第6回:お客様は“待っていても来ない”

「今日はお客様が少ないなあ……。」
店舗で働いていると、そんな日があります。
天気が悪いから。
給料日前だから。
近くでイベントがないから。
景気が悪いから。
理由はいくらでも考えられます。
私自身、店長時代には、お客様が来ない店内で入口を眺めながら、
「そろそろお客様が来ないかな。」
と思ったことが何度もあります。
しかし、ある時から考え方が変わりました。
待っているだけでは、お客様は来ない。
お客様が来ないのであれば、
「なぜ来ないのか?」
だけではなく、
「どうすれば来ていただけるのか?」
を考える。
これが、店舗マーケティングのスタートだと私は考えています。
良い店なら、お客様は来てくれる?
「良い商品を揃えている。」
「接客には自信がある。」
「価格も他店に負けていない。」
だから、お客様は来てくれる。
残念ながら、それだけでは十分ではありません。
どれほど良い商品やサービスを用意していても、その存在をお客様が知らなければ来店にはつながりません。
著書『新米店長の道しるべ』でも、マーケティングについて、
「あなたの店は認知されていない」
「お客様は待っていても来ない」
というテーマを取り上げています。
これは私自身が長年の店舗運営の中で痛感してきたことでもあります。
私たちは毎日自分の店で働いています。
毎日看板を見ています。
毎日商品を見ています。
そのため、つい、
「この地域の人なら、うちの店を知っているだろう。」
と思ってしまいます。
しかし、それは店側の思い込みかもしれません。
お客様からすれば、数多くある店舗の一つにすぎないのです。
マーケティングは「売ること」だけではない
マーケティングという言葉を聞くと、
広告を出す。
SNSで発信する。
チラシを配る。
キャンペーンを行う。
そんな販促活動を思い浮かべる方も多いと思います。
もちろん、それらもマーケティングです。
しかし私は、もっとシンプルに考えています。
「お客様に、この店へ行ってみようと思っていただくこと。」
これも立派なマーケティングです。
そのためには、お客様の立場になって、
「なぜ、この店へ行くのか?」
を考えなければなりません。
「来店動機」をつくる
私は店舗運営の中で、来店動機という言葉をとても大切にしてきました。
お客様が店へ来るには、必ず何らかの理由があります。
「あの商品が欲しい。」
「あの料理が食べたい。」
「安くなっているから行ってみよう。」
「店員さんに相談したい。」
「子どもを連れて行きやすい。」
「あの店なら安心できる。」
理由は人によって違います。
ここで店長が考えるべきなのは、
「自分の店には、お客様が来たくなる理由がいくつあるだろう?」
ということです。
一つしかなければ、その理由がなくなった瞬間に来店されなくなる可能性があります。
だから、来店動機を増やしていく。
これも店長の重要な仕事です。
常連客も「ずっと来てくれる」とは限らない
店舗運営で怖いのは、
「うちには常連さんがいるから大丈夫。」
と思ってしまうことです。
私も長い店舗経験の中で、多くの常連のお客様と出会ってきました。
毎日のように来てくださる方。
スタッフの名前まで覚えてくださる方。
「いつもの」と注文してくださる方。
本当にありがたい存在です。
しかし、常連のお客様が永遠に来店してくださる保証はありません。
引っ越されるかもしれません。
生活環境が変わるかもしれません。
競合店ができるかもしれません。
あるいは、ほんの小さな接客への不満から足が遠のくこともあります。
だから私は、
「常連客を大切にしながら、新しいお客様との出会いもつくり続ける。」
この両方が必要だと考えています。
店の外にも目を向ける
店長になると、どうしても店内の仕事に追われます。
シフト。
発注。
売上管理。
スタッフ教育。
クレーム対応。
気がつけば、一日中店内にいることもあります。
しかし、マーケティングを考えるのであれば、時には店の外へ出てみることも大切です。
自分の店は外からどう見えるのか。
看板は見えるのか。
入りやすい雰囲気なのか。
近くにはどんな店があるのか。
どんな人が歩いているのか。
競合店にはなぜお客様が入っているのか。
実際に歩いてみると、店内からでは気づかなかったことがたくさん見えてきます。
マーケティングの答えは、パソコンの中だけにあるのではありません。
現場にもたくさん落ちています。
SNSもチラシも「手段」でしかない
今なら、
「集客ならSNSでしょう。」
という意見もあるでしょう。
SNSは非常に有効なツールです。
しかし、
Instagramを始めればお客様が来る、というほど単純ではありません。
チラシも同じです。
ホームページも同じです。
ポイントカードも同じです。
これらはすべて手段です。
大切なのは、
「誰に来てほしいのか。」
「なぜ来てほしいのか。」
「来店すると、どんな価値があるのか。」
を最初に考えることです。
目的が曖昧なままSNSを始めても、「投稿すること」が目的になってしまいます。
マーケティングは、ツールから考えるのではなく、お客様から考える。
私はこれが基本だと思っています。
店長は「今日の売上」と「明日の売上」をつくる
店長は今日来店されたお客様に満足していただかなければなりません。
これは当然です。
しかし、もう一つ仕事があります。
明日のお客様をつくることです。
今日のお客様に、
「また来たい。」
と思っていただく。
まだ来店したことのない方に、
「一度行ってみよう。」
と思っていただく。
今日の営業をしながら、明日の来店理由をつくる。
この視点を持てるようになると、店長の仕事は「店舗管理」から「店舗経営」へと変わっていきます。
今日からできる実践ポイント
・「お客様が来ない」と嘆く前に、来店する理由を考える。
・自分の店の来店動機を5つ書き出してみる。
・常連客だけに頼らず、新規のお客様との接点をつくる。
・月に一度は店の外から自店舗を見てみる。
・SNSやチラシを始める前に、「誰に・何を・なぜ伝えるのか」を決める。
お客様は、待っているだけでは来てくれません。
だからといって、無理に売り込む必要もありません。
大切なのは、
「この店に行ってみたい。」
と思っていただける理由を、一つずつ増やしていくことです。
それが店舗マーケティングであり、店長の大切な仕事の一つだと私は考えています。
そして、来店していただいた後に、
「来て良かった。」
「また来たい。」
と思っていただく。
集客と接客は、別々のものではありません。
この二つがつながった時、お店には少しずつお客様が積み重なっていきます。
次回、第7回は、
「SNSよりリアルマーケティングを重視せよ」
をテーマにお話しします。
SNS全盛の時代だからこそ、なぜ私は「現場」「接客」「人と人とのつながり」を重視するのか。
SNSを否定するのではなく、デジタルとリアルをどう組み合わせればいいのかを、現場経験をもとに考えていきます。
本連載について
本連載は、私の著書『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』をベースに、現場で新たに得た経験や生成AI時代のマネジメント・マーケティングの視点を加えながら再構成しています。20年以上にわたる店舗運営の経験が、店長やリーダー、経営者の皆さまの実践に少しでもお役に立てれば幸いです。
著書紹介
『新米店長の道しるべ―16年の失敗と成功から学ぶ』では、20年以上の店舗運営と16年間の店長経験をもとに、現場で培ったマネジメントやマーケティングの考え方を実例とともに紹介しています。理論だけではなく、実際の失敗や成功から得た「現場で使える知恵」をまとめた一冊です。
新米店長の道しるべ16年の失敗と成功から学ぶ
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