交通事故の基礎知識~過失割合(3)~

笠中晴司

笠中晴司

テーマ:交通事故理論

交通事故の損害賠償において,とても大切な「過失割合」。

では,どのようにして決まるのでしょうか。

簡単にいうと,過去の判例からまとめられた,事故類型ごとの過失割合を決めた本(別冊判例タイムズ№38)があります。

そして,その本にある事例にあてはめることができる事案は,この本に書かれた基本割合をスタートにし,そこから修正要素を加えて,最終的な過失割合を決めます。

では,事故類型とは何でしょうか。

これは,当事者が何か(四輪対四輪か,四輪対単車か,単車対歩行者か,といった区別です)ということと,事故が発生した場所の状況(交差点か否か,道路の上かどうか,等)がどのようなものか,そして,当事者がどのような動きをして事故が発生したか(両当事者の位置関係や事故までの動き方等)ということです。

つまり,交通事故の場合は,当事者と事故の発生場所,そして,当事者の事故までの当事者の動きの3つの要素で類型化されていて,その類型化された事故態様ごとに基本となる過失割合が決まっているのです。

言葉ではわかりづらいので,具体的な過失割合の決め方の1例を上げます。

(事例) 別冊判例タイムズ№38では,104図にあたります。
  当事者      四輪対四輪
  発生場所    通常の四つ角交差点(一方のみに,一時停止の標識あり)
  当事者の動き  A車  一時停止のないほうの道路を走行し,交差点に進入(減速せず)
             B車  一時停止のある交差道路(A車走行車両と交差する道路)を走行し,
                 交差点に進入 
                 交差点の手前で減速はしたが,一時停止はしなかった。
  
  この事例での,過失割合の基本は,A車70:B車30です。

  同じ当事者,同じ発生場所でも,B車が交差点の手前で一時停止していた場合は,過失割合が変更になり,A車60:B車40となります。(逆に,速度がA車,B車とも同程度の場合は,A車80:B車20となります)

  ここから過失割合が修正される要素は,「著しい過失」の場合の+-10%,「重過失」の場合の+-20%です。

  では,この「著しい過失」の具体例は何かというと,携帯電話の使用や脇見運転等著しい前方不注意等です(このような著しい過失があったほうの過失が多くなるという意味です)。

  次に,「重過失」の具体例は,酒酔い運転,居眠り運転等です。


  ですので,A車の運転者が携帯をいじっていて,事故をおこしたとすると,A車の過失が10%増えるということになります。


以上が,この事故態様での過失割合の決め方です。

このようないわゆる出会い頭の事故事案で,だいたい不満を持たれるのは,一時停止のないほうの車両であるA車のほうかと思います。

その理由は,道路交通法でも免許をとる際の教習所でも,「自身の側に一時停止の標識がある場合は,交差道路の交通の邪魔をしてはいけない」ということが徹底されているからかと想像されます。

ただ,その決まりがあったとしても,その決まりは,反射的な効果として,「一時停止のないほうの道路を走る車両は,一時停止のある交差道路の車両が止まることを前提に走ってもよい」というところまでには至らず,「一時停止のないほうの道路を走る車両も,交差道路の交通に十分に注意しなさいよ」「その注意が不足している場合は,過失を認めざるを得ない」ということです。

だから,上記のような道路状況であっても,一時停止のないほうの車両にも,相応の過失が認められてしまうのです。


以上,過失割合については,概観してみました。

参考になれば,幸いです。



  
           
  

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笠中晴司
専門家

笠中晴司(弁護士)

丹波橋法律事務所

大学卒業後,民間企業(地元銀行)で10年間勤務。その後,志をもって弁護士を目指し,弁護士になってから丸17年の経験を積みました。経験に基づく,バランス感覚は,他の弁護士より優れていると自負しています。

笠中晴司プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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