会社の会議:オンライン会議のファシリテーション :準備段階の確認項目
このコラムはビジネスパーソンの方々を対象として書いています。
「会社の会議にビジュアル・ストーリーテリングを活用しよう」というテーマで書きます。
ビジュアル・ストーリーテリングを活用する目的は、「議論を見える化し参加者の共感を得るため」です。
ここで言う会議とは、課題について議論し、誰が何をいつまでに何の役割を持って実施するのかを合意形成し、さらに今後どのように実施状況を追跡するのかを合意する会議です。単純な情報伝達の場ではありません。
このコラムは次の3つの章で構成します。5分程度で読める量です。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号を BTFコンサルティングといいます。BTF は Business Transformation with Facilitation の頭文字をとりました。トランスフォーマーという映画をご存知の方がいらっしゃると思います。クルマがロボットに変身したり、ロボットがクルマに変身したりする映画です。トランスフォーメーション(transformation)とは変身させることです。ビジネス・トランスフォーメーションとはビジネスを変身させてしまうことです。ビジネス変革とも言われています。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのためのお手伝いをしたい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。
1. ストーリーテリングとは
コトバンク で調べてみました。
人事労務用語辞典によれば、下記だそうです。
『「ストーリーテリング」とは、伝えたい思いやコンセプトを、それを想起させる印象的な体験談やエピソードなどの“物語”を引用することによって、聞き手に強く印象付ける手法のことです。抽象的な単語や情報を羅列するよりも、相手の記憶に残りやすく、得られる理解や共感が深いことから、企業のリーダーが理念の浸透を図ったり、組織改革の求心力を高めたりする目的で活用するケースが増えています。』
デジタル大辞泉によると下記。
『物語を話して聞かせること。』
図書館情報学用語辞典の説明は下記です。
『語り手が物語を覚えて、聞き手に語ること。語りの技術は古代から囲炉裏端や焚き火を囲んで受け継がれてきたものであり、特に中世の琵琶法師や吟遊詩人は名高い。図書館では、公共図書館や学校図書館で子どもを対象に図書館員や教師が物語を語ることを指す。日本では,公共図書館で行われるお話し会の中で、読み聞かせや紙人形劇とともになされることが多い。いずれも子どもたちに読書に対する興味を持たせることを目的とする点では共通しているが、読み聞かせが本や絵本を書いてある通りに読んで聞かせるのに対し、ストーリーテリングは語り手が自分の言葉に直して語るところにその特徴がある。そのため、同じ物語でも語り手によって違った味わいを持たせることができ、また、聞き手の反応を見ながら語り口を変えていくことも可能である。したがって、専門的な訓練を必要とする場合もあり、東京子ども図書館などで講習会が開かれている。』
ビジネス・シーンでは、営業やマーケティングを中心に、プレゼンなどのコミュニケーションに活用されています。
このコラムでは、営業やマーケティングだけでなく、会社の会議にストーリーテリングを活用しよう、ビジュアルに会議の参加者が共感できる話を創ろう、という内容を書きます。
2. ビジュアル・ストーリーテリングとは
まず、ビジュアルが有効であることを書きます。
人が互いにコミュニケーションし始めたのは約30,000年前だそうです。言葉を使い始めたのは約3,700年前だそうです。つまり人類のコミュニケーションの歴史のほとんどの時代は言葉がなかった、ということです。約26,300年もの間、ビジュアルな情報でコミュニケーションを取っていた、ということになります。
(参照:"Do Visuals Really Trump Text?")
Allan Paivio という米国の心理学者の "dual-coding theory" という研究によれば、頭脳の感覚神経の75%は視覚に使われているそうです。
そして、画像は言葉よりも記憶に残るそうです。前の段落の人類のコミュニケーションの歴史を考えると、ヒトの脳がそのように進化しているということに頷けます。
これらの科学的知見から導き出されることは、画像つまりビジュアルな表現をもっと会議に取り入れた方が良い、ということです。
下図は、コミュニケーションのトライアングルです。文字や言葉だけでなく画像も活用してコミュニケーションをすることを表しています。「百聞は一見に如かず」ですから。
膨大な文字や言葉を連ねてストーリーテリングする。ここに画像・ビジュアルの力を加えるとどうなるでしょうか。
文字や表や式などは、論理的に頭で理解することに役立ちます。
画像は、メタファーとして、感情やエンゲージメント、いわば聞き手の心に訴えます。
頭と心を掴むコミュニケーション。これがビジュアル・ストーリーテリングです。
3. ビジュアル・ストーリーテリング活用例
この章では、具体的にビジュアル・ストーリーテリングの活用例を示しながら、話を進めたいと思います。
私のコラム 『会社の会議の進め方:意見をまとめる:今理解すべき3つの視点』 で、RACI というフレームワークを説明しています。
会議中に To Do を決めますよね。私は、この To Do を RACI というフレームワークを活用して、誰が何をいつまでに何の役割を持ってやるのか、をまとめることが多いです。
RACI は、役割と責任を見える化するものです。R、A、C、I 各々の役割と責任は下記です。
- R:実行責任者 (RはResponsibleの頭文字):当該 To Do 項目を実行することに責任を持つ人(複数人可)
- A:説明責任者 (AはAccountableの頭文字):当該 To Do 項目について内容や進捗・状況を組織内外に説明することに責任を持つ人(通常ひとり)
- C:相談される人 (CはConsultedの頭文字):当該 To Do 項目の実行を支援する役割を担う(円滑に実行されるよう相談を受け助言する人(複数人可)
- I:報告を受ける人 (IはInformedの頭文字):当該 To Do 項目の進捗・状況について報告を受ける役割を担う人(複数人可)
R と A は誰かを必ず任命します。兼任可です。
C と I は誰も任命されなくてもOKです。この2つも兼任可です。
『会社の会議:会議の変革:RACIを活用して実施可能なTo Doを合意しよう』 の中で、RACI の説明動画として下の動画を紹介しました。
ここでは、動画中に例として説明されている家事分担について、考えてみます。(画像上のタップやクリックで拡大します)
上図の RACI はお母さんに家事が集中しています。
A:すべての家事の項目について、内容などを家族に説明することに責任を持っています。
R:すべての家事の項目を実行する責任も持っています。
「お父さんは何もしないし、子供たちも大きくなってきたのに何も手伝ってくれない。なんで全部私がやらなくちゃいけないの!?」とイラッとするのも頷けますよね。
イライラしているお母さんを見て、小学校高学年のボクが、「お母さんどうしたのかな?」と心配になったとします。
ボク:「お母さん。最近なんかイライラしてるように見えるんだけど、どうしたの?」
お母さん:「あなたたちも大きくなったのに、お父さんも誰も家事を手伝ってくれないからかなぁ。なんかそれがイヤな感じがするのよ。」
ボク:「どうしたらいいの?お手伝いしようか?」
お母さん:「そうね。じゃあ、今度みんなで相談してみようか。」
みたいな会話があったとしましょう。
後日、お母さんがA4の紙に RACI の空白の表を書いてリビングのテーブルに置きました。
そして、家族全員で相談して下図の RACI を作りました。(画像上のタップやクリックで拡大します)
- お母さんは全ての家事の項目について、Aすなわち内容などを家族に説明する責任を持ち続けます。
- R つまり実行する責任をみんなで分担することになりました。
- 買い物はお父さん、洗濯は中学生のお姉ちゃん、皿洗いはお母さん、調理は最近家庭科で調理を習って興味を持ち始めたボクがお母さんの助けを受けながら頑張ることにしました。
- C は相談される人です。実行の支援もします。お母さんは、お姉ちゃんの洗濯の相談役にもなっています。
- I は報告を受ける人です。お母さんは、食料品の買い出しについて、どこで何を買ってくるのか事前に報告を受けます。有体に言うと、買ってくるものを実質決めるのかもしれませんね。お姉ちゃんとボクも食べたいものがあるので C がついています。
- お父さんは、調理に I がついています。味にうるさいのかな。もしかすると、食べ物に何かの制限があるのかもしれません。
さてさて、長い文章を書きました。このことをビジュアル・ストーリーテリングすると、下図のようになります。(画像上のタップやクリックで拡大します)
上図はロードマップのメタファーを使っています。
今は「みんなの役割を決めよう!」まで来ています。実際に役割分担してみて、「1週間後くらいに、みんなの意見を聞いてみよう!」という振り返りまで計画しています。
そして、そもそもこれは、「みんなで仲良く暮らしたい」と最初にボクが思ったことから始まりました。そして、リビングでみんなで相談した事で、みんなが共感できるストーリーになりました。「みんなで仲良く暮らしたい」は家族みんなの目標になりました。
会議の参加者が全員で共感し合える話を見える化するもの、それがビジュアル・ストーリーテリングです。
さて、この章では、ある家庭の家事分担について考えてみました。
ビジュアル・ストーリーテリングがあると、わかりやすいと思いますか?
もし、YESであれば、あなたの会議にもビジュアル・ストーリーテリングを活用されてはいかがでしょう。
少しの時間、下図の空白のロードマップを見ながら、考えてみてください。今までの会議で、ここに何か書き込めるような会議はありましたか?
ロードマップのメタファーは時間の流れを表すものです。他にもメタファーは沢山あります。『VISUAL THINKING - 組織を活性化する、ビジュアルシンキング実践ガイド』 という書籍(ISBN 978-4802510912)には、相違点や比較を表すメタファー、関係や構造を表すメタファーなどが説明されています。ご興味をお持ちの方は、書店に足を運んで立ち読みしてみるのも良いかもしれませんね。
私は会社員時代に、言葉をイラストで伝える、という伝言ゲームのイラスト版のようなゲームをした事があります。
リアルな会議室での会議であれば、ホワイトボードやフリップチャートに手の込んだイラストを描く時間はないと思います。
一方、オンライン会議であれば、イラストをご自分で自分の道具として事前に用意しておき、コピペする事が可能です。紙に描いてスキャナーでイメージとして読み込ませたり、タブレットやPCで描くことも可能です。下図はロードマップのメタファーを、クラウドのホワイトボード・ツールにコピペしたものです。会議参加者が協働してビジュアル・ストーリーテリングを創る事が可能です。ご自分のイラストを貼り付けて、「みんなで共感し合える話」を創る事ができます。
クラウド上のホワイトボードは、いつでも書き込めますので、実際の会議が始まる前に書き込み、事前に準備しておくことも可能です。これは、リアルな会議室の会議で会議時間内だけ使えるリアルなホワイトボードとは、異なる点です。
オンライン会議関連のツールはどんどん進化している「熱いエリア」ですので、要ウォッチですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。