日本の春|桜を詠んだ歌
お盆休み中、友人と芝居を観に行き、帰りに食事をした時のこと。
今観てきた 「芝居」 の話で盛り上がり、「もう一軒行こう!!」 ということになった。
時間は、夜の11時過ぎ。
お盆で休みの店が多く、開いていた 「串焼き屋」 を見つけて入った。
店の入り口には、「AM 0:30まで営業」 とあった。
「どなたかお身内にご不幸でも?」
席について注文した時から、その若い女性の店員さんは、とにかく愛想が無かった。
注文すると、それを機械に打ち込むだけで、注文を繰り返しもしなければ、
「わかりました」 のひと言もない。もちろん 「プライスレスの笑顔」 など、かけらもない。
飲食の客商売で、今どき珍しいなあ…と思いながら、
母が一緒だったら 「どなたかお身内にご不幸でも?」 と言うに違いないと思ったりした。
ちょうどAM 0:00 になった時、
くだんの 「店員さん」 が 「ラストオーダーのお時間です」 と、これまた無表情で言いに来た。
まあ、これはよくある光景なので、私たちはそれぞれに飲み物を追加した。
彼女は、相変わらず無言で、注文を機械に打ち込んだ。
AM 0:15 になった時、
くだんの 「店員さん」 が 「お会計をお先にお願いします」 と、これまた無表情で言いにきた。
まあ、これもよくある光景なので、私たちは支払いをして話を続けた。
そして、AM 0:25 になった時、
くだんの 「店員さん」 が、またもや無表情でやってきて、こう言った。
「間もなく閉店のお時間です。ゴタイテンのご準備をお願いします」
「不退転の決意」 という言葉は聞いたことがあるが、「ゴタイテンの準備」 は、初めて聞く言葉だった。
どういう意味かすぐには解らなかった私たちは、声を揃えて聞き返してしまった。
「ゴタイテンの準備?」
すると彼女は、表情を変えずにもう一度同じ言葉を繰り返した。
「間もなく閉店のお時間です。ゴタイテンのご準備をお願いします」
彼女が言う 「ゴタイテンのご準備」 が、「ご退店のご準備」 だと解かった瞬間
私たちは思わず大声で笑ってしまった。
つまり 「閉店時間だから、帰る支度をしろ」 と、言っていたのだ。
「もう終わりだから、帰れってことね」 と苦笑する私たちをよそに、
彼女は、同じ言葉を、店に残っていた他の3組の客にも次々に言って歩いた。もちろん、無表情で。
彼女に 「ご退店のご準備を~」 と言われた客たちは、一様に一瞬キョトンとした後、
思わず失笑し、そして、みなシラケた様子で次々と店を出て行った。
「客に対して失礼じゃないか」 とか
「もっと別の言い方があるんじゃないの?」 などと、文句を言う客は誰もいなかった。
私たちもそうだった。
一見丁重にお断りしているように聞こえるその言葉が、
思わず笑ってしまうほど、あまりに 「おかしな日本語」 で、文句を言う気にもなれなかったのだ。
せっかく楽しかった 「芝居の余韻」 を、そんな店員とのやり取りで、台無しにしたくなかったのだ。
私たちが最後に店を出ると、先に出た別の客たちが、店の前で話をしていた。
「まったく 『ご退店のご準備を~』 とはマイッタネ~」
「どうせなら 『ほたるのひかり』 かなんか流せばいいのに~」
「店のマニュアルなのかな?」
「【食べログ】 に書いちゃおか・・・」
「二度と来ないんだから、別にいいじゃん!」
彼らは、口々にそう言って笑った。
確かに、「閉店時間になっても酔った客が中々帰らなくて困る」 という店側の話は聞いたことがある。
でも同じことを言うのなら、せめて
「せっかくお話がはずんでいるところ、申し訳ありません。そろそろ~アレなもんで~」 ぐらいだったら、
お客の方も
「おやもうそんな時間?これは遅くまでごめんなさいね。それでは今日はこの辺で~」 になるだろうに・・・。
「丸い卵も切りようで四角 物も言いようで角が立つ」
昔の人は、実にうまいことを言ったものだ。
要は、どんな言葉をどんなニュアンスで言うかなのだ。
それにしても 「ご退店の準備を~」
これはしばらく 「マイブーム」 になりそうだ。
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