日本版DBS第2回 どの事業者が対象になるのか
日本版DBSは、子どもに対する性暴力を防ぐ目的で作られました。しかし、これだけで子どもに対する性暴力が防げるわけではありません。ここではこの制度の、今のところの限界を考えます。
特定性犯罪事実該当者チェックの限界
網の目
まず、特定性犯罪事実該当者が、性犯罪で刑罰を受けた人に限られます。ということは、保護観察や少年院送致を受けた人は入っていないということです。また、親告罪の時代に被害者と和解して告訴を取り下げられた人も入っていません。つまり、特定性犯罪事実該当者のチェックだけでは、性犯罪をした人を排除することはできません。ですので、網の目をかいくぐって入ってくる人もいるということです。
初犯者
また、特定性犯罪事実該当者でなくても、今まで子どもに対する性暴力をしなかった人が初めて暴力に至るケースもあるということです。
性犯罪の「おそれ」がある人を完全に排除することができないのです。ですので、この特定性犯罪事実該当者のチェックで事足りると考えるのは、大変危険です。相談体制、早期発見、研修や制度作りなど、子どもに対する性暴力を防ぐ体制づくりが不可欠です。
治療・カウンセリングを受けた者をどう評価するか
拘禁刑
先日、懲役刑や禁錮刑などが廃止され、拘禁刑が新設されました。拘禁刑は、受刑者の社会復帰に必要な改善指導をすることができるとされています。性犯罪者に対しても、それ専門のプログラムが作られ実行されています。
民間のプログラム
民間の医療機関やNPO法人などでも、性犯罪者の更生プログラムが行われています。
どう評価するか
性犯罪者を対象とする処遇プログラムについては、再犯リスクを低下させる一定の効果が報告されています。ただし、プログラムを受講したことだけで、個々人の再犯リスクが低いと判断できるわけではありませんし、法やガイドラインでは、治療や更生プログラムを受けたことを「おそれ」の判断にどのように反映させるかについて、具体的な基準は示されていません。
そのため、治療や更生に取り組んできた人を、対象業務以外の就労や社会復帰にどのようにつなげるかが課題になります。現行制度では、治療や更生プログラムの受講を「おそれ」の判断にどのように反映させるかが十分明確にされていません。実際、特定性犯罪事実該当者でありすでに対象業務に従事し成果を上げている人はおられるだろうと思います。子どもの安全確保を最優先としつつ、治療や更生の取組をどのように評価し、対象業務以外の就労や社会復帰につなげるかは、今後も検討が必要な課題です。
余談です。対象業務は、教員や保育士など専門性が高いものが多く、学校で特別な教育を受けて若いころからその仕事ばかりやってきた人が多くいます。ほかの仕事の経験もスキルのあまりない、つまり「つぶしがきかない」こともあります。対象業務以外の就労機会を得られず社会的に孤立することは、本人の社会復帰という観点からも望ましくありません。リスキリングや職業訓練、職業紹介など、そういった人たちを対象業務ではない業務についてもらえるような支援が必要だと思います。
この制度は、「おそれ」がある人を子どもの前に立たせないことを目的としており、社会から排除することを目的としていません。もちろん、法にはそこまでの規定はありませんが、会社の取り組みにとどまらず、社会全体で考えていかなければならないと思います。
医療機関
一般の病院や診療所は、小児科や児童精神科であっても、現行法の対象事業者には含まれていません。一方、衆参両院の附帯決議では、医療機関を対象事業とすることについても検討するよう求められています。医療機関における子どもの性被害防止は、今後の検討課題となっています。
性暴力は暴力の一つです。子どもに対する性暴力対策は、子どもに対するあらゆる暴力を否定するその一環として考えるべきものです。次世代を担う子どもを健全に育成するのは、特定事業でなくてもすべての大人たちの義務だと考えます。子どもを傷つける権利は、どんな大人にもありません。今こそ、大人たちの姿勢が問われています。


