「負けるが勝ち」のうつ家族生活
復帰へのスムーズな道のり
うつ病が少しずつ回復してくると、一気に「治った」と思って失敗する、を繰り返してしまいます。
それは本人だけでなく家族も同様です。ずっと心配や不安を抱えていたからこそ反動が出ます。
うつ病の回復期とはどんな状態でしょうか。その後も続く再発予防も含めて考える必要があります。
職場に戻る・戻らないの判断に縛られず、家族自身の意見も含め、広い視野から今後を考える視点を持ちましょう。
1.うつ病回復期とは、不安定さが大きく出る時期
①気分が安定し、エネルギーや興味関心が回復する
一定期間の療養と薬の効果によって、当初の落ち込みは軽減されて行きます。
一つには療養することを受け入れたことも大きいでしょう。慣れもあると思います。
例えば会社員が病気を理由に休職すると、家に居るのに会社時間(会議、昼休憩、退社時間)を意識してゆっくり休めなかったりします。
それが解除されて、好きに起きて好きに過ごして好きに寝るサイクルに意識が馴染み始めると、家に居ること=休養としての効果が表れてきます。
落ち込む方向へ心のエネルギーが消耗されることが減っていくと、少しずつ以前のように周囲への関心や楽しみが復活してきます。
うつ病当初、病的にゲームに没頭するような方が多いですが、それとは違い、気分転換のように楽しむことが出来るようになってきます。
②復帰への焦りが強くなる
心のエネルギーが回復して周囲に意識が向くようになれば、自然と「自分はどうすればいいんだろう」と考える余裕も生まれてきます。
しかしうつ病になるような方は元来が生真面目ですから、一足飛びに「早く復帰しなければ」と考えてしまいがちです。
たまたま今日体調が良かっただけなのに「もう大丈夫だから」と会社に連絡してしまうこともあるでしょう。
しかし実際に復帰期日が確定すると、それはそれでプレッシャーがかかってまたストレスを溜めてしまうことも少なくありません。
気分の上下が激しくなるため、自分自身でもよくなってるのか変わってないのか分からず、それが不安定さにもつながってしまうのです。
③自己評価の低さは急性期と大きく変わらない
うつ病の症状(気分の落ち込み、集中力低下、強烈な疲労感)は少しずつ軽減していきますが、だからと言って損なわれた自己評価も自動的に回復するわけではありません。
体調がよくなっているように見えたからと言って「あなたならもう大丈夫」と即座に励ましにつなげることは避けましょう。
2.うつ病回復期に必要な治療とサポート
①医薬治療、心理療法、生活習慣の見直しは急性期同様に継続
回復期に入ったからと言ってそれまでやって来たことを大きく変える必要はありません。
むしろこれまでやって来たことが功を奏したから回復期に入ることが出来たのですから、そのまま慎重に継続しましょう。
②回復度合いにそったリハビリテーション
急性期の療養期間は人によって異なりますが、1~3ヶ月程度は誰でも必要です。
それだけの間家からほとんど出ることなく過ごしていれば、どんな人でも体力が落ちます。
そしてメンタルが安定しても体力が落ちたままでは復帰後またすぐ体調を崩したりうつを再発する恐れがあります。
また、うつ病の人が体力づくりに精力的に取り組むことも出来ません。回復しつつあるとはいえ安定にはまだ遠いのです。
急性期と比較し、プラスαの活動を取り入れていく必要があります。
ここでも「無理は禁物」です。
③症状を考慮した自己管理方法の模索
一般的にうつ病など精神疾患に対して「完治」という言葉は使いません。「寛解」状態を目指します。
うつ病における寛解とは、症状の大幅な改善や軽減が見られ、日常生活において患者が通常の活動や社会参加を再開できる状態を指します。
つまり、うつ病を経験した、という要素を新たに追加した状態で、その再発を予防しながら社会生活へ戻る、ということです。
うつ病になる前と同じやり方で自己管理をしていたのでは、早晩症状が再発するでしょう。
- 何をしたらストレスを感じるか
- どんな環境だと体調が悪化するか
- 何をすることで悪化した症状が軽減するか
は人それぞれなので、自分自身で把握しておく必要があります。
3.うつ病回復期に家族が担う役割
①生活習慣の見直しは引き続きサポート
上述したように、急性期に取り組んだ内容が効果を発揮したことで回復期を迎えることが出来たのですから、取り組みはそのまま継続する必要があります。
家族がメインで行うサポートは「生活習慣の見直し」です。
寝ることも食べることも起き上がることもままならなかった急性期初期と比較すれば、回復期には出来ることが増えているでしょう。
しかし社会生活に戻ることを想定すると万全ではないはずです。
回復期はその過渡期です。変化していく時期です。
目指す状態=社会復帰できるレベルまでどうやって可能な限りスムーズに移行させるか、がポイントになります。
②リハビリテーションに一緒に取り組む
引き続き本人の生活の場は家の中です。一緒に過ごすことが多いのは当然ながら家族ですので、生活の中でリハビリを取り組むなら一緒にやった方が効率的です。
うつ病回復期に取り組むと効果的なリハビリは、以下の3点です。
- ストレス管理方法を見直す
- 感情の調整方法を考える
- コミュニケーションスキルを見直す
一番大切で難しいのは「感情の調整方法」でしょう。
恐らく今までは感情を押し殺したり我慢したり捻じ曲げたりすることの連続だったのではないでしょうか。
それにより自分自身の本音を見失い、どうしたらいいかが分からなくなって、病気になるまで状態が悪いことに気が付けなくなってしまっていたのです。
ですので、我慢する以外の調整方法を見出す必要があります。
ポイントは
- 自分が今どんな感情を一番強く感じているか、を認識する
- 一番強い感情を分類する(不安、怒り、恐怖、焦り、恥など)
- その感情は他者に伝える必要の有無を考える
- 一旦抑えたとしたら、後で表出する方法を作る(文章化する、誰かに話す、創作活動など)
などです。
③復帰についての相談相手になる
社会復帰自体はまだ先の話です。回復期は平均して3~6ヶ月です。
ただし、ある程度時期を見極めたり、方向性を話し合っておくことで安心感が生まれ、家族の間で協働体制を作ることが出来ます。
本人の「こうしたい」があるのはもちろん、その内容によっては家族も何らかの意思表示や準備が必要になるかもしれません。
相手の状態や話題に合わせて「これからどうしたいか」の会話を日常的に繰り返していきましょう。
4.家族は疲労が蓄積してくる時期
①自分のケアと家族ケアの割合を見直す
少しずつ回復してくる本人とは反比例するように、家族側には疲労がたまってくる時期でもあります。
回復してきたことに安心して緊張が解けることもあるでしょう。緊張感が軽減することは良いことです。緊張状態が続けば確実に心の健康を損ないます。
うつ病本人が急性期よりは元気を取り戻しつつあるなら、今度は自分のケアも意識しましょう。
恐らく急性期は、相手のケア90%:自分のケア10%位だったのではないでしょうか。
その割合を、70:30→60:40、のように少しずつ変えていきましょう。
相手へのケアの割合を下げるということは、本人が自分でやることが増えるということです。
それがそのまま家の中でのリハビリテーションに繋がります。
②本人の「やりたい」に任せて役割を増やす
リハビリに限らず、何かに取り組むとき一番強力な原動力は「やりたい」です。モチベーションや動機付けとも言います。
やらなきゃいけない、やるべきだ、というものも原動力になりえますが、程度に気をつけなければストレスを増やすことにもつながります。
些細なことでも本人が「やりたい」と言ったものは任せてみましょう。
内容によっては「まだ無理じゃないのかな」と思うものもあるかもしれません。
無理めなものに挑戦する
↓
失敗する
↓
落ち込む
↓
またしばらく何も出来なくなるのでは
というサイクルが家族には見えてしまうため、つい「まだやめておけば?」と言いたくなりますが、そこはあえて放置して見守ってみましょう。
やりたいと思ったことを実行出来た、家族もそれを受け入れた、という事実のほうが、リハビリという意味では価値があります。
③ストレスから回復を焦らせないよう注意する
急性期の療養サポートは本当に大変です。心身共にエネルギーを消耗します。
早くその状態から解放されたいと思いますよね。
うつ療養のケアから解放されるためにはどうすればいいか、と考えると、どうしても「元気になってもらう」ことに帰結します。
その思いが、回復や社会復帰を必要以上に追い立てることにならないよう注意しましょう。
「もっと早くどうにかなって欲しい」と考えたら、その気持ちの矛先をうつ病本人ではなく他所へ向けましょう。
お金の問題なら市役所や親族へ相談しましょう。
自分の疲労が限界だと感じたら、正直に伝えて1,2日好きに過ごさせてもらいましょう。
将来のキャリアが心配なら、それも専門機関に相談することで軽減出来ます。
5.回復期後半から復帰へ向けた準備を始める
①まずは主治医の意見を聞く
うつ病の回復が、そのまま社会復帰とも限りません。
本人も家族もかなり元気になってきていると思っても、まずは主治医の意見を聞きましょう。
例えば抑うつ状態(思考の鈍化、気分の落ち込み、集中力低下など)が良くなってきていても、もしかしたら抗うつ薬を最大量服用しているおかげかもしれません。
それが悪いのではなく、抗うつ薬には少なからず副作用がありますから、いつまでもMAX飲み続けることは体にも負担です。
服薬の調整を含め、主治医が今の状態をどう判断するか、を聞きましょう。
②勤務先の復職支援制度を確認する
うつ病で休職する流れまでは大抵どこの会社も同じです。
しかし休職→職場復帰と通常勤務へ戻るまでのフローは会社によって千差万別です。
所謂「ならし出勤」的な段階から徐々に戻してくれる職場がベストですが、そうした手順を踏まずいきなり休職前と同じ働き方を要求してくる会社もあります。
復帰先となる勤務先がどのような支援をしてくれるかを確認しましょう。
③リワークプログラムの活用
リワークプログラムとは、主に医療機関が提供する復職支援プログラムです。
『リワークとは、return to workの略語です。 気分障害などの精神疾患を原因として休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(リワーク)を実施する機関で行われているプログラムです。 復職支援プログラムや職場復帰支援プログラムともいいます』(日本うつ病リワーク協会)
実際に職場に復帰するためには、主治医の許可→産業医の意見→職場責任者の判断が必要になります。
この時に「どこまで回復出来ているか」を一番明確に表明できるのは患者本人です。
リワークプログラムを活用することで、家の中以外で過ごす時間が増え、体力や活力の回復を実感することが出来ます。
自分の活動量を具体的に把握できていれば、復帰時の相談や提案もしやすくなります。
④今までの職場に戻るだけが復帰ではない
元の職場に戻って働けるようになることが一番スムーズですし安心です。
環境の変化はうつ病ではなくてもストレスの原因になりますから、慣れた環境(元の職場)は安心出来る環境とも言えます。
しかし、うつ病になった原因がその職場にあるなら、果たしてそこへ戻ることが長い目で見て正解といえるか、は疑問です。
私の夫も当初うつ病で休職しました。家の近くに転院した時の主治医が、
『仕事の過労とストレスでうつになったんでしょ?またその職場に戻るの?うつになった原因は全部解消されてるの?そうじゃないならまたうつになるよ』
と言ってくれたおかげで一気に気持ちが楽になりました。
それまでは夫は「またあの職場に戻らなきゃいけないんだ」というプレッシャーで、どこか後ろ向きになっていたからです。
本人は職場への義理立てや情もあり、冷静に判断出来ないかもしれません。
家族は、出来るだけたくさんの選択肢を提示しましょう。
その中で最善と思えるものを選ぶよう努めましょう。
6.うつ病回復期に家族が心がけること 3選
①生活リズムを昼型へ戻すサポート
一番基本的で一番難しいのが睡眠のタイミングです。
うつ病ではなくても宵っ張りな習慣がつけば中々元へ戻せませんよね。病気ならば尚更です。
朝は「寝てるだろうな」と思っても声をかける、食事をとってもらう、自分まで一緒に夜更かししない、など、昼型生活を家庭の基本に据えましょう。
②体力を戻すサポート
1日中寝ていた人は1日中起きているだけでもしんどいです。
だからつい横になってしまいますが、1時間も2時間も昼寝をしてしまっては夜眠れなくなって①も阻害されます。
本人が出来そうな範囲の用事を頼んだりして、日中起きている時間を伸ばしましょう。疲れたら夜9時ごろ寝てしまっていいのです。
長時間、例えば朝9時~夜9時まで起きていることを目標にするのでも十分です。
それが出来るようになったら、メンタル状態に合わせて外へ出ることも提案していきましょう。
③家に常に誰かいる状態が「当たり前」になっていないか?
これは家族側の認識の問題です。
休職してうつ療養をしている、ということは、1日中誰かが家に居る状態です。
これはそうでないときと比べると、実はかなり便利な状態です。
鍵の閉め忘れや火の元の確認が不要です。
家に誰かいるから空き巣の心配もありません。
宅急便も受け取ってくれます。
何より、1日中家にいるのだから、想定外の事態でうつが悪化するのでは、という心配もありません
これが今だけの一時的な状態に過ぎないことを、家族も了解しておきましょう。
7.まとめ
①うつ病回復期は良くも悪くも不安定
②うつ病回復期は急性期と同じ治療を続けつつ「動き」を作っていく
③うつ病回復期には、家族は復帰についての相談相手になる
④家族は反比例して疲労がたまってくるので注意
⑤回復期後半は復帰へ向けた準備を本格化する
⑥家族は「療養生活が当たり前」になっていないかを振り返る
じっと見守っているしかなかった急性期と比べると、回復期は家族のやることも増えていきます。
家族が出来ることが増えた、ということは、それだけ回復度合いが高まっているということでもあります。
もちろんこの不安定で慎重さを必要とする時期を、本人と家族だけで乗り切るのは難しいでしょう。
主治医をはじめ、精神保健の専門家やカウンセラーなど、相談出来る相手にはどんどん頼って、自分の負担やストレスを軽くしていきましょう。
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