里親会での講演「思春期・反抗期の子どもとの接し方」

長谷川満

長谷川満

テーマ:教育・人権講演会

 6月17日(金)はキセラ川西プラザで北摂・丹波地区の里親(さとおや)さん約30名に向けて講演しました。
 テーマは「思春期・反抗期の子どもとの接し方」





 里親さんとは、さまざまな事情で家族と離れて暮らす子どもを、自分の家庭に迎え入れ、温かい愛情と正しい理解を持って養育してくださっている方たちです。里親さんのもとで暮らすお子さんたちを里子(さとご)さんと言います。

 

憎しみの泥の中で苦しんでいる子どもを救うには


 ある女性の家庭教師の先生が小学校5年生の女の子のところに指導に行かれた時のお話しです。

 ずーっと家の奥の庭からカーン、カーンて金槌で釘を打つような音がしています。

 「何してたん?」と先生が尋ねると。

 「先生、人を本気で憎んだことあるか?」
 「えっ?」
 「先生には分からへんわ。先生、いじめられたことないやろ。」
 
 この先生、実は中学校の時にきついイジメを受けて不登校になられた過去がありました。それで「先生かて中学ん時にいじめられて、それで学校に行けんようになって・・、だから〇〇ちゃんの気持ちかてわかるよ。何かあったん?」

 するとその子がワーって泣き出して、ずっといじめられていて辛かったこと、いじめてくる子が憎くて人型に切った紙にその子の名前を書いて釘を打ち付けていたことを話してくれました。

 「そっかー・・、辛かったなー。気持ちわかるでー。でもな、人を憎んでみても自分の心が汚くなるばっかりやで。なんでいじめてくる子のために自分の心を汚さなあかんの。先生もいじめてくる子のことを憎く思ったこともあったけど、そんな人のために自分の心が真っ黒に汚れるのは馬鹿らしいやん。」

 その子は泣きながら「うん、うん」て分かってくれたそうです。

 僕はこの話を直接、その先生から聞いたとき本当にこの先生がこの子の担当でよかったなあと思いました。
 「先生、人を本気で憎んだことあるか?」
 この問いかけは重い問いかけですね。
 それを良い悪いではなく「気持ちわかるでー」と共感していく。
 それは勇気のいることです。

 真っ黒な憎しみの感情の泥の中で喘いでいる子がいれば、その泥の中に自分も入ってその子と一緒にもがき苦しみながらそこから這い出してゆく。
 これを共苦共悲と申します。
 共に苦しみ、共に悲しむ。
 あなた一人を苦しませない、悲しませないという意味です。
 仏教の言葉です。

 
 

苦しみの本質は孤独にある


 苦しみというのは孤独だから苦しいんですね。
 貧乏でも、周りがみんな豊かに暮らしているのに自分とこだけお金なかったら苦しいですけど、周りもみんな貧乏やったら自分とこが貧乏やっても全然明るく楽しく生きていけます。

 問題は悩みそのものというより、そこから生まれる孤独感こそが人を苦しめ、追い詰めてしまうんですね。
 
 私たちにとって大切なことは、子どもたちの孤独にどう寄り添っていけるかということです。
 子どもは自分の孤独や苦しみを自分から言うことはあまりありません。
 言っても分かってもらえるとは思ってないし、言いたくもないのです。
 

問題行動はその子の孤独や苦しみの表現である

 言わない代わりに、自分の孤独や苦しみを問題行動として表現しています。
 「試し行動」てありますね。
 あれは別の言い方をすれば「あなたは私の孤独や苦しみを受けとめてくれるのですか。この私の苦しみを共に分かち合ってくれるのですか。」という問いかけでもあるのです。

 不登校でも、学校に行くことに何らかの不安があるから子どもは行けないわけです。そんなとき「ゆっくり休んだらいい。」と言ってあげることは子どもの不安を代わりに背負うことになります。「あなた一人を不安にさせない。あなたの不安を一緒に持ってあげる。」ということです。

 そして共に苦しむという段階を越えた先にこそ「共に笑い合う」幸せが待っています。
 その希望を失わず、信じ続けること、許し続けること。それが愛だと思います。

 

問題行動の背景には「自己肯定感の欠如」がある


 子どもたちの問題行動の背景には「自己肯定感の欠如」があります。
 自己肯定感とは「自分はそのままで愛され、喜ばれ、価値のある人間であるという自分自身に対する信頼感」のことです。わかりやすく言えば「そのままの自分でOKだ」と思えることです。
 この自己肯定感が前向きに生きる意欲を引き出し、主体的・積極的に物事に取り組む力となります。
 逆にこの自己肯定感が欠如すると不安感や不信感が強くなり、引きこもりや心の病、様々な問題行動の原因となります。
 この自己肯定感を高める方法は2つあります。




 

自己肯定感を高める2つの方法

 一つ目は挫折した時や失敗した時、人に迷惑をかけた時などに「こんな自分なのに助けてもらった、支えてもらった」と感じる時です。

 二つ目は自分を表現した時にそれを受け止めてもらえたと感じる時です。
 自分の本当の気持ちを話したら共感してもらえた。理解してもらえた。
 問題行動もその子なりの気持ちの表現と捉えるなら、それを受け止めることも自己肯定感を高めます。

 

勉強しない子には「共感する」で上手くいく


 勉強に対してやる気のない子に「勉強しなさい」と言ったり、勉強の大事さを説教しても全部無駄なんです。じゃあどうすれば良いか。

 共感するんです。

 子どもが嬉しいと思うことを一緒に喜ぶ、楽しいと思うことを一緒に楽しむということです。
 その子が好きなゲームで一緒に遊んだり、そのゲームの話で盛り上がったりしていると自然に勉強するようになる子がいます。

 人は共感してもらえると癒され、前向きな気持ちになります。この前向きな気持ちが学習意欲につながります。

 「不安」の共感にも同じ効果があります。

 不安な気持ちを共感してもらえた。そう感じると安心できて前向きな気持ちになれるのです。

 子どものやる気というのは「気持ちをわかってもらえた」というところにあります。
 

「連立方程式て社会に出て使う?」

 この間も教えていた子が「先生、こんな連立方程式って社会に出て使う?使わへんやろ?」て聞いてきました。
 「そやなー。使わへんなー。」
 「じゃあ、なんで勉強せなあかんの?」
 「なんでやろなー。なんでや思う?」
 「うーん・・。テストに出るからかなあ・・」
 「そうや。テストに出るからやわ。高校入試にもよく出てるよ。」
 「嫌やなあ・・」
 「先生、家庭教師やからわかりやすく教えたるやん。」
 そんな会話がありました。

 そしてまた別の日、その子が「先生、今日、勉強やりたない。」
 「えっ。やりたないん?なんで?」
 「ダルいから。今日は勉強したくない。」
 「そうか・・。ダルいからか。
  めっちゃシンプルな理由やなー。
  そういうシンプルな理由大好きやわ。」
 「先生、わかってくれる?」
 「わかるよ。人を好きになる理由と同じや。」
 「そうそう。それと一緒。」
 そんな話をしてたら急に「せっかく先生来てもらってるから、やっぱり勉強するわ。お金勿体無いし。」と言って勉強に入れました。

 そしてその子は「テストが近いから今日は休憩なしで教えて」と勉強に意欲を見せるようになりました。
 
 「勉強しなさい」とは一言も言っていません。なのに自然に勉強するようになる。これが共感の力です。
 この共感の力を使って子どもの思春期を乗り切っていくことが大切です。



 

思春期の子どもの特徴とその接し方

 

 

いい親子関係とはいい思い出がいっぱいあること

 思春期においても「いい親子関係」を築くにはどうすればいいか。
 いい親子関係とはわかりやすく言えば、子どもにとっていい思い出がいっぱいある親子関係です。だから子どもにとって嬉しい思い出をたくさん作ることが大切です。

 子どもにとって嬉しい思い出というのは、誕生日のケーキや遊園地に行ったとかだけではありません。
 不登校の僕を何も言わずに信じて待っていてくれたとか、僕が悪いことした時に謝まりに行ってくれたのに僕のこと怒らへんかったとか、10点のテスト持って帰った時に「あんたは勉強以外にええとこいっぱいあるから大丈夫や」と言うてくれたとか、そんなんも全部いい思い出です。
 でも子どもにとって本当にいい思い出というのは何気ない日常の、一緒にご飯作ったり、それを美味しいと言い合って食べたり、一緒にテレビを見て笑ったり・・、なんですね。そんな日常のささやかな楽しさの積み重ねこそ本当は一番大事なんです。

 

不登校、発達障がい傾向のある生徒への援助




 不登校も発達障がいもその子以外は直せません。
 親も先生もお医者様も家庭教師も直せません。
 でもその子だけは直せます。
 その子が自分の意思で不登校を克服することはできるし、発達障がいにおける困り事においてもその子が本気でそれを改善しようと努力すれば克服することはできます。そんな子をたくさん見てきました。
 意思の力は偉大です。
 私たち親や教師にとって大切なのは、子どもたちが前向きな気持ちになれるよう精神的環境を整えてあげることです。
 それが「安心させてあげる」であり「苦しい時は逃げてもいい」であり、「叱らない」「受け入れる」なのです。
 
 

弱さという贈りもの


 最後に詩「弱さという贈りもの」を朗読して講演を締めくくりました。

 



 講演後、質疑応答がありました。
 活発に質問が出てとても濃い学びの時間となりました。
 みなさん、熱心に聞いてくださいました。
 ありがとうございます。
 主催者様のご厚意で拙著「あなたも子どももそのままでいい」(税込500円)のサイン販売もさせていただきました。





        < リンク >

 
 教育講演・人権講演のテーマや内容、お問い合わせについては
 http://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/64075/

 講演会の講演依頼.com|長谷川満 プロフィールページ
 https://www.kouenirai.com/profile/3820

 子どもさんの学習の悩み・家庭教師のご相談は
 http://www.hariat.co.jp/ksg/
 


      < 最近行った講演会 >

 2022年11月 福岡県PTA連合会南筑後ブロック研修会
 「自信とやる気を引き出すプラスの問いかけ」
 https://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/5124364/

 2022年11月 三重県私立学校保護者会連合会研修会
 「自信と意欲を引き出すプラスの問いかけ」
 https://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/5124151/

 2022年11月 舞鶴市立青葉中学校区PTA連絡協議会人権講演会
 「自信とやる気を引き出すプラスの問いかけ」
 https://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/5123967/

 2022年11月 高砂市立荒井中学校
 「自分の可能性を開く7つの問いかけ」
 https://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/5123130/

 2022年11月 和歌山県橋本市立清水小学校
 「自信とやる気を引き出すプラスの問いかけ」
 https://mbp-japan.com/hyogo/hasegawa/column/5122986/

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

長谷川満
専門家

長谷川満(家庭教師)

家庭教師システム学院

発達障がいや不登校の子の意欲を引き出すには自己肯定感を高める必要があります。その子のありのままを受容し、信頼関係を築き、成功体験と褒め言葉で自信と意欲を引き出します。

長谷川満プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

子どもの自信とやる気を引き出す教育のプロ

長谷川満プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼