。
「どうして私にお礼状が届いたのだろう」
そう思いながら封を開け、読み始めました。

そこに書かれていたのは、あのご高齢のご夫婦からのお礼の言葉でした。

飛行機に乗る機会はほとんどなく、ご夫婦で旅行をすることも大変珍しかったこと。
そして、機内で私が応対したことを、とてもよくしてもらったと喜んでくださっていたこと。

私は、そのお手紙を読みながら、
うれしいというよりも、とても後ろめたい気持ちになりました。

お客様は、私の応対を喜んでくださった。

けれども私は、その方に本当に心を向けていただろうか。
心のどこかで「少し面倒だな」と思ってしまっていたのに。

もっときちんと向き合っていれば。
もっとお二人の旅の思い出づくりのお手伝いができたのではないか。
そう思いました。

今になって分かる、「その方にとっての今日」

客室乗務員を退職してから、20年以上が経ちました。
それでも、この出来事を忘れることはありません。
むしろ年齢を重ねるほど、当時とは違った思いで考えるようになりました。

私の父は5年前に77歳で亡くなりました。
母も80歳を超えました。
高齢になれば、元気にご夫婦で旅行ができることは、
決して当たり前ではありません。

あのときご搭乗になったご夫婦にとって、
あの旅はどのような意味を持っていたのでしょう。

久しぶりのご夫婦での旅行だったのかもしれません。
もしかすると、飛行機に乗って出かけられる最後のご旅行だったのかもしれません。

もちろん、私には分かりません。
けれども今も、
「あの日は、お二人にとって、とても大切な一日だったのだ」
と思い起こされ、後悔の念にかられるのです。

私にとっては、いつもの国内線のフライト。
慣れた仲間と一緒に乗務する、どこか安心感のある一日。
そして、一日の中で出会う百人以上ものお客様のお一人。

けれども、お二人にとっては、特別なご旅行の一日だった。
そして私は、その大切なお時間の中で出会った一人の客室乗務員。

だからこそ、今でも思います。
もっと心を向けることができたのではないか。
もっと何かして差し上げることができたのではないか。

私にとっての「いつものフライト」が、
誰かにとっては二度と同じ形では訪れない大切な一日かもしれない。


そのことを、私はあの一通のお礼状から教えていただきました。

この経験は、
今の私が「一期一会」、
そしてホスピタリティを考えるうえで、忘れることのできない出来事の一つとなっています。

私たちの「いつもの一日」は、誰かの「特別な一日」かもしれない

これは、客室乗務員だけに限ったことではありません。

病院を訪れる患者様にとっては、検査結果を聞く大切な日かもしれません。
ホテルを訪れるお客様にとっては、久しぶりにご家族で過ごす旅行かもしれません。
飲食店を訪れるお客様にとっては、大切な方とゆっくり語り合うためのひとときかもしれません。
公共交通機関をご利用になる方にも、それぞれの目的があり、それぞれの「今日」があります。

私たちは、相手の背景をすべて知ることはできません。

だからこそ、
「この方にとって、今日はどのような日なのだろう」
と、関心を寄せて想像してみる。
それだけでも、相手に向ける表情や言葉、行動は変わってくるのではないでしょうか。

一期一会は「最後の一瞬」まで

一期一会というと、「出会い」に目が向きがちですが、
私は最後の一瞬も同じくらい大切だと考えています。

「ありがとうございました」
と言葉だけをお伝えするのか。

それとも、相手のお顔を見て、笑顔と柔らかな声のトーンで、
「ありがとうございました。どうぞお気をつけてお帰りください」
と、丁寧なお辞儀を添えてお伝えするのか。

ほんの数秒の違いです。

けれども、その数秒が、
その方にとっての「この場所で受けた最後の印象」になります。

一期一会とは、出会った瞬間だけではなく、
その方との時間の最初から最後まで大切にすること
なのではないでしょうか。

接遇の「型」の先にあるもの

接遇研修やマナー研修では、挨拶、表情、言葉遣い、立ち居振る舞いなど、
さまざまな「型」を学びます。
基本となる型は、とても大切です。

しかし、その先にあるのは、
「目の前の人を大切にする心」です。

マニュアルは「何をするか」を教えてくれます。
しかし、
「目の前のこの方のために、今、自分に何ができるだろう」と考えるのは、人です。

だからこそ私は、
接遇研修でも、型を身につけるだけではなく、
その行動を「なぜするのか」という心の部分を大切にしています。

そして、このことは、
今でもあの日のことを後悔している私だからこそ、皆さまにお伝えしたいことでもあります。

そしてもう一人、伝えられるとするならば――
客室乗務員2年目を迎えた、あの頃の私自身にも伝えたい。
「あなたにとってはいつものフライトでも、目の前のお客様にとっては、二度と同じ形では訪れない大切な一日だよ」と。

「今日出会う大切な一人」と向き合う


私たちにとっては「いつもの仕事」でも、
目の前の方にとっては、特別な一日かもしれません。
その方が、どのような思いで今日ここにいらっしゃるのか、
私たちには分からないこともあります。

だからこそ、心を寄せ、
「今日、この方と出会えた時間を大切にしよう」と思うこと。

「いつもの一人」ではなく、「今日出会う大切な一人」として向き合うこと。

それが、私があの経験から学んだ「一期一会」の心です。

そして、その心から生まれた言葉や行動によって、
相手によろこんでいただけたとき、そのよろこびは、私たち自身のよろこびにもなって返ってきます。

それが、私の大切にしている「よろこんでもらうよろこび」です。

私はこれからも、
一人ひとりとの出会いを大切にしながら、ホスピタリティの心を皆さまにお伝えしてまいりたいと思います。

岡山を拠点に、岡山県内をはじめ、東京・大阪・兵庫・広島・香川・高知など、中国・四国・関西エリアを中心に、
接遇マナー・ビジネスマナー・ホスピタリティ・コミュニケーション研修の講師を務めております。

また、ホスピタリティコンサルタントとして、
病院・クリニックなどの医療機関、福祉施設、サービス業をはじめ、企業・法人・各種団体の皆さまを対象に、【太字】接遇研修・ホスピタリティ研修・人材育成研修、接遇・サービス品質向上のためのコンサルティング【/太字】を承っております。

「接遇力を高めたい」
「職員・スタッフの意識を変えたい」
「組織全体でホスピタリティを高めたい」

そのような課題やご要望に合わせて、それぞれの組織・現場に応じた研修やコンサルティングをご提案しております。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
http://www.hospitality-m-l.com/

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長澤さおり
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長澤さおり(マナーコンサルティング)

ホスピタリティ&マナー・ラボ

元CA(キャビンアテンダント)の「おもてなし接客マナーを伝え、お客様、患者様満足度の向上を目指します。スタッフが働く喜びを感じられる「人財」となり、イキイキ元気に働ける「組織創り」へとつなげます。

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