不登校における親の勝負どころ 〜その一言が言えない〜
6年生(上)の教科書『風切るつばさ』
アネハヅルのクルルはいつも体の弱いカララをかばい、えさを分けてやっていた。
ある日、彼らの群れは狐に襲われ、一羽の幼い命が奪われる。
その夜、幼い命を死なせてしまったやり場のない怒りや悔しさから狐に気づかれたのはクルルがカララにえさをやるために羽ばたいたからだと誰かが言い出した。
皆もそれに同調した。
その時からクルルは、まるで仲間殺しの犯人のようにあつかわれるようになった。
誰一人、かれの味方はいない。カララでさえ、黙ってみんなの中に交じっている。
皆、彼に背を向け、口を聞くものさえ誰もいない。クルルの気持ちなど誰一人分かろうとしなかったのだ。
友達も仲間も何もかもが信じられない。
たった一羽でいるしかなくなった、みじめな自分。
クルルはそんな自分を責めた。
風の中を飛ぶ、自分の翼の音すら、みっともない雑音に聞こえる。
「どうして言い返さなかったんだ、皆とうまく出来ない自分が悔しい。自分の顔、自分の足、自分のつばさ、みんな嫌だ。」
クルルはみんなと飛ぶのが辛くなってきた。
ある朝、クルルは飛べなくなっていた。いつもの様に羽ばたいているのに、体が舞いあがらないのだ。
クルルはただじっと、草原の片隅にうずくまるしかなかった。
冬が近づいてくる。
冬のモンゴルの草原は零下五十度の寒さにおそわれる。
その前に、アネハヅルの群れはヒマラヤ山脈をこえてインドに渡って行くのだ。
冬を前にして、飛べなくなったツルは死ぬしかない。
でもクルルにはそんな事どうでもよくなっていた。
えさを食べず、ただじっとうずくまっている事だけが、
最後のプライドを保つ唯一の方法に思えた。
やがてツルの群れが、南に渡っていくのが見えた。
第二、第三の群れも渡り始める。
白い雪がちらほらと舞い始めたときだ。
クルルの目に、南から舞い降りてくる一羽の鳥が見えた。
カララだ。
カララは何も言わずにクルルの隣に降り立った。
クルルは、もしカララが「さぁ、一緒に行こう!」と言ったら例え飛べたとしても、首を横に振るつもりだった。
「俺なんか、いらないだろう。」とも言うつもりだった・・・。
でも、カララは何も言わなかった。
ただじっと隣にいて、南に渡っていく群れを一緒に見つめていた。
日に日に寒さがましてくる。
(こいつ、覚悟しているんだ・・・。)
クルルの心が少しずつ解けていく気がした・・・
(そうか!俺が飛ばないとこいつも・・・!!)と思った、その時!
いきなりしげみからキツネが現れた!
するどい歯が光り、カララに飛び掛る・・・!
「あぶない!!」
その瞬間、クルルはカララを突き飛ばす様に羽ばたいた。
カララはそれを合図に飛び上がった!
「あっ・・・・・・。」
気が付くと、クルルの体も空に舞い上がっていた。
目標を失ったキツネが、悔しそうに空を見上げている。
「俺・・・飛んでる!!」
クルルは思わず叫んだ。
力いっぱい羽ばたくと、風の中を体がぐんぐんと上っていく。
風を切るつばさの音が、ここちよいリズムで体いっぱいに響きわたった。
「わたれるぞ!これならあのそびえ立った山を越えることが出来るぞ!」
カララが振り向いて、
「一緒に行ってくれるかい?」
といった。
「もちろんさ!」
クルルは、少し照れて笑って見せた。
二羽のアネハズルは、最後の群れを追うように南へ向かった。
翼を大きく羽ばたかせどこまでもどこまでも・・・・・・
(おわり)
これはまるで不登校の子どもの物語のようです。
飛べなくなったクルルのもとにカララは降り立ちます。
「さぁ、一緒に行こう!」と言われたなら
たとえ飛べたとしてもクルルは行くつもりはありませんでした。
でも、カララは何も言わず、ただそばにいるだけでした。
クルルが行かないのなら自分も行かない。
助けようとするのではなく、最後まで共にあろうとする。
相手を変えようとしない。
むしろ自分を捨てていく。
そこには本当の信実があります。
カララの真心があります。
今自分がこうしてあるのはクルルのお蔭だ。
僕はみんながクルルを無視したとき、
助けることができなかった・・
そんな自分のまま生きていくのか。
そのクルルを見捨てて生きていくくらいなら
クルルと一緒にこの地で死のう。
カララにとってはきっと
クルルを救うとか、そんなことではない。
これはカララ自身の問題だ。
自分の問題だ。
自分がどうありたいか、どうあろうとするのか
そういう問題だったのだ。
不登校も子どもが学校に行くようにと
子どもを変えようとするのではなく
自分の問題ととらえ、
自分はどうありたいのか、どうあろうとするのかと
問いの矛先を自分に向きかえ
信実を持って、真心を持って
子どもに向き合うとき、自分自身を生きるとき
きっと道は開けるのだと思う。
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