ベンチャービジネスと知的財産…Ⅳ
文明は産業財産権制度により保護され、文化は著作権制度により保護されますが、これらの保護から外れてしまう知的財産も少なくありません。例えば、「営業秘密(企業秘密)」についてはいずれの制度によっても保護されません。このため、このような営業秘密は、「不正競争防止法」により保護されます。いわゆる「これは当社の企業秘密ですからお答えできません」という部分です。
しかし、グローバリゼーションの進展とともに、技術流出の問題がクローズアップされてきます。特に、人の流動化は、技術流出を防ぐ観点からは重要な問題です。例えば、ある会社の技術部門の方がその会社を退職(定年退職も含む)し、その後、中国等の外国にわたって再就職したとすれば「技術流出」の問題が発生します。表面的にはよくある話であり、くい止めることは容易なことではなく、むしろ不可能と思われます。病気と同様、この問題が表面化するのは何年か後であり、水面下では着実に進んでいるにも拘わらず、それに気が付くことは困難です。通常、退社時には、秘密保持契約や競業避止義務契約等を結ぶなどして「営業秘密」を保護するように手当てしますが、対策として十分ではなく、また、憲法との関係で別の問題も絡んできます。
今年度、私は、日本弁理士会の不正競争防止法委員会の副委員長に任命されています。不正競争防止法違反は、登録や権利といった手続よりも裁判やADR(裁判外紛争解決手続)等により直接解決されるため、日本弁理士会の不正競争防止法委員会の委員には弁護士さんも所属し、今年度の委員長は弁護士さんです。
「技術流出」の問題は、時代背景とともに難しい課題を含んでおり、不正競争防止法とも密接に関係しますが、不正競争防止法をもって十分に解決できるものではありません。しかし、世界のグローバル化とともに日本にとっては他国以上に重要な問題であり、より踏み込んだ対策(法改正も含む)やガイドラインが必要ではないかと思っています。個人的にもこの問題については真剣に考えてみたいと思っています。