最後に勝つのはポジティブ! ー心を強くする理論と実践ー

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:心が辛くなったとき

最後に勝つのはポジティブ! ー心を強くする理論と実践ー

ポジティブか、ネガティブか。快感情か、不快感情か。
どちらかというと後者の方が強いイメージありますよね。
それはネガティブ/不快感情のインパクトがあまりに強すぎるために印象に残りやすいだけなのです。
では自分では何が出来るか。
それは「最終的にポジティブ/快感情が勝つ」ために、自分を整えて応援することです。
今回は4つの理論を通じて、「最後にポジティブが勝つ」ことをご説明します。


1.ポジティブな行動から生まれた感情は長続きする


まず1つ目は「ポジティブな行動から生まれた感情は長続きする」ことで、ネガティブに勝つ、という理論です。
これは心理学では「内発的動機づけ」と呼びます。

「内発的動機づけとは内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態のこと。動機づけの要因は金銭や食べ物、名誉など、外から与えられる外的報酬に基づかないものを指す。社会心理学者のデジによれば、内発的動機付けには有能感と自己決定感が強く影響するという。つまり人は、仕事をする中で「能力を発揮できている」という感覚がある時、また、「自分自身で目的を定め、計画を立て、実行している」という感覚があるときに、内発的動機を得やすいといえる」


自分自身がそもそも持っている興味・関心・意欲・楽しみ・快楽などが火付け役になるモチベーションのことです。
更に言えば自分の価値観・自分軸・ポリシー・信条などが後押しすることで、そのモチベーションはより一層強固で揺るがないものになります。

例えば電車で自分の前に高齢者が立っていたとき。
席を譲るか譲らないかは、最終的には自分が決めるものだと思います。道徳的な判断は一旦置いておきます。

どうしようかな、と迷っているとき、「ここで迷い続けるほうが疲れる。だったら譲ってドア付近に移動したほうが気分的に楽になれる」と考えて譲ったとします。
相手に感謝されるかどうかは、この場合関係ありません。
譲ったのは感謝されるためでも賞賛されるためでもない、「どうしようか迷い続けてメンタル消耗するより、ゆっくり本を読める状態になりたい」という、自分の欲求に従っただけです。

となると、どうでしょうか。
好きな本に集中出来て楽しかったし、うだうだ悩む時間が短くて済んでホッとしたし、他人の評価(感謝・賞賛など)に左右されずに行動出来た自分に自信が持てます。
「座ってゆっくり本を読みながら帰りたかったのに、それが出来なかった」というネガティブ感情よりも、判断・行動出来た自分への快感情のほうがずっと長く心に残ります。



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2.ポジティビティ・バイアスで経験からパワーをもらう


2つ目は「ポジティビティ・バイアス」です。
あまり聞き慣れない言葉かもしれません。「バイアス」とは「傾向」「偏り」という意味です。

人は、何かを思い出すときに、自分にとって良かったこと・楽しかったこと・快を感じたこと・成功体験をより鮮明に、肯定的に思い出す傾向がある、というものです。

ポジティビティ・バイアスを引き起こすのは、2つの仕組みがあります。

1つは進化的視点です。
人類は進化する過程で、ポジティブ感情を保持して、それを元に行動することで生存や繁栄に貢献してきた、と考えられます。
これはそのままモチベーション、動機づけと考えられますよね。
何か困難なこと、未経験なことに挑戦しなくてはいけないなら、それを後押しするために過去の成功体験やポジティブな記憶を引っ張り出して自分で自分を鼓舞する必要があります。
長い人類の進化の過程で、先祖たちもずっとそれを繰り返してきました。その学習結果が、今の私たちに形として現れているのです。

もう1つは防衛機制です。防衛機制とはフロイトが提唱した理論で、不快な感情を弱めたり避けたりすることで精神的な安定を保つために、無意識的に起こる心の働きのことです。
有名なものは反動形成、置き換え、知性化、退行などがあります。
ポジティビティ・バイアスも、ネガティブな感情によってストレスを受けたり不安が高まり過ぎることから自分を守るための防衛機制の一種と考えられます。
ポジティビティ・バイアスにより、ポジティブ・肯定的な出来事や感情のほうへ重点を置くことで、状況がネガティブであっても前向きに乗り切ることができるよう、自己評価ややる気を守るための心の仕組みといえるでしょう。

ポジティビティ・バイアスは、過去を振り返るときに活用しやすいです。
例えば家族で旅行へ行ったとします。観光シーズンだったので道路が渋滞していて予定の倍ほどもかかってやっとホテルに到着しました。疲れはてて元々予定していた観光スポット巡りは出来ませんでしたが、その日はホテルの部屋で家族でトランプをして夜中まで楽しく過ごせました。
その時のトラブルで困った体験、そして後から楽しい時間を過ごした思い出を共有できたことで、家族にとっては普段の旅行よりも強く印象付けられることでしょう。
渋滞で難儀した不快感情は、ここではあまり問題にならず、むしろ笑い話にすらなっているかもしれません。



3.ブロードン・アンド・ビルド理論とは?(選択肢×行動力)


3つ目は「ブロードン・アンド・ビルド理論」です。先ほどのポジティビティ・バイアス同様、あまり聞かない言葉かもしれません。
ブロードンとは「拡張」、ビルドとは「構築」という意味です。
つまりポジティブ感情を意識して広げて、それによって自分の心理的・社会的なリソースを構築し、長期的に幸福や心身の健康に役立てられるでしょう、という考え方です。

まずはブロードン、「拡張」です。
ポジティブな感情を感じた時、人は思考や行動の幅を広げることが出来ます。
「楽しい!」「出来た!」「好きだな」と思ったときは、それが失敗するかも、とかあまり考えずにどんどん取り組んでいきますよね。あの感覚です。

それにより、

◆創造性が向上する
◆思考が柔軟になり、多角的に物事を見ることができる
◆他者と積極的にコミュニケーションを取れるようになる

という効果が期待できます。
これによって、選択肢を増やすことが出来ます。

次はビルド、「構築」です。
ポジティブ感情は、長い目で効果を測る必要があります。
ネガティブ感情は瞬発力があります。それは自分を身の危険から守るためです。危機が終わったらお役目終了なので、さっさと手放せばいいのです。
ポジティブ感情の多くは一見地味です。遠赤外線のストーブがじわじわと体を温めてくれるように、効果を感じるまでに時間がかかります。そして長続きします。手放す必要もありません。

ポジティブな感情によって広がった選択肢が、それ以前にはなかった行動を生んでくれます。
分かりやすく言うと「ノリでやった」みたいな感覚ですね。

そしてそれによって

◆心理的資源である「自己効力感」「レジリエンス」が高まる
◆信頼できる友人や家族との絆が強化する
◆ストレスが軽減し、免疫機能が向上することで健康になる

ことが期待できます。
心理的・社会的・生理的な土台が構築されるので、QOL(生活の質)が向上するのです。

先ほどネガティブ感情の役割は危機回避とお話しました。同じくポジティブ感情の役割は「創造性と柔軟性の促進」です。ポジティブな感情でリラックスし余計な力みが抜けた自然な状態をキープ出来、自分本来の能力を発揮しやすくなるのです。



4.最後にポジティブを決定づけるのはレジリエンス


4つ目はレジリエンス、「心の回復力」です。

何か出来事に対してネガティブな思考や感情に囚われた後、心はそこから回復しようとします。指で押されたゴムボールが元の形へ戻ろうとするようなイメージです。

レジリエンスはどんな人にも備わっています。普段はあまり意識していないかもしれません。
会社で上司から叱責されて落ち込んだとき、同僚と一緒に飲みに行ったら元気になった、という場合、同僚とのコミュニケーションやお酒は「回復手段」であって、実際に元気になったのは自分のレジリエンスが発揮されたからです。

ポジティブな感情(喜び、感謝、興奮、希望など)は、レジリエンスを強化する上で重要な役割を果たします。
具体的に言うと、ポジティブな感情は以下のような方法でレジリエンスを高めます。

◆ストレスからの早期回復
ポジティブな感情は、ストレスや不安の影響を軽減し、心身の回復を促進します。たとえば、困難な状況に直面しても、ポジティブな感情を持つ人は、不快な感情を経験した後でも早く元の状態に戻ることができます。これは、ポジティブな感情がストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑え、リラックス反応を促進するためです。

◆資源の構築
先ほどの「ブロードン・アンド・ビルド理論」と重なりますが、ポジティブな感情は個人の心理的、社会的、物理的資源を長期的に構築することに貢献します。
これにより、未来のストレスや困難に対処するための備えができ、結果的にレジリエンスが高まります。例えば、ポジティブな感情を持つことで、他者との強い社会的つながりを築きやすくなり、そのつながりが支援のネットワークとなります。

◆柔軟性の向上
ポジティブな感情は、思考や行動の幅を広げ、柔軟でクリエイティブな問題解決が可能になります。柔軟な思考は、困難な状況に直面した際に、多様な解決策を見つけ出し、状況に適応する力を高めます。

◆長期的な視点の維持
ポジティブな感情は、未来に対する希望や楽観的な視点を保つことを助けます。これにより、困難な状況が一時的なものであるという認識が強まり、逆境に対処する際のモチベーションが維持されます。

◆心身の健康への影響
ポジティブな感情は、心身の健康に対しても直接的な影響を持ちます。例えば、ポジティブな感情は免疫機能を高め、心血管系の健康を促進し、全体的な寿命の延長にも寄与します。これにより、長期的に困難な状況に対処するための基盤が整います。

つまりポジティブ感情によってストレスに対応しやすくなり、自身が安定的に生活する土台を構築し、思考や行動が柔軟になり、長期的な視点を持つことが出来、心身が健康になることでレジリエンスが向上します。
ポジティブな感情は、レジリエンスを更に促進し効果を高めることが出来るのです。



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5.不快感情への対処もポジティブの持続には不可欠


ここまでポジティブ感情がどのようにネガティブ感情に勝るのか、について4つの心理学理論からご説明しました。
ここまででもポジティブ感情の力を信じていただけたかと思いますが、さらにもう一点大事なポイントをお伝えします。

それは不快感情への対処方法です。つまりセルフケアです。

不快感情やネガティブ思考は自分を危険から守るための信号のような役割を果たします。危機が通過したり収まればそのまま消えてくれるはずのものですが、必要なくなってもずっと黄色信号が心の中で点滅し続けることがあります。
それがネガティブ感情の厄介なところです。

ポジティブ感情によって次第に弱まっていくことも期待できますが、更に確実にネガティブ感情を低減するためには積極的にセルフケアを行うことをお勧めします。

具体的には以下のような取り組みを試してください。

◆自分の感情(特にネガティブ、不快)を受け入れる
ジャーナリングが特におすすめです。
今感じているネガティブ感情について、5分間、思いついたことをどんどんノートに書きだしてください。5分立つまで続けます。書き続けることでその感情に対し自分がどう思っているか、どうしたいのか、などが明確になります。

◆リラクゼーション
深呼吸が手軽でお勧めです。
椅子に座るか横になった状態で、鼻から吸う(5秒)→息を止める(5秒)→口から吐く(8秒以上)というタームを何度か繰り返します。トータルで3~5分程度実施することで、不快感情によって緊張していた心身がリラックスし、自律神経が副交感神経に切り替わります。中立的な視点からネガティブ思考と向き合うことができるようになります。

◆運動、ストレッチ
ネガティブ思考や感情は頭脳を使いますよね。その逆の体を使う作業に集中しましょう。
お勧めはウォーキングです。時間さえあれば誰でもどこでも出来ます。会社にいるなら、エレベーターではなく階段を使って上り下りしましょう。一つ手前の駅で降りて歩いて帰宅するという方法もあります。
体が疲れればお腹が空きます。しっかり食べてたくさん寝れば、寝ている間に昼間の思考や情報を脳が整理してくれて、朝にはスッキリしているはずです。

◆セルフコンパッション
コンパッションとは「慈悲」のことです。自分を慈しみ、優しく扱うことです。
ネガティブ感情に支配されていると、自分に対して激しくダメ出し・批判を繰り返してしまいます。しかしそれは百害あって一利無しです。ただただ自分への自信を失っていくだけです。
家族や親友など、大切な誰かを想定しながら、心の中で自分に声掛けします。
「辛かったね」「頑張ったね」「もう大丈夫だよ」「ゆっくり休んでね」と繰り返すことで、ネガティブ感情への恐怖心が弱まります。

◆趣味に没頭する
趣味、推し、好物といったものはセルフケアにこそ最大限力を発揮してくれます。
何でもいいのです、プチプチをつぶすと楽しいならどんどん潰せばいいし、ゲームが楽しければ余暇を全部ゲームに費やしましょう。
楽しいことや趣味は、自分の特技や強みと直結しています。悩むことなく集中して取り組むことでドーパミンの分泌が促進されてストレスが低減します。更に自分への自信回復にも繋がります。

これらを1回ではなく毎日の習慣として取り入れましょう。

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6.今日からできるポジティブ感情トレーニング


では最後に、今日からできるポジティブ感情促進トレーニングをご紹介します。

まず1つ目は「体を動かす」です。
運動は、ストレス軽減、エネルギーレベルの向上、自己効力感の増加など、ポジティブな感情を引き出す効果があることが多くの研究で示されています。

◆日常的な軽い運動:30分程度のウォーキング、就寝前10分のストレッチなど
◆週2~3回程度の中程度の運動:ジョギング、サイクリング、ダンスなど
◆マインドフルネスと運動のミックス:ウォーキングしながらマインドフルネス瞑想をする、など

運動が苦手な人ほど、いきなりマラソンの練習に取り組んでしまったりしますが、やり過ぎはストレス増、ネガティブ感情強化につながりやすいです。
自分に無理が無い内容・レベルから始める、そしてそれを習慣化することがポイントです。

2つ目は「ポジティブな人と交流する」です。
「ミラーニューロン」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。これは他人の感情や行動を観察することで、自分自身に似た感情や行動を引き起こす神経細胞のことです。
ポジティブな人と交流することで、手っ取り早く自分にもポジティブ感情を引き起こすことが可能になります。

例えば

◆ポジティブな関係を築いている家族や友人と時間を共有する
◆趣味や好きなことのグループに参加する
◆誰かに感謝の手紙を書く
◆オンラインでのポジティブな交流を試す
◆メンターやカウンセラーとの交流でポジティブなフィードバックをもらう

といった取り組みが考えられるでしょう。

3つ目は「ポジティブなセルフトーク」です。
セルフトークとは自己対話、つまり自分自身と心の中で行う会話のことです。
意識しなければ、心の中で自分に対してネガティブな言葉ばかり投げつけてしまいがちです。まるで「どれだけ殴ればこの壁は壊れるのか」と挑戦するかのように激しい言葉を投げ続けることもあるでしょう。ただしそれは強度を確認する以前に本当に壊れてしまう恐れのほうが高いです。

セルフトークは、自分の思考や感情に大きな影響を与えます。
ポジティブな会話をすることで、視点が転換・拡大し、思考が柔軟になります。ストレスが緩和して心が安定し、セロトニンの分泌促進が期待できます。

具体的には、次のような対策がおすすめです。

◆朝起きた時にポジティブなイメージを喚起する
例:今日は良い1日になる、など
◆ネガティブなセルフトークを書き出して、ひっくり返してみる
例:また失敗した→経験値が上がった、など
◆ポジティブなセルフトークを見える場所に掲示する
例:スマホ待ち受けに「自分を信じる」と書いた画像を設定する

意識的にポジティブな言葉を自分に向けて語りかけることで、自己評価を高め、ストレスを軽減し、前向きな感情を維持することができます。



7.まとめ


①内発的動機づけを活用し、行動から感情を長つづきさせる
②そもそも備わっているポジティブな偏見を活用する
③ポジティブ感情を活用して選択肢と行動力を広げる
④レジリエンスを育ててポジティブ感情を強化する
⑤ネガティブ感情をセルフケアで更に低減させる
⑥運動・コミュニケーション・セルフトークで自分のペースでトレーニングしよう



ポジティブな感情は、突然降ってわいてくるものではありません。
その気配を感じたら、今回ご紹介したテクニックを使ってしっかり捕まえて育てていきましょう。
意図的にポジティブな感情を強化させることができるようになれば、危機状況で急上昇したネガティブ感情が暴走することを防ぎ、長期的視野で自分の幸福や目標達成に貢献する行動を増やすことができるようになります。

今自分がやっていることは自分にとって利益になることだ、と信じられることこそが、最大のポジティブ感情のメリットといえるでしょう。


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西岡惠美子(カウンセラー)

惠然庵(けいぜんあん)

私自身がケアラー(病人のケア、療養サポートをする人)です。自身の経験と専門知識による「メンタルケアラーカウンセリング」でケアラーのサポートと成長、家族支援を行います。

西岡惠美子プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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