働き方:コロナ後の個人と会社の関係の変化:変化に対応できる人になるために

小川芳夫

小川芳夫

テーマ:働き方

このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。

新型コロナウイルスの感染拡大が、従業員個人と会社との関係を変化させています。しかもスピードを上げて。
このコラムでは、コロナ後に予想される変化を従業員個人の視点で捉え、従業員個人としてこの変化に対応するために、とるべき選択肢について考えます


下記の3つの章で構成します。7分程度で読める量です。




私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。

ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。


1. 従業員個人と会社の関係の変化

2021年1月11日号の日経ビジネスの特集は、コロナ後の会社 人と組織の覚醒でした。
個人と会社の組織の関係を考える特集です。

コロナ前例えば2019年の年末時点までは、「固定」「集合・集中」「恒常」を軸とする会社だったものが、コロナの流行により、「単発」「分散」「臨時」への変化が起きそうだとしています。

例えば、従業員の個人事業主化

電通は一部の正社員を業務委託契約に切り替え、「個人事業主」として働いてもらう制度を2021年1月から始めたそうです。
(参照:『電通の“社員の個人事業主化”に応募殺到 社員の反応は?』)社員の反応は『会社は100名程度の応募を見込んでいたようなのに、フタを開ければ実際はその倍以上。コロナ禍で広告市況は低迷し、給料増も期待できないなか、いま会社を辞めれば早期退職で加算金を受け取れ、10年間は固定報酬も保証される。さらに起業のチャンスまである。生涯賃金を計算したら、あらビックリ、新制度の適用を受けたほうが得だよ、と判断した人が多かった』とのことです。

個人事業主化はタニタも2017年1月から実施しています。(参照:『タニタで、正社員から個人事業主に転換したスタッフの年収がいきなり40%もUPした理由』

別の例は、ジョブ型や成果主義への変化です。

三菱ケミカルは、2021年4月から事前に職務内容を定めて成果で処遇する人事制度を、非管理職の一般社員にも導入すると発表しました。
(参照:『三菱ケミカル、成果主義を全面に 一般社員にも導入』
同社は、自らのキャリアに主体性を持てない人が新しい仕事を開発していけるのかとの危機感を持ち、会社と従業員が互いに選び、活かしあう関係、ともに成長していくカルチャーを作りたいと志向しているそうです。(参照:『「抜擢」は時代遅れ 三菱ケミカルが挑むジョブ型改革』

日経ビジネスのムック本『2021徹底予測』には、『働き方の変化 変われるか?日本型雇用 働き方ニューノーマル』という特集があり、富士通、三菱ケミカル、KDDI、リコー、キリンホールディングス、カルビー、メタウォーター、ユニリーバ・ジャパン、ソフトバンク、カゴメなどが出ていました。ジョブ型や成果主義は加速する感じです。

さて、「単発」「分散」「臨時」への変化の具体例を見てみましょう。一言で言うなら「必要なタイミングで必要な人材を使う」ということだと思います。

社内人材募集制度のある会社にお勤めの方もおられると思います。この社内人材募集制度をもっとアジャイル (機敏)にして、例えば、プロジェクト単位での有期の人材募集ということではないか、と私は思います。あるいは、社内副業のような形で必要な人材を必要な時に使うという感じだと思います。ギグワーカーっぽいスタイルと言えるかもしれません。

これを可能にするためには、個々の従業員のスキルとスキルレベルが見える化されている事が必要です。そうすれば、必要なタイミングで必要なスキルレベルを持った人材を活用できる可能性があります。可能性と書いたのは、必ずしもその人がその時忙しくて、別の仕事はできないという場合があるので、そのように書きました。

さて、従業員の立場から見ると、これは厳しい環境でしょうか?

確かに、求められるスキルのスキルレベルが高い人ほど重用されそうにも見えます。一方、今でもチーム内で「○◯さん、悪いんだけど、優先度の高い□□が入っちゃったので、今やっている仕事を一時中断して、□□をやってくれないかなぁ」などというようなことは良くあるのではないでしょうか?チーム内で起きていることを、全社に拡張すると考えたら?こう考えると、あまり違和感はないかもしれません。

ただし、上の段落に書いたスキルとスキルレベルの見える化がなされていること。そうした個人情報を保存しているデータベースがあって、ある権限を持った人はそのデータベースにアクセスできること。これが必須になってくると思います。さらに言うと、△△という仕事を遂行するのに必要なスキルの集合(スキルセット)も定義されていることも求められると思います。(参照:『組織力強化:スキルマトリックスとスキルレベル:スキルについて考える』


2. マインドを変える

2020年、コロナが全世界に流行した時 McKinsey & Companyが2020年6月26日に ”Ready, set, go: Reinventing the organization for speed in the post-COVID-19 era” という記事を出しました。私はこの記事をファシリテーターの観点から考察し、『組織力強化:迅速に組織変革する9つの方法:ファシリテーターの観点で考察する』 というコラムを書きました。

マッキンゼーの記事には、従業員は指示待ちではなく、課題を解決できるスキルとマインドセットを持たなくてはいけない、と書いてあります。原文は、"Employees must also be equipped with the right skills and mindsets to solve problems, instead of waiting to be told what to do." です。
多数ではないと私は感じますが、欧米にも指示待ちの人はいるのです。今でもいるか否かはわかりません。淘汰されてしまったかもしれません。

メンバーシップ型で長年働いてきた方には、大変な変化かもしれません。
大変な変化。「大変だ、どうしよう」と捉える方もいらっしゃるでしょう。一方、「大変という言葉は、大きな変化という意味だと捉え、この変化に対応してみよう」と考える方もいらっしゃると思います。
この変化に抗うという選択肢もあるでしょう。転職するということです。
一方、この変化を受け入れ対応することにトライしてみるという選択肢もあります。このコラムは、後者の選択肢を選ぶ方に向けた内容です


端的に申し上げますと、自らの意思で立っていく覚悟が必要だと思います。ある意味、独立意識が必要かもしれません。

新しいことを学び研鑽する事が必要になるかもしれません。
自らのマインドを変えようとする時、エネルギーが必要です。やる気とか熱意とか熱量です。

東北大学の瀧靖之教授によると、学びには「好き・楽しい」と感じる刺激が必要だそうです。「好き・楽しい」ことは、脳のポテンシャルが最大限引き出され、長期記憶に残るそうです。その上で、「何のために学ぶのかという目的」と「学んだ結果どうなりたいのかという目標」を明確に持つ事が大切だそうです。(参照:『【脳医学者】何歳でも遅くない。「大人の脳」を活かした独学術』

どうせ努力するなら、ワクワク感を持って努力をする方が良いですよね。努力する目的と目標が明確になっていれば、その目標に到達した時のことを思いながら、努力する事ができるのではないか、と私は考えます。私はファシリテーターなので、会議やワークショップには必ず目的と目標をセットします。そして、会議やワークショップの冒頭で参加者と共有し合意を得るようにしています。目的と目標があるか無いかは大きな違いです。
一方、嫌々努力をしていても、早晩挫折してしまう危険性が高いのではないでしょうか。

是非、ワクワク感を持っていただきたいと思います。

次章では、学び研鑽することについて考ます。


3. 自分の価値を上げ、キープし、サステナブルにする

自分の本質的な価値を上げることが大切です。

あなたが今所属するチームや組織で必要とされるスキルと、自分が将来進みたい方向に合ったスキルを研鑽することが大切なのではないかと思います。例えて言うなら、職務経歴書に記述できるような経験、個々の経験に関する職務定義書(ジョブディスクリプション)が書けるような、そうしたスキルを研鑽し獲得する事が大切だろうと思います。

職務経歴書は皆さんご存知だと思います。

職務定義書(ジョブディスクリプション)は、従業員の職務を文書化し明示して、その達成度合いなどをみるためのもので、ジョブ型の会社では良く使われていると思います。一例として、下記のような項目が記述されたものです。(コレと決まったものはなく、会社によって異なり、各々の会社でテンプレートがあります)

  • 職務名
  • 誰に報告するのか(氏名とメールアドレスなどの連絡先)
  • 職務の簡潔な記述(3〜5行程度)
  • その職務の責任(含:成し遂げるべき数値目標)
  • その職務遂行に必要な要件(能力など)

(参照:『新型コロナウイルス対策:これから起こる変化を考える:今ファシリテーターになろう』

私は、ハードスキルだけでなくソフトスキルのスキルレベルもあげることを提案します。
下図はソフトスキルとハードスキルとの関係を模式的に示したものです。(画像のタップやクリックで拡大します)
ソフトスキルとハードスキル
上図で示したとおり、ソフトスキルとは対人系のスキルです。具体的には、ファシリテーション、コミュニケーション、プレゼンテーション、リーダーシップ、チームビルディングなどのスキルです。
対語はハードスキルです。ちょっと紛らわしいかもしれませんが、ソフトウェア開発はハードスキルです。他にも上図に示したようなスキルなどいろいろなスキルがあります。

ソフトスキルは全てのビジネスパーソンに必要なスキルです。ソフトスキルを土台にして、その上にハードスキルがのるイメージです。

スキルというのは栄枯盛衰があります。何十年も前には縫製といいうのは広く知られた1つのスキルでした。今では海外に移りました。日本国内では、洋服のリフォームなど需要はありますが、全盛期ほどの需要はありません。

既存のハードスキルの多くは知識体系や手順書が文書化されています。ということは、AIに文書を学習させることで自動化できる可能性があります。人間はより高度な判断が要求されるような仕事に就くことになるでしょう。AIに学習させたり訓練させたりする先生のような優秀な人、新たな事業を生み出すような優秀な人は残るでしょう。長い目でみたときには、単純な仕事は自動化され、自動化された仕事をしていた人は、新たなスキルを身につけることを求められる、と私は考えます。

ハードスキルに比較するとソフトスキルは息が長いかもしれません。端的に言うと、人と人とが協働せずに仕事をすることは考えられないので、物理的に対面しているかオンラインで対面しているかにかかわらず、ソフトスキルは必要だからです。
テレワークが増えてきました。オンライン会議のファシリテーション、オンラインでのコミュニケーション、オンラインでのプレゼンテーション、オンライン環境でのリーダーシップ、オンライン環境でのチームビルディングなど、物理的に同じ場所にいないという制約条件の下でのソフトスキルが求められています


前出の三菱ケミカルの事例『三菱ケミカル、成果主義を全面に 一般社員にも導入』では、従業員に要求されるスキルとして下記の7つが示されています。

  1. 専門知識
  2. 事業の知見
  3. リーダーシップ
  4. 問題解決
  5. 影響の性質
  6. 影響の範囲
  7. 対人スキル


ソフトスキルは7番目の対人スキルだな、と思われるかもしれませんね。そんなことはないのです。

例えば、リーダーシップとは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。先が見通せない激変しているビジネス環境にいる今、課題への対応スピードを上げることが必要です。能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。このようなスキルを身につけるためには、ソフトスキルを総動員する必要があります

別の例として、問題発生時に影響の性質や影響範囲を特定し、課題を見つけ出し、課題を解決すること。よほど小さな会社でない限り、ひとりでこれらを行うことはできませんよね。今までに会ったことのない人と会議で議論する事が必要になるかもしれません。会議のファシリテーションが必要でしょう。
初めて協働する人と、行き違いのない円滑なコミュニケーションをする事が求められます
また、説明する場面もあるでしょう。プレゼンテーション能力が必要です。
初めて会う人たちと迅速に課題解決するためには、チームとして協働できるように、チームビルディングする能力も求められます


スキルを学び、実務を通して研鑽する。一人で頑張るという選択肢もあるでしょう。
私がお勧めしたいのは、同志のコミュニティーをつくる事です。例えばソフトスキルのコミュニティー、プロジェクトマネジメントのコミュニティー、等々です。
ここで必要となるのは、そういったコミュニティーをつくって活動することに対しての上司の許可です。例えば、勤務時間の数%を、学び研鑽の時間に割り当てるといった上司の決断が必要になります。


私はこうしたコミュニティーをつくって活動した事があります。ファシリテーションなどのソフトスキルを含むコンサルティング技法を学び研鑽する場をリードしました。部門内の多くの人たちと関わり、成長したいという気持ちを共有し、スキルを研鑽する体験は、コミュニティーメンバーから高い満足度をもらう事ができました。

さて、実際に研鑽する場は、日々の仕事の場です。仕事の場を練習場にするのです。
うまくいくこともあるでしょうし、うまくいかないこともあるでしょう。一人で考え悩むよりも、コミュニティーの仲間と意見を交わしながら成長していく形の方が挫折する危険性が少ないと思います。時として、やる気や熱意・熱量が少なくなる事があったとしても、仲間から分けてもらえるかもしれません。


自分の価値を上げる事ができたとしましょう。
それを、キープしサステナブルにする事が大切です。

自分を陳腐化させないこと自分をアップデート続けることが大切だと思います。そのためには、生涯にわたって学ぶ習慣を持つことはマインドセットとして大切だと思います。今あなたの年齢がn歳だとして、仮に働けるなら80歳まで働こうと思っているのなら、あと80-n年ありますよね。前出の日経ビジネスのムック本『2021徹底予測』には、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏の『学ばない大人が衰退招く』というインタビュー記事が載っていました。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
 

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小川芳夫(ファシリテーター)

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小川芳夫プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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