朗読劇「彼女のこんだて帖」 出演者の声 ⑧

長野淳子

長野淳子

テーマ:舞台・ステージ

◆「最高の 朗読の日」(長野淳子)



ブティック「フラン」の女主人「久喜桃子」は、
店内を物色する主婦が下げたビニール袋を見つめている。小さな女の子を連れた主婦だ。

最近桃子は、彼女たちを見ると、チクリと胸が痛む。
食材が詰まったスーパーの袋や、小さい子供を見ると、いつも。

息子「晶」の幼い時間を、桃子はほとんど見ていない。
離婚したのは二十五年前。晶が二歳になったばかりのことだった。

晶を保育園に預け、桃子は働き続けた。
ゆっくりと夕食を作ったことなど、数えるほどしかない。

その頃のことを思い出すと、桃子は後悔で泣き出したくなる。



今までは、忙しくて思い出す暇もなかったのに、
自分の店を開店した今頃になって、おの頃のことばかりが、思い出される。

子供に手作りのご飯を作ってあげれる母親。母親のご飯を食べられる子供たち。
なんて、なんて、幸せな・・・・



ある日「息子の彼女」と名乗る若い女性から電話がかかる。
「かぼちゃのお宝料理」を教えてほしいという。

あの子、覚えてたんだ。誕生日くらいはと手作りしていた、あの料理。



何にもしてあげられなかったと思っていた。
おふくろの味なんか、知らない大人にさせてしまったと思っていた。

でも、そうじゃなかった。私たちにも、幸せな思い出があった。



私の作った料理を、覚えていてくれる。その味を知っていてくれる。
私と過ごした時間を、きちんと抱えていてくれる。

私たちにも、確かに光り輝く、黄金色の時間があった!!



◆作品について

今回私が読んだ「かぼちゃのなかの金色の時間」~久喜桃子のこんだて帖~は、
2019年の「朗読の日」に、東京 銀座博品館劇場で朗読した作品でした。

「次のステージ・アップの朗読会で、この作品をやろう!」と決めていた作品で、
コロナ禍で2年半先送りになりましたが、今思えば、今年の上演で良かったように思います。


彼女のこんだて帖
はじめは、ショックを受けていたり、こんなはずじゃなかったと思っていたり、
自分の身に起こった出来事に呆然としたり、今の状況にイライラしていたりと

何かしら抱えていたそれぞれの思いが、気が付けば、全員が顔を上げている・・・
そんなところに魅かれたのだと思います。

ステージ・アップでは、
2016年に角田さんの作品「口紅のとき」を、朗読劇として上演していますが、
今回の「彼女のこんだて帖」も実に心温まる、ステキな作品でした。
原作者の角田光代さんの作品力に、大いに敬意を表したいと思います。

◆「カゲの声」の演出について



「カゲの声」は、2018年に上演した朗読劇「とりつくしま」の時にもやりましたが、
今回は出演者の他に、戸石みつるさん・鈴木大典さん・米山陸さん に お願いしました。

この3人には一人で何役もしていただいたので、まさしく「カゲの功労者」です!!
この男性3人が加わってくれたことで、全体の雰囲気もかなり変わったように思います。
いい意味で、とても刺激的でした。



中でも、戸石みつるさんには、2014年に上演した朗読劇「悪女について」
2018年に上演した朗読劇「とりつくしま」にも、読み手として参加して頂きましたが、

今回は「舞台監督」としてもお世話になりました。
忙しい中、何度も稽古に顔を出してくれて、熱心に指導してくれました。

今更言うのもなんですが、彼は「役者」です!
私の指摘が「頭で考えるより、心で感じて!!」などと、漠然としているのに対して

戸石さんは「そこは、例えばこんな感じで!!」と、非常に具体的で分かりやすい。
相手に伝えたいことが概ね同じでも、伝え方が違う! 非常に勉強になりました。

◆2年半振りの朗読会は「朗読の日」に 仙台で!

当初5月の上演予定を、コロナの影響で6月に変更したこの公演。
折しも「6月19日」は「朗読の日」

例年「6月19日」は、東京銀座の博品館劇場で開催される、
NPO日本朗読文化協会主催の「朗読の日」の公演に参加していたのですが、

「2年半ぶりに朗読会をやるなら、地元仙台で!」と思い、仙台での開催を優先しました。
この日に会場が取れたことも、本当にラッキーなことでした。



◆たくさんの人に背中を押されて

旗揚げしたのが、昨年の暮れ。
コロナが下火になって、一日の感染者数がひとケタになった時でした。
「このままいけば大丈夫! やろう!!」となったのです。

しかし、年が明けて、その後やってきた「第6波」

日に日に増えていく感染者数に気をもみながら、それでも誰一人「やめよう」とは言わない。
朗読メンバーもやはり「上演したい!」という思いが強かったのだと思います。

それは、演じる側だけでなく、お客様の反応にも強く感じたことでした。

公演のご案内をお送りしたところ、
たくさんの方から「やっとやれることになったのね」と喜んでいただけて、
みんな待っていてくれたんだなあと、改めて思いました。

こうした皆様からの声も、私たちの大きな支えに、大きな励みになり、
カンパニーは動き出しました。



◆ これまでと違ったこと

1月にスタートしたカンパニーは、これまでと違ったことが1つありました。
それは「読み台本の編集」です。

これまでは、私がすべての作品を編集していたのですが、
今回初めて読み手本人に、自分で編集してもらいました。

休憩を含めて8人の朗読を2時間に収めるためには、一人当たりの朗読時間は12~13分。
この一人12~13分の編集に、皆一様に苦労したようです。

長い作品だと18分近いものもあったので、それを短くするのは本当に大変だったと思います。
1月の末に上がってきた「第一稿」の台本に、その苦労の跡が充分に見て取れました。

しかしこれは、思った以上に功を奏しました。

作品を読み込まなければ編集は出来ない訳ですから、
自分の作品を読み込むのに実に効果的でした。

稽古の度に編集を重ねて、読み台本の完成まで、更にひと月以上がかかりました。

◆ 稽古は嘘をつかない

少ない人で25回。多い人だと28回。一人平均26回。
通算185回に渡る稽古は、これまでで最も多い回数になりました。

ひとつの課題がクリアになると、また新しい課題が出てくる・・・それの繰り返しの稽古。
そうやって少しずつ作品を掘り下げて「自分の物」にしていく。

「自分の物」に出来るまで、それはとても苦しい作業なのですが、
ある日ある時「気づき」、ある日ある時「わかる」のです! 

気づいた瞬間、分かった瞬間、霧が晴れたようにその先が見えてくる。
すると「読みが変わる」 これが朗読の醍醐味です!!

「頭で考えないで、心で感じて読む」 私の信条です。

今回は、出来るだけ出演者の「癖」も含めた「特徴」「個性」を大事に演出しました。
みんな音を上げずに、期待に応えて頑張ってくれました。感謝しかありません。

そうした中で、実は私が一番稽古不足で、ギリギリまでセリフが入らず、本当に焦りました。
公演の一週間前になって、やっと作品を自分の物に出来たように思います。
気持ちが作品に追いついた瞬間があって、なんとかステージに上がることができました。

◆残念だったこと

私事でひとつ残念だったのは、
当初予定していた10センチのピンヒールが、本番で履けなかったことです。

本番1週間前の通しげいこで、10センチは肉体的に無理だとわかり、5センチに変更。
更に、本番当日のランスルーで、足がつって思うように歩けなくなり、結局3センチに変更。

当日の衣装のパンツは、10センチのヒールに合わせて丈を決めていたので、
3センチでは「松の廊下」になってしまいました。残念!!

◆メンバーは、私の宝です!

コロナの影響を受けて、2年半振りとなった今回の公演は、
・参加者の氏名・連絡先を把握するために「全席指定」
・更に、会場を満席には出来ないため「2回上演」
と初めて尽くしで、これはいざやってみると、予想以上に大変なことでした。

これまで出演者には「読む事」に専念してほしくて、殆んどの事を私がやっていたのですが、
なにせ「全席指定」や「2回公演」など初めてのことが多く、きっとパタパタしていたのでしょう。

そんな私を見かねたメンバーが
「私たちに出来ることがあったら、遠慮なく言ってください!」と言ってくれたのです。
これは、本当に嬉しいことで、まさに「鬼の目にも涙」でした。

今回の出演メンバーは、これまでも何度かステージ・アップの朗読会に参加している方々で、
安心感がありましたから、それからは、色々なことを分担して手伝ってもらいました。

・チラシを一人で1000枚以上、様々な会場に配ってくれた人
・衣装に合わせた台本の表紙を、文具店で一緒に選んでくれた人
・BGM用のCDを、作ってくれた人
・アンケートの回収ボックスを、手作りしてくれた人
・リハーサル日のランチと、当日の打ち上げの会場を、10件以上もあたって探してくれた人



フットワーク軽く協力してくれた若手メンバーに、心から感謝です。



そして、陰で支えてくれたスタッフの皆さんにも感謝です!
今回受付は、ステージ・アップの司会メンバーが、中心となって頑張ってくれました。



特に今回はコロナの関係で、検温や手指消毒に加えて、
2回公演で、当日の時間がタイトで、受付などは大変だったと思います。

お客様の中に、当日チケットを忘れていらしたり、席を交換してほしいというご要望にも
臨機応変に応えてくれたようで、後日お客様からお礼を言われました。
ありがとうございました。

◆嬉しい感想

朗読は、作品を読み手の声と表現を通して、聴き手に届ける作業です。
毎回プログラムのご挨拶に書くのですが、聴いていただいたときに
「映像として見えるようだった」と言っていただけたら嬉しいのです。



実は、当日の客席が思いの外静かだったので「もしかして外した?」と一瞬心配したのですが
舞台監督から「皆マスクで、声を出すのを遠慮していただけだと思うよ」と言われ、
「よかった~」と胸を撫で下ろしました。

それは、上演後、皆様から頂いたアンケートを読んでよくわかりました。
大いに楽しんでいただけたこと。それぞれの朗読に感動したこと。朗読の概念が変わったこと。

今回は特に「料理」がテーマになっているので、美味しそうな映像が見えたら成功!!
そう思っていましたら、アンケートに

「朗読を聞いていて、おなかがなりました!」
「すてきな料理の数々、ごちそうさまでした!」
「美味しい料理を家族のために作りたくなりました!」
「今夜何を作ろうかしら?」
 

といった感想を頂き、とても嬉しくなりました。



そうした感想を、いつもは上演後のお見送りの時に、直接お客様から伺えるのですが、
今回は、コロナの関係で「密を避けるように」というお達しが会場側から出ていたため、
お見送りは出来ず、お客様とお話しすることは出来ませんでした。
上演後の感動を、じかにお客様と分かち合うことができないことは、残念なことでした。



しかし「お見送り」がないことを、開場時に伝えていたこともあってか、今回のアンケートは
皆さん実に丁寧に書いて下さっていることがわかりました。本当にありがとうございました。

◆ お越し頂いたお客様に 心から感謝!

このコロナ禍にあって、お越し頂いた皆様に、改めてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございました。



どんなに私が旗を振ろうと、どんなにメンバーが全力で頑張ってくれようと
当日、お客様にお越し頂けなければ成り立たないことなのです。本当に感謝しかありません。



230枚のチケット販売も、今までで最高でした。
219名の来場者数も過去最高でした。

コロナで引き籠もっていた2年半が報われた「6月19日」
ステージ・アップにとって、最高の「朗読の日」になりました。本当にありがとうございました。



ステージ・アップではこれからも、
様々な作品の朗読に、チャレンジしていきたいと思っています。
次回の朗読をお楽しみに! また、会場でお会いしましょう!!



★「お客様からの感想」はこちら
https://mbp-japan.com/miyagi/stage-up/service2/5003456/
★「お客様の声」はこちら
https://mbp-japan.com/miyagi/stage-up/voice/5003554/
★「朗読メンバー紹介」はこちら
https://www.stage-up.info/contents/reading-member.html

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長野淳子
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長野淳子(講師)

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言葉には話す人の思いが宿ります。「生きた言葉」を日頃から使って、物事を人生をいい結果に導きましょう。ステージ・アップは、司会・朗読・講演・講座など様々なシーンに合わせて「生きた言葉」をお届けします!!

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