組織力強化:迅速に組織変革する9つの方法:ファシリテーターの観点で考察する
このコラムは、ビジネスパーソンの方々、とりわけ主任・課長・部長クラス以上の組織強化にご関心のある方々を対象に書いています。
私は、2019年12月27日『ティール組織とファシリテーション』というブログを書きました。当時、私は、ティール組織は多くの日本の会社には馴染まないのではないか、と考えていました。
理由は、下記の3点です。
- 私が思った以上に日本の会社は変わらないことにこだわる
- 自律せず指示待ちを維持する人が多い
- ◯◯長という既得権益にすがる人が多い
数年間に及ぶコロナ禍の中、ビジネスパーソンを取り巻く環境にも大きな変化がありました。この環境変化を受け、ファシリテーターの観点から今一度ティール組織について考えてみようと思いました。このことが、このコラムを書こうと思ったモチベーションです。
下記の3つの章で構成します。15分程度で読める量です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitation という名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター(facilitator)と言います。
1. ファシリテーターの観点からティール組織をまとめる
ティール組織という書籍は、「ビジネス書大賞2019経営者賞」などの賞を受賞している書籍です。
私は、組織に関する専門家ではありませんし、ティール組織について説明することはいたしません。
言い換えると、当コラムの読者の方々は、ティール組織を読んだことがある、あるいは理解しているということを前提にしています。「ちょっと待ってよ。あんな600ページ近い本を読めって言うの?」との声が聞こえてきそうです。「そのとおりです」と言い切ってしまうのも手ですが、私の経験を踏まえて、下の3つの参照資料をお勧めさせていただきます。
- 書籍 ティール組織 フレデリック・ラルー (Frederic Laloux) 著 ISBN978-4-86276-226-9
- 書籍 [イラスト解説] ティール組織 フレデリック・ラルー著 ISBN978-4-297-10257-9
- ウェブサイト "REINVENTING ORGANIZATIONS" (https://www.reinventingorganizations.com/)
私は、1, 2, 3の順で読みました。1はなかなか理解するのが難しかったです。だいたい1.5回くらい読まないと私は理解できませんでした。私が今まで生きてきたパラダイムと違うことが書いてあるので、理解するのに時間を要したのかもしれません。
2は、1を読んだ後で読むと、文字を読まなくてもイラストだけでも十分に理解でき、理解を深めてくれました。
3は全てを見たわけではないのですが、ビデオ含め内容が濃いです。
「要点を短時間で把握したい」との声も聞こえてきそうです。参照資料3の中に入っている、このビデオ をお勧めさせていただきます。フレデリック・ラルーが語っているので、言語は英語ですが、日本語字幕が秀逸で、わかりやすいです。視聴時間は、Q&A含めて、1時間40分くらいです。
上の「このビデオ」のリンクから視聴できます。参照資料3のサイトの、RESOURCES! → Watch&Listen → 一番上の "A talk about "Reinventing Organizations", followed by Q&A with the audience." のビデオです。
私は、現状多くの企業がオレンジ組織か、オレンジ+グリーンの組織だと思っています。
オレンジ組織は、達成型パラダイムです。『最善の判断とは、最大の結果をもたらす判断のことである』という考え方です。『人生の目標は、前に進むこと、社会に受け入れられる方法で成功すること、自分に与えられたカードで最後まで全力を尽くすこと』としています。『第二次世界大戦が終了し、西洋世界ではオレンジ(達成型)パラダイムへとシフトする人々の割合が飛躍的に拡大した。』としています。オレンジ(達成型)の負の側面を次のようにしています。『最近は企業の貪欲さ、政治家の短期主義、負債過多、過剰消費、地球の資源やエコシステムの向こう見ずな浪費など、オレンジ(達成型)パラダイムの負の側面を無視することが難しくなってきた。』オレンジ(達成型)組織の特徴をリストすると、下記の3つです。
- イノベーション
- 説明責任
- 実力主義
この段落は参照資料1を参照しました。
グリーン組織は、多元型パラダイムです。オレンジ(達成型)の基準は「成果があるかないか」です。グリーン(多元型)の世界観は『人生には、成功か失敗か以上の意味がある』とされています。グリーン(多元型)パラダイムは、オレンジ(達成型)の負の側面を意識しているそうです。それは、物質主義、社会的不平等、コミュニティーの喪失、とされています。『グリーン(多元型)は、あらゆる考え方は等しく尊重されるべきであり、公平、平等、調和、コミュニティー、協力、コンセンサスを求める』としています。グリーン(多元型)組織の特徴をリストすると、下記の3つです。
- 権限委譲
- 価値観を重視する文化と心を揺さぶるような存在目的
- 多数のステークホルダーの視点を生かす
この段落も参照資料1を参照しました。
書籍から、オレンジ組織の負の側面として、私が気になった文章をいくつか引用させていただきます。
- 成長のために成長を求めるという段階に来てしまった。これは医学用語では単純に癌と呼ばれる状況である。(参照資料1)
- なんとなく、みんな気がついていることがあります。今日の組織運営方法が、もはや機能していないのです。(参照資料2)
- 成功がお金と名誉に関してだけに限定されてしまったことです。(参照資料2)
私は、現状多くの企業がオレンジ組織か、オレンジ+グリーンの組織だと思っていますので、これを前提に、ティール組織を次の観点でまとめてみます。
- 目指すものが違う
- 求められる人財が違う
- 助言プロセスがキーポイント
1.1. 目指すものが違う
多くの企業は、最大の成果をあげることを目指していると思います。そのために、生産性を高め利益を上げることを目指しています。
参照資料で、ティール組織の成功例として取り上げられているオランダ発祥の訪問看護サービス「ビュートゾルフ(BUUTZORG)」という会社があります。
ビュートゾルフが、ティール組織になる前、オレンジ組織だった頃は、看護師たちを「管理」するために、白い看護師の服を着たことのないマネージャーが、看護師の行動を分単位にモニターし、マネージャーの視点で「改良点」を見つけ、該当する看護師に「改善点」を指摘していたそうです。書籍には明記されていませんが、マネージャーは、最も大切なステークホルダーである、実際に訪問看護サービスを受ける人たちの声を聴くことなしに、「改良点」を考えてしまったのかもしれないと、私は思います。お客様の体験価値を重視していなかった。結果、患者は嫌がった。そして、看護師も嫌がったそうです。「私がなりたかった仕事なのに、今、私はロボットになってしまった」と。従業員の体験価値も重視していなかった。
ティール組織になったビュートゾルフが目指したものは、「患者さんができるだけ豊かで自主的な生活を送るのを手助けすること」だそうです。明確で崇高な存在目的です。以前は、機械のようにロボットのように分刻みで、注射したり、圧縮ストッキングを替えて、ろくに会話もせずに、次の患者のところに飛んでいっていたのに、ティール組織になった後は、お茶を飲みながら話をして様子を見る時間ができたそうです。
ビュートゾルフにとって、20%, 50%, 80%のどの市場占有率に達成するかは、そんなに重要では無いそうです。
競争相手にも、ビュートゾルフが行ってきたことを、無償で共有し、時に指導しているそうです。何故か。目指しているものは、「患者さんができるだけ豊かで自主的な生活を送るのを手助けすること」なので、目的の達成を手助けする人は、友人や盟友であって、競争相手ではない。そういう世界観だそうです。お客様である患者さんが体験することの価値を重視するという価値観なのでしょう。
結果として、看護時間は減り、救急病院への搬送も減り、オランダの社会保障制度コストを削減したそうです。
詳しくは、参照資料2の58ページから69ページをご覧ください。
1.2. 求められる人財が違う
ティール組織はピラミッド型の組織構造ではなく、◯◯長(係長、課長、部長、事業部長など長の付く役職)が存在しない組織だそうです。
管理者がいないということです。管理する人と管理される人という関係がない。言い換えると、管理しなければならないような人はいない。管理しないとサボる、不正を働く、何か組織にとって不都合なことをする。そんな人はいない、そういう組織だそうです。
コロナ禍でテレワークが求められる中、従業員を管理できないのでテレワークできない、という話がありました。
なお、対外的目的のために社長は長が付きますが存在するらしいです。
〇〇長は、組織を去るか、管理以外の仕事をするかを選択する必要があるそうです。
また、いわゆる指示待ち族の従業員は、ティール組織では居る場所がないと言えそうです。
つまり、求められる人財がオレンジ組織の時代と異なるので、変わらなければならない、と言えます。
従業員の採用プロセスも変わります。そもそも人事部が無いのです。採用プロセスは今よりも慎重に時間をかけて、自分たちのチームに入ってこれる人か?自分たちはこの人とやっていけるのか?この人は自分たちと一緒に働きたいのか?丁寧に対応するそうです。また、入社後の、いわゆるオンボーディング・プロセスには、自社の存在目的、大切にしている文化などを、腑に落ちるまで時間をかけて説明するそうです。自分たちのティール組織に必要な人財を見極め、大切に育てる、という感じなのだと私は理解しました。
1.3. 助言プロセスがキーポイント
ティール組織では、オレンジ組織に比べて、会議の数がぐっと減るそうです。
何かのアイデアを思いついて実現したいときには、良く知っている人に助言を求めなくてはならないそうです。
ポイントは、「助言を求めても良い」のではなく、「助言を求めなければならない」ということです。1対1で行ったり、必要な人を召集して会議を開いたり、社内SNSを使ったりするそうです。
この助言プロセスがうまく機能する事がキーポイントの1つだと思います。
そのために必要なスキルを、誠実に共に学び共に育つような文化を、育む事が大切になると思います。
2. コロナ禍で起こった変化を受けて(含むティール組織の事例)
2020年からコロナ禍は続いており、複数の感染の波に襲われ、いつ終わるのかわからない状況です。こんな中、大きく変わったことがたくさんありました。一例が、ジョブ型になり、成果主義に変わる流れが起きたことです。ジョブ型と成果主義への移行に関するニュースを聞く事が増えました。
事例として、5本の日経記事があります。
- 2021年2月5日 『シニアも成果主義 カシオ給与変動、明治安田は管理職に』
- 2021年7月7日『ブリヂストン、国内でジョブ型導入 23年に1070人』
- 2022年1月5日『三菱ケミカル、ジョブ型じわり浸透 導入から1年』
- 2022年1月28日『共同体型の人事は変わるか 日立、全社員ジョブ型雇用に』
- 2022年3月8日『損保ジャパン、専門職別にジョブ型導入 300人規模で』
職務定義書(ジョブディスクリプション)を使って、従業員個人が評価基準を上司と合意し、評価されるようになるようです。私もジョブディスクリプションについては、『組織力強化:これから起こる変化を考える:今ファシリテーターになろう』 というコラムで説明しています。
冒頭、私は、コロナ前の2019年12月時点で、ティール組織は多くの日本の会社には馴染まないのではないか、と考えていた、と書きました。理由は下記の3点だったと書きました。
- 私が思った以上に日本の会社は変わらないことにこだわる
- 自律せず指示待ちを維持する人が多い
- ◯◯長という既得権益にすがる人が多い
コロナ禍で起こった変化と、上記理由について考えてみます。
2.1. 私が思った以上に日本の会社は変わらないことにこだわる
ジョブ型と成果主義への変化によって、日本の会社は変わる必要が出てきたと思います。
コロナ対策だけでなく、災害時の事業継続の観点から、テレワークは有効な手段だと私は考えています。テレワークは生産性が低下する、テレワークは意思疎通が希薄になる、といった評価も聞きます。私はテレワークによって意思疎通が希薄になったり、生産性が低下することはないと思っている者です。なぜなら、私は実体験として、意思疎通が希薄になったり、生産性が低下することはなかったからです。(参照:『働き方:非対面で信頼を築くために:私の体験を振り返りキーポイントを考察する』)
新型コロナ感染症の拡大が止まらない今の状況は、変わることを強く求めている、と私は考えています。今までやったことがないから出来ないとするのではなく、目標を定め、そこに到達するための計画を立てて、チームでチャレンジするべきだと思います。
2.2. 自律せず指示待ちを維持する人が多い
ジョブ型と成果主義は、指示待ち、自律しない依存体質は合いません。
このコラムには書きませんが、変わることが強く求められていると思います。
2.3. ◯◯長という既得権益にすがる人が多い
「既得権益にすがるなんて当たり前だろ」という方もいらっしゃると思います。
ところで、ティール組織には、◯◯長が存在しません。◯◯長の方もジョブ型と成果主義になっていくことが予想されます。あなたが現在◯◯長だとすると、あなたの◯◯長としての職務の本質は何なのか、職務定義書(ジョブディスクリプション)に明記することが求められてくるでしょう。
2.4. 日本でのティール組織の事例
さて、日本でのティール組織の事例を挙げてみます。
ビュートゾルフ(BUUTZORG)
参照資料で、ティール組織の成功例として取り上げられているオランダ発祥の訪問看護サービス「ビュートゾルフ」は、日本で営業しています。「セントケア ビュートゾルフ」で検索すると結果がリストされます。セントケアは、介護サービスを全国規模で展開している会社です。
そして、グループ会社の、ちいき・ケア株式会社という会社がビュートゾルフ型訪問看護事業を行い、ビュートゾルフサービスジャパン株式会社がビュートゾルフ型訪問看護事業所の開業・運営支援を行っているそうです。介護サービスの領域から、訪問看護サービスの領域に、ビジネスを広げているようです。
日経記事『100年企業もティール組織 階層なくし自主性促す』
2020年10月15日の日経電子版に 『100年企業もティール組織 階層なくし自主性促す』 という記事が載りました。
事例として3社、中西金属工業、木村石鹸工業、大都 が載っています。
記事は、『階層のない進化型組織では、社員が指示命令ではなく自分で目標を決め、意欲を高めて主体的に働くことが条件になる。自律・分散・協調型の組織への関心はコロナ禍で急速に高まる。』としています。記事から、3つコメントを抜粋させていただきます。
中西金属工業の中西社長のコメント
『ピラミッド型の組織の上にいる経験値を持っている人の判断が一番正しいというのはなくなった』
『全員が情報を持てる時代なのでそれぞれの責任で意思決定の権限を与え、これまでにないような挑戦をしてもらう方がいい』
これを実現するために、厳格な秩序とルールを明文化した、という点も見逃せません。
三菱総合研究所の奥村隆一主席研究員のコメント
『工場労働者の管理を原型とする上意下達や時間管理などの手法は知識労働社会化が進む中で限界にきている』
人材関連事業の アトラエ の新居佳英最高経営責任者(CEO)のコメント
『指示命令なしで動く当社の社員はコロナ禍でもなんら変わらず、パフォーマンスが落ちたり、生産性が下がったりといった問題もない』
上記の3社以外にも国内事例はあります。
ダイヤモンドメディア株式会社
ダイヤモンドメディア は、不動産ITサービス(クラウドシステム)を提供する不動産テクノロジーカンパニー(不動産テック)です。2007年創業で、下記のような組織運営をしているそうです。
- 給与は社員全員が参加する会議で決定
- 財務諸表や給与情報はすべてオープン
- 役職や肩書きを廃止して社員自身に考えさせる
- 働く時間・場所や休みは社員自身が決定
- 社員の起業・副業を推奨
- 社長や役員は年1回の選挙で決定
- 経費は自由裁量
アズワンカンパニー
アズワンカンパニー は、農産物の生産から手作り弁当など多角的な事業を展開している会社です。
会社のポリシーは「会社の為の社員・従業員ではなく、社員・従業員の為の会社」だそうです。
職種・職務内容・勤務形態・時間・給与にいたるまで、会社の規定やルールに従うのではなく、一人一人の要望や願いなども、共に検討しながら進めていくそうです。
そのためにアズワンカンパニーでは、「話し合う」こと、「話し合える人になる」ことに、重点をおいて運営しているそうです。
3. ファシリタティブなリーダーシップを核としたソフトスキルの必要性
2章で取り上げた2020年10月15日の日経電子版の記事中のコメント『階層のない進化型組織では、社員が指示命令ではなく自分で目標を決め、意欲を高めて主体的に働くことが条件になる。自律・分散・協調型の組織への関心はコロナ禍で急速に高まる。』から、この章を始めようと思います。
ティール組織を目指すか否かに関わらず、自律・分散・協調型の組織になることが求められている、と私は考えます。この章では、この考えのもと、自律・分散・協調型の組織になるためのキーポイントを考えます。私の提案は、ファシリタティブなリーダーシップを核としたソフトスキルのスキルレベルを上げることです。
まず、リーダーシップという言葉の定義から始めたいと思います。
リーダーシップとは、職場のチームで目標に向かって協働し、目標を達成することを成し遂げる力です。目標を達成するよう働きかける力とも言えます。
次に、リーダーという言葉の定義をします。
リーダーとは、役割や職責であり、具体的には主任、課長、部長などです。
リーダーシップは、リーダーの職責を担う人だけに求められる能力ではなく、チームの目標を達成するために活動している従業員一人ひとりに必要な力といえます。
先が見通せない激変するビジネス環境の今、課題への対応スピードを上げることが必要です。自律的能動的に行動し、周囲に働きかける力を持つ人材が求められています。在籍年数や年齢は関係ありません。従業員一人ひとりがリーダーシップを身につけることは、会社の成長に大きく貢献します。
自律・分散・協調型の組織に合ったリーダーシップは、オープン型のリーダーシップである、と私は考えます。
オープン型のリーダーシップは、チーム内でお互いの尊敬と信頼を尊び、徹底的に情報共有し、権限委譲することを基盤とするリーダーシップです。一人ひとりの従業員とオープンな関係を構築しようとする新しいリーダーシップのあり方といえます。
ソーシャル・メディアの台頭などにともなう社会の透明化、オープン化が、マネジメントに求められる役割やあるべきリーダー像にも変化をもたらしている、と言われています。
生まれた背景は、自律的に社内外と交流しネットワークを形成する従業員に対して、上意下達でコントロールするような、旧態依然のリーダーシップは通用しなくなったという課題が出現し、これに対する打ち手として、オープン型のリーダーシップが登場しました。
オープン型のリーダーシップは、異なる専門性や考え方を持った人の間に立ち、人と人を結びつける上で求められる能力です。ソフトスキルが必要です。
ソフトスキルは対人系のスキルで、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディング、エモーショナル・インテリジェンスなどのスキルです。
ファシリタティブ(facilitative)は、「物事の進行などを促進する」という意味の形容詞です。ファシリタティブなリーダーシップとは、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードするリーダーシップです。
ファシリタティブなリーダーシップとソフトスキルについて考えてみましょう。
ファシリタティブなリーダーシップを持っている人は、どのような場面でソフトスキルを活用するのでしょうか。ソフトスキルの要素、コミュニケーション、プレゼンテーション、ファシリテーション、リーダーシップ、チームビルディング、エモーショナル・インテリジェンスについて考えてみようと思います。
コミュニケーション
ティール組織の助言プロセスをはじめとして、自律・分散・協調型の組織では、誰かに何かのメッセージを伝える、逆に誰かから何かのメッセージを受け取る、こういった場面は多くなります。
大切なことは、言いっ放しにして終わらないことです。「言ったじゃん」はダメです。言ったことが相手に伝わったことを確認することが大切です。自分が理解したことは、相手が伝えたかったことなのかを確認することが大切です。
何を伝え理解して欲しいのか、そのためにどうアプローチするのか、そのコミュニケーションの目標が達成したことをどう確かめるのか。丁寧に計画することが大切です。コミュニケーションのスキルレベルが低いと、自律・分散・協調型の組織ではコミュニケーションの滞りが多発してしまう危険性がある、と私は考えます。
プレゼンテーション
自律・分散・協調型の組織では、チーム内外の人に説明する場面も多くなります。
コミュニケーションとも深く繋がります。伝えたいことをわかりやすく伝えるスキル。説明を受けた人からのフィードバックを得ることも大切です。プレゼンテーションのスキルレベルを研鑽して、チーム内外の人に効率よく情報を伝え理解を得られるようになることが求められます。
ファシリテーション
ティール組織では会議は減るそうです。しかし、会議がなくなることはありません。
自由闊達に議論して、協働して納得感のある合意形成をする。自律・分散・協調型の組織では、こういったことが求められますので、ファシリテーションを活用できる人が求められます。
リーダーシップ
自律・分散・協調型の組織では、チームのみんなのアイデアや意見を引き出し、まとめ、合意を形成する、といったことがことが求められます。
そして合意事項が確実に実施されること、何か課題が発生したら迅速に対応するといった、ファシリテーションを中核に置きながら、チームに働きかけチームを目指す目標に到達するようリードする、ファシリタティブなリーダーシップが求められます。
チームビルディング
自律・分散・協調型の組織が機能するためには、チームとして協働できるチームとなることが必須です。
チームビルディングを可能にするものは、ファシリタティブなリーダーシップであり、会議やワークショップでのファシリテーションであり、関係者との様々な調整を行うコミュニケーションです。説明する場面も多々ありますので、プレゼンテーションも大切です。ソフトスキルを駆使する必要があります。チームビルディングは協働の中から生まれる、と私は考えます。
エモーショナル・インテリジェンス
自律・分散・協調型の組織が機能するためには、チームとして安心して協働できることが必須です。
例えば、プロジェクトマネージャーとメンバーAとの関係性。
メンバーAはいつも期限内に進捗報告しない傾向がある。今回も遅れた。プロジェクトマネージャーはイラつき怒りを覚え、メンバーAにキツい反応をして、対決モードになってしまった。
このような関係は、チームとして安心して協働することの妨げとなってしまいますので、対決モードにならないようにする必要があります。エモーショナル・インテリジェンスが役立ちます。
数週間先のことも予測困難なコロナ禍の現状。誰も正解が分からない目標に向かって、チームの各メンバーの能力を引き出しながら、協働し、目標達成に向けてみんなに働きかける人が必要です。ソフトスキルを駆使できるファシリタティブなリーダーシップが必須だ、と私は考えます。
また、ソフトスキルを駆使する上では話をわかりやすくまとめ伝えるフレームワークなど、適宜フレームワークを選んで使えるスキルも必須でしょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。