メンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)とは

西岡惠美子

西岡惠美子

テーマ:社会保障制度・障害者支援


「メンタルヘルス・ファーストエイド」という言葉をご存じでしょうか。
心の危機状態への応急処置のことです。

心の病が増える中、家族や同僚、傍にいる人の症状悪化に接する場面も増えていくでしょう。その時まず最初に何をしたらいいか、を示してくれています。

今回はメンタルヘルス・ファーストエイドの、職場・家庭で出来ることについてまとめました。

1.メンタルヘルス・ファーストエイドの定義

「メンタルヘルス・ファーストエイドは、メンタルヘルスの問題が起きている人、既存の精神疾患の悪化を経験している人、あるいはメンタルヘルスの危機的状況を経験している人へ提供される支援です。ファーストエイドは適切な専門的支援を受けるまで、あるいは危機的状況が解決するまで提供されます。
メンタルヘルス・ファーストエイドは、たいていはメンタルヘルスの専門家ではなく、むしろその人の社会的つながりの中にある人(たとえば、家族や友人、職場の同僚)、あるいは対人サービス職従事者(たとえば教師や景観、職業紹介所の職員)によって提供されます」
(「メンタルヘルス・ファーストエイド: こころの応急処置マニュアルとその活用」)


メンタルヘルスの問題が起きている人に対して必要な援助は色々あります。
まずは医学的治療、そして休養、心理的援助、リハビリテーションなどが考えられます。休養以外はどれも専門家によって提供されるものです。
しかし問題が起きてすぐにそれに気づいて専門機関に繋がれる人ばかりではありません。むしろそうした人は少ないでしょう。

そこに到達するまでの間傍にいる人が必要なサポートを出来ることで、予後(病気の経過と回復の継続)が変わってきます。

専門家ではないけれど本人のそばにいる重要な人が、メンタルヘルスに関する初期対応を心得ておくことで、本人だけでなく傍にいるひとも必要以上の不安や動揺を抱えることなく問題に対処することが出来るのです。

2.メンタルヘルス・ファーストエイドの5原則


メンタルヘルス・ファーストエイドを実施するときのポイントは5つあります。それぞれ1文字ずつとって「りはあさる」と呼んでいます。

<メンタルヘルス・ファーストエイドのアクションプラン(行動計画)>
【1】声をかけ、リスクを評価し、その場でできる支援を始めましょう ⇒「リスク評価」の「り」
【2】決めつけず、批判せずに話を聞き、コミュニケーションを取りましょう ⇒「はなしをよく聞く」の「は」
【3】安心につながる支援と情報を提供しましょう ⇒「あんしんにつながる支援と情報」の「あ」
【4】専門家のサポートを受けるよう勧めましょう ⇒「専門家のサポート」の「さ」
【5】セルフヘルプやその他のサポートを勧めましょう ⇒「セルフヘルプ」の「る」




声かけは、簡単なようで難しいです。心配していても、その人との関係性によっても変わってきます。まずは「辛いことに気づいているよ、心配しているよ」というこちら側の意思が伝わるような声かけを心がけましょう。

批判せずに話を聞く、というのは意外と難しいです。何故なら聞いている側も人間で、意見も考えも感情もあるからです。良い悪い・正しい間違っている、などの判断をしたくなるかもしれません。しかしメンタルヘルス・ファーストエイドにおいてはそれをあえて引っ込めて、聞くことに徹しましょう。

支援と情報の提供はハードルが高いかもしれません。詳細な情報まで知っている必要はありません。まずは心療内科、会社の医務室、役所の福祉課など、最初の窓口になりそうな機関について伝えられれば十分だと思います。

専門家のサポートを推奨するのも、相手の状態によっては難しいかもしれません。「病院に行ったほうがいいよ」と言われてすぐに動ける人のほうが稀だからです。家族なら「一緒に行こう」と提案したり、友人・同僚なら「○○さんも同じような感じだったけど、病院でお薬もらって楽になったらしいよ」と事例を使って促すほうが、聞く側の抵抗感も和らぐでしょう。

セルフヘルプとは。自分でできるケア方法です。メンタルヘルスに問題が起きている人は、人として基本となる睡眠と食事に支障が出ています。まずはゆっくり眠れるような方法を一緒に考えてあげると助けになるでしょう。

3.「りはあさる」の具体例


メンタルヘルス・ファーストエイドの出番は、多くは職場と家庭だと思います。
それぞれで出来る「りはあさる」の具体例を考えてみました。

①家庭編

家族は本人よりもメンタルヘルスの変調に気づきやすいかもしれません。しかし近い関係である分、何かおかしいと思っても不安が先に立って「気のせいかもしれない」と見過ごしてしまうことも多いです。

り:普段通りの声かけは継続しましょう。見捨てない、放置していない、何かあれば話を聞くからね、という態度を続けましょう。
は:メンタルヘルスに問題がある人にとって、家族による否認や拒否、批判は何より辛いです。偏見や思い込みを除外して本人の話を最後まで聞きましょう。
あ:支援につながる情報と言っても種々雑多で一般の人には判別が出来ません。まずは家族が窓口に行って情報を得てくる、というのもいいでしょう。
さ:専門医や専門機関へ繋げるときは可能な限り同行を申し出ましょう。最初の1回だけでも、その日は時間を作って「一緒に行くから行ってみよう」と背中を押しましょう。
る:本人がセルフヘルプ出来ない状態に至っていることも少なくありません。家族は治すことはできないので、必要最低限の生活、つまり睡眠と食事のケアに絞って手伝いましょう。

②職場編

仕事上関わっている、というのは、本人にとっても周囲にとっても、メンタルヘルスに対してどこまで踏み込んでいいのか判断が難しいです。
しかし仕事に関するサポートは職場の人にしか出来ません。

り:メンタルヘルスに問題が起きると、まず勤怠が崩れます。以前に比べて欠勤、遅刻が増えたら、それを黄色信号と捉えて声をかけてあげましょう。共通の上長に相談する、という方法もあります。
は:職場の人が聞くとしたら、やはり仕事に関する相談だと思います。今抱えている仕事への不安、人間関係についてなど、職場の人にしか話せない内容です。すぐに解決策を提示出来なくてもOKです。全部聞いてあげてください。
あ:ある程度の規模の会社なら、産業医が常駐しています。人事部などに問い合わせて産業医に相談しましょう。
さ:産業医につなぐことが出来れば、本人のメンタルヘルスについてはそちらに任せられます。あとは同僚として、その人の業務を今後どうするか、を職場として考える必要があります。
る:職場におけるセルフヘルプとしては、回復まで最低でも残業・休日出勤はしないで済むような態勢を相談出来るといいでしょう。

4.まとめ:ファーストエイドのその先は?

メンタルヘルス・ファーストエイドは、メンタルヘルスの問題に対する初期対応です。
ケースによってさまざまですが、大体は発症から6カ月くらいを指すでしょう。



その後は、医学的治療、十分な休養期間と体制、リハビリテーション、社会復帰、という流れになり、休養以外は専門家の手が必要です。
メンタルヘルス・ファーストエイドを担わなければいけない立場の人が最後まで責任を持とう、とする必要は全くありません。

専門機関に繋がることが出来れば、その後は、特に家族は傍にいることが役割です。
そして傍にいる人、ケアラーにはケアラー特有の悩みやストレスが生まれます。
本人を専門機関につなげられたら、その後はケアラー自身のケアも忘れないようにして欲しいと思います。

≪参考文献≫
「メンタルヘルス・ファーストエイド: こころの応急処置マニュアルとその活用」
(ベティー・キッチナー (著), アンソニー・ジョーム (著), クレア・ケリー (著), 大塚 耕太郎 (編集), 加藤 隆弘 (編集), メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパン (翻訳))、創元社

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