注意義務違反~予見可能性と回避義務~(2)交通事故での具体例(予見可能性につき)
交通事故の過失でよく言われるのが,「動いている以上,過失はある(ゼロではない)」です。
つまり,「被害者」が「自分は十分に注意して運転していたから自分に過失があるはずはない」と考えて,「自分に過失があるなら,指摘してほしい」と主張しても,相手になっている保険会社が言うのは,「追突以外の事故態様では,動いている以上,過失はある(ゼロではない)」という言葉です。
この保険会社の対応は,「自分の過失を指摘してくれ。」と言っている被害者の問いに対して答えていないものです。
また,裁判になった場合,被害者が動いていても「被害者の過失はない」とされた裁判例は,私もいくつも経験しています。
すなわち,被害者に過失が認められるには,「予見義務」と「回避可能性」が必要で,そのどちらかが認められない場合は,「被害者の過失はない」と判断される場合も多々あるのです。
そして,「予見義務」とは,「相手がこういうような動きをする可能性があるから,注意してこちらはこのような動きをしないといけない」と予見する義務です。
一方,「回避可能性」とは文字通り,「事故を回避できた可能性があるかどうか」ということです。
ただ,以上の「予見義務」と「回避可能性」は,「被害者の過失を認定する方向で」かなり厳しく判断されるので,実際には,なかなか「過失がない」とされる場合は少ないというのが,正確なところです。
よって,「動いている以上,過失はある(ゼロではない)」というのは,そのような判断がされる可能性が高いが,「動いていても過失はない」と判断される場合も少ないながらあるというのが結論です。
しかし,保険会社は,追突以外は「動いている被害者の過失はない」とは認めませんので,結局,「被害者が動いていても過失はない」と認めてもらうには,裁判所で認めてもらうしかないということになるかと思います。