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佐々木保幸

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佐々木保幸(ささきやすゆき) / 税理士

税理士法人 洛

コラム

定額残業制での運用

2015年11月22日

テーマ:社会保険

コラムカテゴリ:ビジネス

“残業代込み”=定額残業制という支払い方法自体は違法ではありません。しかし、これが認められるためのハードルは高く、違法とされない運用に留意する必要があります。口頭での労使の合意だけでは、まず認められません。

定額残業制が適法であるには次のの要件を満たす必要があります。
〇何時間分の残業代に相当するのか定められている。
〇残業代に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されている。
定額残業代が他の賃金と明確に区別されていない運用は違法です。「基本給・手当に含まれている」というような運用は通用しません。就業規則や雇用契約書で「基本給に〇時間分の割増賃金を含める」などの必要な取り決めや、給与明細に基本給とは別の項目で支給されているなどの運用を行うことが重要です。

〇実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超えた場合には、その差額がしはらわれている。
実際の残業時間が定額残業代相当分を超えればその差額分は支払う必要があります。

会社からみれば、残業が少ない月は定額なので働いていない分も余計に払い、さらに残業が定額相当部分を越えたら超えたで差額を支払うことになり、定額残業代は会社にとって本来賃金コストを上昇させる制度といえます。
実情は、会社が残業代を毎月定額でで支給するのは、現在支給している給与の中から残業代を捻出したい、表面上の月額給与の総支給額を多くしたいということのようです。これらは従業員にとって不利益であり、方法を誤れば従業員の帰属意識やモチベーションに大きなマイナス作用を及ぼすことにもなりかねないということになります。
現在の総支給額のうち、いくらかを定額残業代として設定するのであれば、当然に従業員一人ひとりの同意書をとらなければならないでしょう。
定額残業代を大きくして表面上の総支給額を高くしても、実態を知る労働者にとっては、帰属意識やモチベーションは低下するのは明らかでしょう定額残業代を大きく設定する会社は、「うちの会社はブラックだ」と宣言しているようなものになってしまうことにも。

最も留意すべきなのは、月額給与のうちでの定額残業代の比率です。定額残業代が月額給与の半分にも及ぶような設定ですと、いくら労使で合意しているとしても法的な有効性を否認されるリスクが生じます。
定額残業代の適切な額は残業時間20~30時間分とすることが最も望ましく、残業代圧縮、人件費管理に加え、リスク管理面から考えても最もメリットのある運用といえるのではないでしょうか。多くても月45時間分以内に抑えるべきであると思います。

未払い残業代請求への対抗策については「これをやれば100%大丈夫」という方法論はありません。有効だと思われる対応策を、複合的に組み合わせ、リスク軽減を図っていく必要があります。ここで重要なのが就業規則です。
就業規則は、労務管理に関するすべての事項を網羅でき、、適正に作成し運用することにより、全従業員に一律に適用することができます。就業規則に織り込みことで、さまざまなな未払い残業代請求への対抗策を、包括的に労働契約の内容として法的な強制力を持たせることができます。
未払い残業代請求に対して会社の主張で多いのが、「残業代込みで払っていた」、「勝手に残業していた」、「管理監督者なので残業代はいらないはずだ」などというもの。残念ながら、これらの主張は、ほとんど認められないと考えた方がよいのですが、就業規則を適正に作成し運用していれば、これらの主張が認められ、残業代請求に対抗できることにもなります。
実務上は、就業規則や雇用契約書にて「基本給に〇時間分の割増賃金を含める」などの必要な取り決めや、給与明細に基本給とは別の項目で支給されているなどの運用を行うことにより、定額残業制が有効になります。

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