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鈴木壯兵衞

青森の新産業創出を支援し知的財産を守るプロ

鈴木壯兵衞(すずきそうべえ) / 弁理士

そうべえ国際特許事務所

コラム

第78回 青森県の発明者の特許発明が、第37回世界天才会議(World Genius Convention & Education Expo)で特別賞受賞

2023年7月4日

テーマ:青森県の特許

コラムカテゴリ:法律関連

 弊所が代理人として特許出願した太田宏暁さんの特許発明(特許第6858436号:発明の名称「背嚢及び背嚢セット」)が、2023年5月に開催された第37回世界天才会議(WGC)で特別賞(アウトドア賞)を受賞しました。

§1 ニューヨークで第1回目が開催されたWGC:

 国際発明協会(会長中松義郎氏)が主催する世界天才会議(WGC)は、1986年にニューヨークで第1回目が開催され、以後毎年開催されています。かつては、大槻文平元経団連会長がWGC総裁を務められたこともあります。2017年までは東京都の新宿西口広場イベントコーナーで開催されていましたが、2018年からは現在の東京都の東京国際フォーラムで開催されています。
 
 2023年の第37回大会は、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、中東、アジアの12カ国・地域から120余りの作品が寄せられました。日本からは11の個人と団体が参加したそうです。
 
 なお、WGC議長の中松氏は、1947年にフレキシブルディスクを着想し、1950年に特許出願し特公昭27-2166号として認められたと主張しています。しかし、特公昭27-2166号に記載の発明は、以下の第一図に示す米国特許第3,668,658号に記載されたフレキシブルディスクとは異なる構造と技術的思想の発明と思われます。 
 【第一図】IBMによる世界最初のフレキシブルディスク特許(米国特許第3,668,658号)。

 IBMでは1967年からA.シュガート(Shugart)をリーダとするチームが記録媒体を開発していました。そして、1969年になりIBMのR.フロレス(Flores)らがフレキシブルディスクを発明しています(米国特許第3,668,658号)。IBMのシュガートのチームは1971年にフレキシブルディスクの製品化に成功し、IBM System/370 のメインフレームにフレキシブルディスクを組み込みました。

§2 発明者は弘前市の東奥義塾高校の教諭太田宏暁さん:

 太田さんは、キリスト教(プロテスタント)系の東奥義塾高校の社会科地理の教諭でパワーリフティング部(同好会)の顧問をしています。このため太田さんは、(財)日本体育協会の公認パワーリフティング指導員や(社)日本パワーリフティング協会の公認3級審判員の資格を持っていますが、部員数が少ないのが悩みだそうです。

 2011年のパワーリフティング部世界大会(カナダ)では男子の部で教え子の船水さんがベンチプレスで銀メダル、デッドリフトで銅メダルを獲得しています。2013年の世界大会(ロシア)では女子の部で教え子の村上さんがトータルで銀メダルを獲得しています。
【第二図】パワーリフティング部の練習のようす(左上が太田さん)

 東奥義塾高校では、青森県パワーリフティング選手権大会等が開催されているようですが、東奥義塾高校は1796年に弘前藩9代目藩主津軽寧親が創設した藩校稽古館を系譜としています。藩校稽古館は、1872年(明治5年)5月に弘前漢英学校へと引き継がれましたが、学校制度改革により廃止となりました。
 
 その後、1872年11月に「東奥の西郷隆盛」と言われた菊池九郎が弘前漢英学校を新たに創立し、「慶應義塾弘前分校」的色彩で「東奥義塾」と名付けられました。財政難から1913年に廃校となってしまいましたが、1922年に再興され、現在に至っています。
 
 2018年の11月に太田さんが弊所を訪れ、特許出願したい旨の最初の相談があり、自分で特許明細書を書いてみるとのことになりました。そこで、太田さんは鈴木壯兵衞著「日米欧中韓共通出願様式時代 特許明細書等の書き方」(発明推進協会)を購入して帰られました。
 
 その後、2019年1月頃より、太田さんが自分で作成した特許出願用明細書と特許出願用図面を弊所に持ち込み、弊所で添削して修正する作業を3回ぐらい繰り返しました。2019年1月に来所されたときは、太田さんは鈴木壯兵衞著「日米欧三極共通出願時代の特許クレームドラフティング」(森北出版)を購入して帰り、特許請求の範囲の書き方も勉強しました。

 そして、遂に、2019年7月24日に、特願2019-135739号を太田さんが自ら直接特許庁に手続きして出願(本人出願)しました。この本人出願の方法によれば、弁理士から出願手数料を請求されることがないので、特許出願の費用を安くすることができます。
 
 更に、外国出願の希望があることを聞きましたので、特願2019-135739号を基礎出願として優先権を主張して、2020年6月11日に、弊所が代理人となり、国際特許出願(PCT出願)をしました(JP2020/023119)。
 
 PCT出願を経由して日本の特許庁に移行した特願2020-544054号が、2021年3月26日に、特許第6858436号として登録されました。その後、2023年1月末に第37回WGC事務局から太田さんに出展の打診があり、2023年3月と4月の2カ月間で、WGCに出品するための改良を重ねたそうです。
 
 太田さんは「年間30万件も出願される特許の中から、自分の発明品に目を付けてもらいありがたい。その上で受賞という形で評価してもらえてうれしい」と述べています。

§3 太田さんの発明(特許第6858436号)の内容:

 重そうな大きなランドセルを背負った小学生を見て思い立ったのが、太田さんの発明のきっかけだそうです。背中に背負う部分(背面ベース)は変えずに、小学生の成長や荷物の量の変化に伴い、荷物を入れる部分(収納部)だけの大きさを取り換えられれば、通常は軽い収納部を背負うことにより、身軽になり低学年の小学生には便利では、と考えたそうです。

 2019年1月に太田さんが自分で作成して弊所に持ち込まれた明細書では、発明の名称は「リュックサック」でした。ランドセル、リュックサック、デイパック、アタックザック、サブザック、キスリング等を含む、もう少し上位概念の発明となるように、弊所から提案して、発明の名称が「背嚢」に変更されました。
 【第三図】太田さんの発明の一部を説明する図

  第三図に示しますように、太田さんの発明品の一例は、リュックサックではなくキャスター付きの小型キャリーバッグに属する背嚢です。発明品である背嚢は、箱状の収納部100と、収納部100から着脱自在の背面ベース300の2つの主部材を備えています。荷物を入れる部分である収納部100は、互いに対向する第1及び第2主面と、第1主面の連続した3辺と、この3辺に対向する第2主面の3辺を、それぞれ互いに接続する3側面を有します。

 背嚢を背負う面(ベース)となる背面ベース300は、収納部100との結合時に、収納部100の第1主面に接する結合面と、この結合面に対向する背当(せあて)面を有して板状です。背当面は人間の背中に接する側の背面ベース300の面です。背面ベース300の背当面の上部から下部にかけて左ショルダーストラップ(肩ベルト)51aと、右ショルダーストラップ51bが対をなして、それぞれ輪のように設けられています。

 発明品の着脱自在の背嚢では第三図に示しますように、収納部100の第1主面に第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102c及び第4凸部102dが設けられています。そして、背面ベース300の結合面には、収納部100の4つの凸部に対応する位置に、第1挿通孔302a、第2挿通孔302b、第3挿通孔302c及び第4挿通孔302dがそれぞれ設けられています。第1挿通孔302a、第2挿通孔302b、第3挿通孔302c及び第4挿通孔302dのそれぞれは、4つの凸部に対応した構造をしています。

 第三図から分かりますように、発明品の背嚢では、第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102c及び第4凸部102dが、それぞれ第1挿通孔302a、第2挿通孔302b、第3挿通孔302c及び第4挿通孔302dへの貫通することにより、収納部100と背面ベース300とが固定可能なように、互いに接します。

 第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102c及び第4凸部102dの各先端部分には、第1固定蓋303a、第2固定蓋303b、第3固定蓋303c及び第4固定蓋303dがそれぞれ設けられています。
 
 第三図では、第1固定蓋303a、第2固定蓋303b、第3固定蓋303c及び第4固定蓋303dに、塩ビの水道配管の繋ぎ手(雌ネジ付きソケット)を用い、第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102c及び第4凸部102dに給水栓の雄ネジ付きソケットを用いて互いにねじ込むようにしています。
 
 一方、第1凸部102a、第2凸部102b、第3凸部102c及び第4凸部102dを、それぞれ第1挿通孔302a、第2挿通孔302b、第3挿通孔302c及び第4挿通孔302dから離脱することにより、収納部100と背面ベース300とが分離できます。
 
 このコラムの第三図は太田さんの特許の図面の図9に対応しますが一例に過ぎません。太田さんの特許には、第1実施形態(図1~図4、図16)、第1実施形態の第1変形例(図5~図6)、第1実施形態の第2変形例(図7~図8)、第1実施形態の第3変形例(図9~図10)、第1実施形態の第4変形例(図11~図13、図18~図19)、第1実施形態のその他の変形例(図17)、第2実施形態(図14~図15)等の様々なバリエーションが記載されており、図面は全部で19図あります。
 
 なお、太田さんの発明は米国にも特許出願していまして、現在米国特許商標庁(USPTO)で審査中です。

§4 ファッションとしていろいろな収納部が着脱自在な発明品:

  このコラムの第三図から分かりますように、太田さんの発明品は、箱状の収納部100と背面ベース300が着脱自在です。したがって、以下の第四図に示しましたように、いろいろな色の収納部100を用意して、ファッションとして収納部100を取り換えて楽しんだりすることもできます。
 【第四図】ファッションとして選べるいろいろな色の収納部

 色だけでなく、青森特有の素材等、収納部100の素材や形状等を多様に揃えることにより、ファッションとして収納部100を取り換えて楽しむことも可能になります。
 
 従来の背嚢は、書類等を収納する背嚢本体とショルダーストラップとが一体化しており、用途や好みに合わせて色や形、大きさを変えたい場合、別の背嚢に買い換えなければなりませんでした。太田さんの発明品によれば、用途や好みに合わせて収納部の色や形、大きさを容易に変更可能でフレキシブル性を備えた背嚢が可能になります。

 発明品によれば、収納部は一定として、背面ベースの大きさやクッション性を変更することも可能です。背面ベースの素材を季節によって変更することも可能です。又、背面ベースが汗で濡れた場合は、背面ベースのみを洗濯することや乾燥させることも可能です。更に、収納部を複数種類、背面ベースを複数種類として組み合わせの自由をフレキシブルに楽しむことも可能になります。

    弁理士鈴木壯兵衞(工学博士 IEEE Life member)でした。
    そうべえ国際特許事務所は、「独創とは必然の先見」という創作活動の
    ご相談にも積極的にお手伝いします。
              http://www.soh-vehe.jp

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