組織力強化:withコロナの時代に求められるスキル:基礎を確実に身につけ研鑽するために
このコラムは、ビジネスパーソンの方々を対象に書いています。
コロナ禍を経験し、ビジネスパーソンが生きる環境は変化したように感じます。これをきっかけに、スキル研鑽の必要性を感じている方が増えているようです。コロナ前の時よりも、多くのオンライントレーニングや教育を受けるようになっているようです。
さて、何のスキルを研鑽すべきなのでしょうか?
このコラムのテーマは組織力強化です。組織力を強化するために、何のスキルを研鑽すべきなのでしょうか?
このコラムは、組織力を強化する目的でスキルを研鑽することについて考えます。
このコラムは次の3つの章で構成します。5分程度で読める内容です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。
ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。
1. スキル
スキル研鑽をしている方が増えているそうです。ミレニアル世代の方を中心として、学びスキルを獲得し、実務で研鑽ようという動きがあります。
あなたも何かのスキルを獲得しようと考えていらっしゃるかもしれませんね。もしそうだとしたら、あなたは何故そのスキルに興味を持ったのですか?
興味を持ったら、そのスキルがどんなものかを調べますよね。ネットを検索したり初歩的な研修に参加したりするのではないかと思います。
興味の段階から、身につけたい・獲得したいという欲求が出てきたら、行動に変わります。
具体的な「行動」として、何をしますか?オンラインや対面の研修に参加する。書籍を読んだり、ネット上の情報を読む。同じ志を持つ人たちで学び合う。リアルな仕事の場で研鑽する。いろいろ考えられると思います。
ここで大切なことは、「どこを目標とするのか」ということではないかと思います。
知識を身につけること。仕事の場で◯◯ができるようになること。◯◯について第一人者になること。いろいろな目標があると思います。
一例として、私のエピソードを紹介します。
数年前AIが注目を浴びました。AIという言葉が流行ったと言っても良いかもしれません。ちょうどその頃、過去の実績データなどを元に、ある予測をするアプリの導入展開をするプロジェクトに携わる話があり、基本を理解したいと思いました。具体的にどのようなものなのか、基本的な概要を理解したいという欲求を持った私は、ある書籍を購入しパソコンを使ってプログラムを動かしながら、その欲求を満たすというアプローチを取りました。
私の目標は、「基本的な概要を理解できた」と自分で思えることでした。AIの技術者になろうなどとは思いませんでした。私は昔技術者だったので、実際にプログラムを動かしながら目標に到達するアプローチを取りました。
ちなみに、書籍は、オライリーの『ゼロから作る Deep Learning - Pythonで学ぶディープラーニングの理論と実装』という書籍です。(ISBN978-4873117584)先日近所の書店に行きましたら、目立つところにおいてあり、帯には14万部突破と書いてありました。良書ですが、そんなに売れている(人々が関心を持っている)ということに驚きました。この本を出発点として、この領域で◯◯ができるようになる、という目標を持っている方もいらっしゃるんだろうなぁ、と思いました。
他方、プログラムを書いたことのない人にとって、言い換えるとプログラミングの基礎を学んでいない人にとって、この書籍から始めるのはよくないだろうなぁ、とも思いました。アプローチが良くないのです。おそらく途中で挫折してしまうか、あるいは理解に多大な時間を要するだろうと思うからです。
スキル研鑽するときのキーポイントは、あなたにとって適切なアプローチを選ぶことです。
2. スキルマトリックス
あなたは、スキルマトリックスをご存知ですか?
日本総研の『CSRを巡る動き:スキルマトリックスの現状と課題』というコラムによると、『取締役会全体におけるジョブディスクリプション(職務明細書)の一覧性を高めるため、取締役およびその候補者が持つスキルを星取表の形で表現したもの』と説明されています。
2020年10月5日の日本経済新聞の記事『取締役のスキル、マトリクスで紹介 多様性の確認促す』では、『上場企業が取締役の専門性やスキルをマトリクス図で紹介する動きが広がっている。企業統治(コーポレートガバナンス)の強化を目指し、女性や外国人などダイバーシティ(多様性)への配慮や全体としてバランスのとれた運営が求められているからだ。』とし、具体的にある企業の実名が載ったスキルマトリックスが例として載せられています。
2020年6月20日のnoteには、『2020年スキルマトリックス(1):公表企業数は約50社に』とありますので、増加の傾向にあるものの、企業数はまだ多いとは言えないという状況だと思います。
上記の例は、「対外的にスキルマトリックスを見える化したもの」と考えることができます。
対内的、つまりあなたが所属する組織内やチーム内では、スキルマトリックスはどうなのでしょう。
Indeed社が、2020年4月15日に出した "How to Create a Skills Matrix: Steps and Examples" が参考になると思います。
最初に、このサイトに載っているスキルマトリックスの例を出しましょう。
スキルレベル:
- スキルなし
- 初歩レベル
- 中間レベル
- 高度なレベル
興味:
- そのスキルには興味を持っていない
- そのスキルに興味を持っている
下表がスキルマトリックスです。
「スキルレベル/興味」で表記されています。
チームメンバー | データ分析 | プロジェクト管理 | マーケティング | カスタマー・サービス | コンピュータ・システム |
---|---|---|---|---|---|
Yolanda | 4/2 | 2/1 | 3/2 | 3/2 | 2/1 |
Sharon | 2/2 | 3/2 | 1/1 | 3/2 | 4/2 |
Anwar | 2/1 | 3/2 | 2/2 | 2/1 | 3/2 |
Chris | 2/1 | 3/2 | 3/2 | 2/1 | 4/2 |
Tomas | 3/2 | 2/1 | 2/1 | 3/2 | 3/1 |
スキルマトリックスを使う理由が5点挙げられています。
- チームが活動するのに必要なスキルの概要をチームに示す
- チームメンバーにスキルを意識させる
- スキルの観点からチームの弱みが明確になる
- スキルの観点から組織としてどの領域の能力を開発するべきかが明確になる
- どんなスキルを持った人材を新しくチームに採用すべきかが明確になる
スキルマトリックスは、チームの能力を高め、生産性をあげることができる、としています。
Indeed社のサイトを参照しながら、具体的にみていきます。
チームが活動するのに必要なスキルの概要をチームに示す
チームの活動を実施するために必要なスキルを明示します。
例えば、上のスキルマトリックスでは、このチームが活動するのに必要なスキルは下記の5つだとしています。
- データ分析
- プロジェクト管理
- マーケティング
- カスタマー・サービス
- コンピュータ・システム
チームメンバーは、どのようなスキルが自分たちのチームに求められているのか、を知ることになります。
全てのチームメンバーをリストします。チームリーダーや主任や課長などチーム全員です。役職は関係ありません。
チームメンバーにスキルを意識させる
個々のメンバーについて、どこが優れどこを強化しなくてはならないのか、を見える化します。
このことで、メンバーが焦点を当てるべきスキルをより意識するようになります。
スキルの観点からチームの弱みが明確になる
チームとして、どのようなスキルが不足しているのかが明確になります。
言い換えると、どこを強化すべきかが明確になります。
スキルの観点から組織としてどの領域の能力を開発するべきかが明確になる
組織内の複数のチームがスキルマトリックスを活用する場合、組織としてどの領域の能力を開発すべきかが明確になります。
組織はこの情報を、人材育成に関してどこに投資すれば良いのかがわかります。
どんなスキルを持った人材を新しくチームに採用すべきかが明確になる
チーム活動を実施する上で、現在の陣容で不足しているスキルがわかるので、社内外から新メンバーを採用するときに、どのようなスキルを持った人材を採用すべきなのかが明確になります。
では、次に、スキルマトリックスの作り方をみていきましょう。
次の4つのステップです。
- チーム活動を実施する上で必要なスキルを決め、スキルマトリックスの1行目の横列に並べる。
- 個々のメンバーのスキルレベルを測る。
- 各々のスキルについて、個々のメンバーに興味を持っているか否かを聞く。
- スキルの観点で、何が必要で、現状何が不足しているのか、何を強化する必要があるのかを判断する。
ここからは私の意見を書こうと思います。
ステップ2の個々のメンバーのスキルレベルの測定方法は、チームによっていろいろ分かれるでしょう。そもそも、スキルマトリックスをどこまでオープンにするのかに悩むチームがあるかもしれません。特に、今までこのようなことをしたことがない場合は。
Indeed社は、スキルマトリックスはチーム全員で共有すべきである、としています。
今まで述べてきたとおり、マネージャーが管理目的で使うものではありません。
『組織力強化:コロナによる組織の変化:ファシリテーションが果たす役割を考える』というコラムで、ピラミッド型組織からネットワーク型組織に変化する、と書いています。
ピラミッド型組織であれば、管理するため、評価するためのツールとしてスキルマトリックスを使いたいと考えるかもしれません。この場合はスキルマトリックスをオープンにすることには抵抗があるかもしれません。
ネットワーク型組織であれば、仕事を円滑に実施するために、チームとしてスキルを研鑽しようという考えから、スキルマトリックスを活用しようと考えます。
私は、各メンバーのスキルレベルはチームリーダーが勝手に決めてしまうようなものではない、と考えます。そもそも、例えば、チームリーダーはプロジェクト管理のことは詳しいが、データサイエンス的なデータ分析については良く知らない、などということは あり得ます。良く知らないスキルに関してスキルレベルを正しく判断することは困難かもしれません。
個々のメンバーに自分のスキルレベルを聞く方法もあるでしょうし、その人以外のチームメンバーに、その人のスキルレベルを聞く方法もあるでしょう。
スキルマトリックスを作成する目的を間違えなければ、チームの組織力を高めることにも繋がると思います。
最初は、自分たちのチームだけで初めても良いのではないか、と私は考えています。多くの従業員を抱えている会社で、全社共通のスキルレベルの定義を決めたり、組織間でのスキルマトリックスのバランスを取ることは、とても大変です。まずは、小さく初めてみるのが良いと思うのです。
あなたのチームでうまく運用できると、隣のチームでもスキルマトリックスを使い始めるかもしれません。すると、例えば、スキルレベルの定義を共通化したくなるかもしれません。このようなアプローチの方が始めやすいかもしれません。
ところで、スキルマトリックスを作成することは、チームメンバーのポータビリティーを高めることにもつながります。一人ひとりを共通のスキルレベルで、「◯◯できる人」という観点で見える化しているので、社内人材募集をする時や、異動希望する時など、スキルマッチングがしやすくなります。
3章では、スキルレベルについて考えます。
3. スキルレベル
この章では、スキルレベルについて具体的に考えます。
スキルレベルとは、あるひとりについて、特定のスキルについて、仕事を遂行する上での適格性の観点で、どのレベルにあるのかを表現するものです。
2章の例では、「スキルなし」、「初歩レベル」、「中間レベル」、「高度なレベル」と曖昧な基準でした。この基準では、どこまでが初歩レベルなのか、どこからが高度なのか、定義がないので良くわかりません。
この章では、例として、アメリカの NIH(National Institutes of Health)の定義を参照します。
具体的には、"Competencies Proficiency Scale" を参照します。
なぜ NIH のものを参照したのかというと、専門家のものであり、具体的であり、公開されているからです。
下記のスキルレベルは、2章の例よりは具体的ではあるものの、人によって異なる解釈をすることがあると思います。
私は、まずはあなたのチーム内でスキルマトリックスとスキルレベルを定義することから始めることを提案します。
例えば、10〜20人程度のチームであれば、それほど時間をかけなくても合意された定義ができるだろうと考えます。
また、スキルマトリックス内の◯◯というスキルについて「Aさんはレベル3。もう少しでレベル4。」など、チーム内で話し合って、あなたのチームの現状をスキルマトリックスとスキルレベルの観点で見える化することができると思います。キーポイントは人事評価ではないということです。目的はチームの組織力を今より強化することなのですから。
レベル1 – 基礎的な知識がある
当該スキルについて基礎的な知識がある。セミナーに参加したレベル。
次のスキルレベルになるためには、より学ぶ必要がある。
レベル2 – 初心者(限定的な経験がある)
当該スキルに関する研修に参加したり、OJT的に実業務に携わった経験がある。業務遂行には誰かの助けが必要。
次のスキルレベルになるためには、実業務を通して経験を積む必要がある。
レベル3 – 中級(実務経験がある)
実務を遂行することができる。
時々エキスパートの助けを必要とすることもあるが、大抵は自律して遂行できる。
次のスキルレベルになるためには、実務を通してスキルを研鑽し、誰かの助けをもらうことを少なくするようにする必要がある。
レベル4 – 上級
誰の助けも借りずに自律して実務を遂行することができる。
プロジェクトが困難な状況になったり、難しい問いが出てきたときに、チーム内で「◯◯さんに聞こう」というような頼りになる人。
次のスキルレベルになるためには、組織間を跨ぐような、専門性が要求されるような課題に取り組み、実践的なアイデアや視点を持ち課題解決し、スキルを研鑽する必要がある。また、他の人を指導することも、スキル研鑽に役立つ。
レベル5 – エキスパート(第一人者)
当該スキルに関して、エキスパートとして知られている。
困難な課題に対して、助言したり、課題解決することができる。
組織を越えて、困ったときの頼りになる人。
この章のスキルレベル定義を参考にして、あなたのチームでの定義を決めていただきたいと思います。
そして、スキルマトリックスの形で、チームのスキルを見える化し、チームとしての組織力強化に活用していただきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。