後遺障害診断書
今回は,過失割合に関して,よく使われる言葉「もちわかれ(自損自弁)」につき,説明します。
この言葉に関して,よく誤解されるのは,「過失が5:5だから,『もちわかれ(自損自弁)』となる」ということです。
これは,何度も言いますが,「誤解(間違い)」ですので,気をつけてください。
「もちわかれ(自損自弁)」というのは,文字通り,交通事故の損害につき,「自分に生じた損害は自分が負担し,相手には請求しない(相手から自分に対しても,相手の損害を請求されない)」ということを意味します。
このことについて,誤解されている方はほとんどいません。
では,何が誤解かというと,「過失5:5」→「もちわかれ(自損自弁)となる」というのが,誤解なのです。
確かに,単純に考えれば,「過失が5:5の『お互いさま』なら,賠償請求も双方ともしない『お互いさま』でよいではないか」となります。
しかし,現実は,前回のコラム「交通事故の基礎知識~過失割合(1)~」で説明したとおり,過失割合は,双方に発生した損害の総額を過失割合に応じて配分するという役目を果たします。
ですので,結果として,過失割合が「5:5」のお互いさまであったとしても,損害賠償の処理は,損害額が大きい方に対し,損害額が小さいほうが,支払うということとなります。
(例1)
自身に発生した損害額 100万円
相手に発生した損害額 30万円
自身の過失割合 50%
相手の過失割合 50%
自身の負担する損害額
(100万円+30万円)×0.5=65万円
相手の負担する損害額
(100万円+30万円)×0.5=65万円
つまり,自身も相手も65万円を持参し,130万円を作る。(これが『お互いさま』)
そのうえで,各損害分を振り分け,自身は100万円を取得し,相手は30万円を取得する。
したがって,最初から,相殺をすると,自身が相手から35万円(100万円-65万円)をもらうという
形で処理する。
すなわち,損害が多く発生した自身は,相手から35万円をもらうということになります。
ただ,これは,結局の話,自身は損害として別途100万円負担することとなるので,
相殺してしまうと,双方の負担額は65万円となり,これがすなわち,過失割合5:5の
「お互いさま」ということです。
もし,この場合で,相手への支払い分を,保険を利用して支払うとすると,次のとおりとなります。
自身が相手からもらえる賠償額
100万円×(1-0.5)=50万円
自身が相手に支払う賠償額
30万円×0.5 =15万円
(例2)
自身に発生した損害額 100万円
相手に発生した損害額 30万円
では,逆に,上の例で,「もちわかれ(自損自弁)」となるのは,過失割合がどのようなケースでしょうか。
自身の負担する損害額(以下のxは自身の過失割合)
(100万円+30万円)× x =100万円
相手の負担する損害額
(100万円+30万円)×(1-x)=30万円
もちわかれというのは,自身に発生した損害を自分が負担するということですから,
自身から見れば,100万円を負担するということになりますので,
上記計算をすれば,過失割合を逆算することができます。
結論として,
x = 100万円/ (100万円+30万円)
= 73.9 %
細かくなりましたが,損害額が上記の事例では,過失割合が,おおよその数字で
「74:26」の場合になって 初めて,「もちわかれ」となります。
(例3)
自身に発生した損害額 500万円
相手に発生した損害額 30万円
高級車の場合,ひとつひとつの部品代も高価で,そんなに損傷していないと思われる場合でも,
修理費等が高額にかかり,損害額が大きくなる場合があります。
そして,その損害が上記のとおりとなったとしましょう。
ここで,過失が5:5の場合の結論は以下のとおりです(わかりやすいように,保険利用として
書きます)。
自身が相手からもらえる賠償額
500万円×(1-0.5)=250万円
自身が相手に支払う賠償額
30万円×0.5 = 15万円
逆にいうと,相手は,過失が5:5でも,差し引きすると,235万円を払う必要があります。
次に,過失が9:1と,圧倒的に自身が悪い場合を想定してみますと,結論は次のとおりとなります。
自身が相手からもらえる賠償額
500万円×(1-0.9) = 50万円
自身が相手に支払う賠償額
30万円×0.9 = 27万円
逆にいうと,相手は,自分の過失が1割しかないにもかかわらず,差し引きすると,
23万円を払う必要があります。
このあたりは,なかなか腑に落ちないとは思いますが,これが現実なのです。
やはり,保険会社の宣伝ではありませんが,任意保険は必ず入っておかないと怖いですね。
次は,このように大切な「過失割合」がどのように決定されるのかにつき,説明いたします。
(続く)