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第75回 陽性者と感染者を識別したコロナ報道が重要:時代遅れの行動制限ではなく、ウイズ・ウィルスの時代を見据えた免疫学と量子生物学の科学技術の研究に投資をすべきである

鈴木壯兵衞

鈴木壯兵衞

テーマ:特許制度の意味

 人間の免疫機能を考慮すると「検査陽性者」と「感染者」を識別することは非常に重要である。無症状陽性者が増えている状況で、陽性者と感染者を識別しないで報道するのは、免疫学の立場からは意味がない。しかも、検査陽性者の数は検査数に依存する数値であり、統計学からすれば不正確なデータである。もっと科学的に正確な報道をしなくてはならない。

 東京五輪のサッカー男子主将の吉田麻也選手が無観客開催の見直しを訴えているが、免疫学によれば「有観客にすべき」という説がある。このコラムの第72回で既に述べたとおり、2020年12月の厚生労働省の人口動態統計(速報)によれば、2020年1~10月の日本の死亡数は前年同期より1万4千人少ないのであるから、日本においてはSARS-CoV-2ウィルスによるパンデミックは発生していない。

 我が国のコロナ対策は、統計学的に信頼性の薄い陽性者数の変化ではなく、後述する図1に示したような、死亡者数の変化に着目すべきである。

 2021年7月16日に新型コロナ・ウィルス感染症対策分科会の尾身茂会長が「人々の行動制限だけに頼る時代はもう終わりつつあると思う」と述べた上で、情報通信技術(ICT)を使った疫学調査など科学技術の重要性に言及したという。しかし、今まで、感染症対策分科会がやってきたことが逆であろう。先ず科学技術を駆使し、そこで足りないところを人々の行動制限で補うやり方をすべきであった。

 五輪出場選手に毎日陰性証明を要求するなら、観客にも同様な陰性証明を求めればよい。禁酒令を出すのではなく、飲食店に入店するのに際し、陰性証明を要求すればよい。オリンピックを無観客にしてしまったのは、科学技術的に依拠した論理的合理性を無視した判断ではなかろうか。

 DX(Digital transformation)の語は企業に向けられているようであるが、今最もDXが必要なのは我が国のトップであろう。

      §1 130年前のコロナ・ウィルスが毎年検出されている
      §2 擬フェイク情報とウィルスのテーミング
       (2.1)死者数の変化の監視こそが感染防止対策である
        (2.2)怪しげな情報に振り回されている我が国のコロナ対策
      §3 インフルエンザ対策と矛盾したコロナ対策
      §4 ウィルスの感染力は量子生物学の領域の解析が必要
      §5 医療が逼迫していないのを一番承知しているのは日本医師会

§1 130年前のコロナ・ウィルスが毎年検出されている:

 アフターコロナの時代は到来しないであろう。表1は、国立感染症研究所(NIID)が、2021年7月15日に発表した2017~2021年に日本国内で検出されたヒトコロナ・ウィルスの検出数を示す検出病原微生物検出情報(IASR)である。表1によれば、例えば、ヒトコロナ・ウィルスHCoV OC43が2020年に127件検出されたことが分かる。

 ただし表1のデータは、たまたま検出されたヒトコロナ・ウィルスも数であって実際には3~4桁多いであろう。「カゼ」のウィルスの10~15%くらいがヒトコロナ・ウィルスとされているようである。今回の新型コロナの騒ぎの前に、日本人は、既にウイズコロナの環境にどっぷり浸かっていたのである。日本が欧米に比してコロナによる死者が少ない「ファクターX」には、人間の免疫機能が大きく関係しているであろう。

【表1】我が国には既に4つのコロナ・ウィルスが明治時代の初期から定着している

 ヒトコロナ・ウィルスHCoV OC43によるパンデミックは、1889-1891年に、世界中で100万人以上が死亡したと言われ、日本では「お染風邪」と呼ばれているパンデミックである。「お染風邪」のパンデミックは、当初インフルエンザ・ウィルスH3N8の流行とされていたが、このコラムの第70回で説明したとおり、2005年のルーヴェン大学の研究者らの推定や2020年のデンマーク工科大学とロスキレ大学の研究者らの結論から、現在は、ヒトコロナ・ウィルスHCoV-OC43によるパンデミックとされている。
 
 逢見憲一先生は1922年刊行の内務省衛生局編「流行性感冒」の記録から、1891年の東京府と神奈川県について超過死亡は、1920年のスペイン風邪当時の超過死亡率と同程度であったと指摘している(逢見憲一他著、『公衆衛生からみたインフルエンザ対策と社会防衛―19世紀末から21世紀初頭にかけてのわが国の経験より―』、J. Natl. Inst. Public Health, vol.58(3), pp.236-247(2009))。

 既に第70回で述べているが、表1を見れば、「アフターコロナ」の時代は到来しないことが分かるであろう。今回のSARS-CoV-2ウィルスは、人間に感染する7番目のコロナ・ウィルスであり、日本が「新型コロナ・ウィルス」と呼んでいること自体が、おかしなことである。
 
 スペイン風邪のようなパンデミック・インフルエンザが流行した後で、そのインフルエンザウィルスが引き起きしているのが季節性インフルエンザである。SARS-CoV-2ウィルスも同様な形で居残るであろう。そして、やがて8番目のコロナ・ウィルスが到来し、その後も「ウイズ・ウィルス」の時代が継続するであろう。

 ウイズ・ウィルスの時代には、免疫学、及びこの免疫学の中核をなす量子生物学が重要になるであろう。

§2 擬フェイク情報とウィルスのテーミング:

(2.1)死者数の変化の監視こそが感染防止対策である

 SARS-CoV-2ウィルスの感染拡大防止は、フェイク性が高い陽性者数の変化ではなく、信頼性の高い死亡者数の変化の監視で行うべきである。人間には外敵から身を守る「免疫機能」があるので、仮に陽性になっても、必ず感染するわけではない。この「免疫機能」を増大するにはどうしたら良いかという科学技術の研究開発と、その研究開発に依拠した指導こそが最も重要な感染拡大防止策である。
 
 特に、SARS-CoV-2ウィルスに用いられるPCR検査は、粘膜にウィルスが数個でも付着していれば「陽性」になることがあるので、「擬陽性」等の確率もかなりある。

 元日本免疫学会会長の順天堂大医学部特任教授奥村康先生は「僕が総理大臣なら観客はフルでやります。」と言われている。

  https://www.sanspo.com/article/20210717-UQQ7TDRHEVIKFFXIMWWM24A2KA/?outputType=theme_tokyo2020&tblci=GiAF7PcT_sOV8EwtHH69k9RF
 
 【図1】陽性者数ではなく死亡者数の変化に着目した感染拡大の防止対策こそ重要


 図1はNHKがまとめたデータを基礎に、筆者が全国の陽性者数の変化、全国の死亡者数の変化及び東京都の死亡者数の変化を、2020年11月1日から2021年7月15日までについて纏め直したものである。左縦軸が陽性者数、右縦軸が死亡者数である。東京都に関しては右縦軸を1/5にして読む必要がある。残念ながら、図1の基礎にしたNHKのデータも「陽性者数」ではなく「感染者数」になっていた。
 
 図1に緑色で示した東京都の死亡者の最大値は第3波当時の2021年2月3日の32人であるが、東京都の第4波のピーク値は第3波より小さくなっている。東京都の第4波の収束期と思われる現在は、緑色で示した死亡者数は減少傾向を示している。図1の黄色で示した全国の死亡者の最大値は2021年5月18日の216人であるが、現在は減少傾向にあることが分かる。しかし、東京都には2021年7月12日に緊急事態宣言が発令された。フェイク性の高い情報による愚かな判断といえよう。
 
 次第に、SARS-CoV-2ウィルスは2002年のSARS-CoV-1ウィルス、2012年のMERS-CoVウィルスよりも感染力が高いが、多くは無症状か軽症で自然治癒するという特徴が分かってきている。一方、SARS-CoV-2ウィルスの場合は、SARS-C0V-1ウィルスやMERS-CoVウィルスと比較して、併存症のある患者の死亡率が高いという特徴も分かってきている。厚生労働省はこの併存症のある患者の死亡をすべてSARS-CoV-2ウィルスによる死亡者とするように通達を出してるが、これにより死亡者数のデータもフェイク情報になっている。

 コロナ・ウィルスのようなRNAウィルスは変異を重ねるごとに、感染力が増すが、病原性(毒性)は少なくなる馴化(テーミング:taming)を起こすのが一般的である。ウィルスは宿主をすぐ殺してしまわず、宿主と仲良くやって増殖しようとする馴化により、致死率が下がる。ウィルスは、馴化により致死率を下げ、感染力を上げていく性質を本能的に備えている。
 
 表1に示した4種類のヒトコロナ・ウィルスは普通の風邪のウィルスとして、宿主である日本人と仲良くなり、日本人の中に根付いてしまったウィルスである。
 
 現在問題になっているα株~δ株等への変異により、SARS-CoV-2ウィルスの感染力の数値が増大するとともに、馴化も更に進行していくはずである。SARS-CoV-2ウィルスが変異を重ねて馴化が進行し、無症状の陽性者が増大しているときに、禁酒令等の行動制限を課しても感染防止には有効ではない。

 全数検査を定期的にしなければ、無症状の陽性者数は測定できないが、政府は全数検査をしない。ウィルスの変異と共に、無症状の陽性者の数はますます増えるであろう。このような状況で、陽性者の増大を指標にして、行動制限をする感染防止策は、もはや意味がなくなってきている。
 
 したがって、SARS-CoV-2ウィルスの感染拡大防止の対策として注意すべきは、図1に示したような死亡者の数の変化である。フェイク性の高い陽性者数の変化を指標にするのではなく、死亡者の数の変化を指標にして、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置、東京オリンピックの問題を検討すべきである。

(2.2)怪しげな情報に振り回されている我が国のコロナ対策

 フェイク性の高い情報に過剰な対応をして、それによって失われるものの価値や大きさが不均衡になるような選択を国のトップはしてはならない。データは数値そのものが真の値を有していても、そのデータの公開の仕方や比較対象を明確にしないとフェイク性の高い「擬フェイク情報」になり得る。
 
 やっと、2021年7月16日に尾身会長がICTを使った疫学調査など科学技術の重要性に言及したが、我が国は感染者数の正確なデータを測定せずに、非科学的手法で感染防止を訴え続けてきた。
 
 厚生労働省や東京都のホームページ公開しているデータは「陽性者数」であるが、メディアは「感染者数」や「新規感染者数」として公表している。メディアによる「陽性者数」と「感染者数」の混同が、過剰な不安を増長させているが、意図的に混同させるフェイク性を伴った印象操作のための策略とも思われる。

 厚生労働省は、「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」を2020年3月頃より定期的に出している。その令和3年7月20日版においても、表にある「検査陽性者」の人数を、頭書の概説する部分で感染者の数として紹介している。検査陽性者数=感染者数ではない。
 
 SARS-CoV-2ウィルスの特徴は、無症状の陽性者の比率が非常に多いことである。2020年2月3日に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の場合では、PCR検査陽性者712例のうち無症状病原体保有者331例(46.4%)であった。普通のカゼやインフルエンザも同じであるが、ウィルスが体内に侵入し、増殖して初めて「感染」が成立する。
 
 更に問題なのは、現在発表されている陽性者数のデータは「真の陽性者数」ではなく、母集団の内の特定の一部を測った結果が報告されている恣意的な客観性のないデータである。無症状の陽性者が多いと「真の陽性者数」の把握は極めて困難になる。
 
 厚生労働省や東京都も、「特定(どのような)属性の被験者の何名の内から検出された数」等の限定が必要をした、もう少し正確性を増した表現でデータを公開すべきであろう。少なくともデータをどのような集団から測定したぐらいの情報を付して公開すべき情報であって、国民又は都民等の全体の内に存在する真の陽性者の数と誤解されるフェイク性を、常に回避できるような発表の仕方を工夫すべきである。
 
 感染経路が特定できており、感染が完全にコントロールできている状況ならば、今までの公開の仕方でも問題は少ないであろう。しかし、無症状陽性者が50%近くいるであろうと推定され、感染経路が特定できない感染者が増えた状況において引き続き、感染経路が特定できていた段階での方式をそのまま踏襲してデータの公開をすると、極めてフェイク性が高くなる。
 
 このような擬フェイク情報で感染拡大防止を議論していることに何ら合理性はなく、科学技術の入り込む余地が消えてしまう。擬フェイク情報に依拠して、感覚的な判断で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を発令し、経済活動に制限を加えてきたことは、大きな問題である。
 
 真の陽性者数は全国民を定期的に測定してこそ分かる。全国民を測定できなければ、無作為に選んだ対象者のサンプリングデータで、真の陽性者数を、定期的に推定すればよいのにそれもやっていない。例えば、東京都の検査人数は2020年の6月頃は、7日間移動平均で1000人程度であったが、2021年7月の現在は9000人である。2020年の6月頃の陽性者数と比較するなら、現在の陽性者数の数を1/9にした場合を考慮した比較も伴うべきであろう。
 
 東京都は7月に入ってから陽性者数が増えていると報告しているが、検査人数も増えている。これでは陽性者数が増えているという比較にはならない。極端な言い方では、現在の1000人は、2020年の6月頃の1000/9=111.1人に対応させるべきということになるのかもしれない。
 
 このような擬フェイク情報による非合理的な感染防止策を我が国の行政は平気でやっている。検査人数が変動するなら、少なくとも検査人数で規格化した陽性者数のデータで感染の拡大を論じるべきである。
 
 オリンピックの選手等は毎日検査をするというが、同一陽性者の検査数は重複してカウントしないように設定されているのであろうか。検査件数には同一人物に対する複数検体の計上や、陰性確認(治癒確認)のための検査も含まれているようであるが、そうすると、陽性率の計算では重複カウントされる人数は削除されているのであろうか。
 
 2020年5月30日には、医療機関などが東京都に報告したPCR検査の7?28日の「陽性者数」は486人に対し、保健所からの正式な報告では324人で162人という大きな差異が発見されたという事件もあった。
 
 「陽性者数」とは、例えば、「検査申請者の内、その日に陽性が検出された申請者の人数から 、前日以前の同一人物の件数を除いた数」等の明示をしてデータを発表すべきであるが、いまの発表の仕方では、さっぱりどういう測定をした結果なのか分からない。どういう測定をした結果か不明なデータは、自然科学的な判断をすれば信用できないデータであるので、論文等では掲載拒否になる。

 確かに厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」では一覧表に、PCR検査総実施件数が掲載されている。しかし、過去のPCR検査総実施件数と現在のPCR検査総実施件数の対比が直ぐには分からない記載の仕方であって、本当に陽性者の数が増えているのかを判別しにくい一覧表になっている。
 
 全国民や全都民を対象としたコロナ・ウィルス感染の検査によって陽性者数を測定できないなら、感染防止を検討する上で信頼できる指標になるのは、このコラムの第72回や第73回等で指摘した「単位人口死亡数」であろう。
 
 「単位人口死亡数」は、その国の人口を分母にした死亡者数であり、通常は、10万人あるいは100万人等の単位人口当たりの死亡数で表す。単位人口当たりの死亡数は分母が動かないので、信頼できるデータとして、流行の状況を横断的に比較できる。
 

§3 インフルエンザ対策と矛盾したコロナ対策:

 冒頭で述べたとおり、厚生労働省の人口動態統計(速報)によれば、死亡数が前年同期より減少しており、日本においてはSARS-CoV-2ウィルスによるパンデミックは発生していない。
 
 又、発表されている全国のSARS-CoV-2ウィルスの陽性者数を仮に採用するとしても、2020年の陽性者数は約23万6千人、2021年1月1日から7月15日まで陽性者数は約59万5千人である。この数は、表2に示す季節性インフルエンザの感染者数より桁違いに少ない数である。
 
 表2は実際に発熱等があり医療機関を受診した季節性インフルエンザの感染者の数であるので、「陽性者数」ではなく「感染者数」である。季節性インフルエンザの場合は陽性になると85%以上は発熱の症状が出るようであるので、季節性インフルエンザの陽性者数は表1よりも、更に多いはずである。
 
【表2】我が国では、季節性インフルエンザは毎年1000万人程度感染していた 

 表2から分かるように、季節性インフルエンザの全国の感染者の総数は、SARS-CoV-2ウィルスの陽性者の全国の総数に比して遙かに多い。2020年2月14日の厚生労働省の発表では、2月3日〜2月9日のインフルエンザで受診した全国の患者数は推計約31.5万人であるが、この推計値は、2020年全体のSARS-CoV-2ウィルスの陽性者数の総数約23万6千人より多い。

 更に、厚生労働省の2019年2月1日の発表によれば、2019年 1月21〜27日の1週間の全国患者数の推計約222万6千人であり、1日平均でも約30万人を超える。2020年全体のSARS-CoV-2ウィルスの陽性者数の総数よりも、たった1日の季節性インフルエンザの感染者数の方が多いのであるから、SARS-CoV-2ウィルスの流行は「さざ波」であろう。
 
 SARS-CoV-2ウィルスの場合、2020年の陽性者数は約23万6千人のレベルで、医療崩壊が叫ばれたが、表2に示すように、季節性インフルエンザの場合は、毎年1000万人程度が医療機関を受診しているのに、医療崩壊が叫ばれたことはあったであろうか。
 
 既にこのコラムの第71回で指摘したとおり、SARS-CoV-2ウィルスを感染症法の「2類感染症並み」に指定したことを解除すべきであろう。医療専門サイト「m3.com」が2020年9月に行った医療従事者を対象にした意識調査では、7割弱の医師が「2類感染症並みの指定の見直しが必要」と回答したという。
 
 SARS-CoV-2ウィルスの素性が不明な2020年1月28日の段階では、2類感染症並みの指定はやむを得ないであろう。しかし、2020年12月の厚生労働省の人口動態統計(速報)に示されたように、現在ではSARS-CoV-2ウィルスの素性は判明している。表2に示したように、我が国は、毎年1千万人以上の季節性インフルエンザの感染者数でありながら、医療崩壊が叫ばれることはなかったのである。
 
 グローバルヘルスコンサルティングジャパン(GHC)が、コロナ患者を受け入れた341病院を対象に調査をしたところ、集中治療専門医、救命救急専門医がいたのは193病院(57%)にとどまっていた。これに対し、コロナ患者を受け入れていない266の病院では、集中治療専門医や救命救急専門医が常勤しているのは35病院(15%)で、呼吸器内科専門医がいたのは89病院(39%)である。 
 
 更に第74回で指摘したように日本には約1400台の体外式膜型人工肺(ECMO)があり、世界的にも断トツに多いが、多数国内に存在するECMOは活用されていない。コロナ患者受入病院が、コロナ患者を受け入れていない医療機関からECMOを借りた例も報告されている。これで医療崩壊なのか。
 
 さて、前節で、陽性者数の変化ではなく、死亡者の数の変化を指標にして、緊急事態宣言の発令等を検討すべきと述べた。図2に示すように、季節性インフルエンザの死亡者の数はSARS-CoV-2ウィルスの死亡者の数より多かったが医療崩壊は叫ばれていない。
 
 【図2】季節性インフルエンザの死亡者数のシーズン毎の変化

 図2は国立感染症研究所感染症疫学センターが発表している1887年-1888年のシーズンから2018年-2019年のシーズンまでのシーズン毎の全国・全年齢の総死亡数を示している。1998年-1999年のシーズンには季節性インフルエンザによる死亡者数は3万5千人であり、SARS-CoV-2ウィルスの死亡者より遙かに多い。しかし、1998年-1899年のシーズンに緊急事態宣言が発令されることはなかった。
 
 逢見先生は1952年-1953年のシーズンから2008年-2009年のシーズンの季節性インフルエンザによる超過死亡数は年平均12,058人であったと発表している(逢見憲一他1名著、『わが国における第二次世界大戦後のインフルエンザによる超過死亡の推定 パンデミックおよび予防接種制度との関連』、日本公衆衛生雑誌、第58 巻、第10号、p. 867-878、(2011年))。
 
 一方、逢見先生は1899年から1939年の季節性インフルエンザによる超過死亡数は年平均24,832人であったと発表している(逢見憲一著、『わが国における第二次世界大戦前のインフルエンザ超過死亡』、日本医史学雑誌、第55 巻、第2号、p. 168、(2009年))。
 
 即ち、第二次世界大戦前は季節性インフルエンザの死亡者は年平均約2万5千人であったが、第二次世界大戦後の2008年-2009年のシーズンまでの、季節性インフルエンザの死亡者は年平均約1万2千人に減少したということである。そして、図2に示すように、2010年-2011年のシーズン以降は年平均3千人レベルになっている。ワクチンによる予防、検査法の進歩、治療法の進歩等によるものであろう。

§4 ウィルスの感染力は量子生物学の領域の解析が必要:

 インフルエンザ・ウィルスとSARS-CoV-2ウィルスとは異なるウィルスなので、原則的には、インフルエンザのワクチンでは、SARS-CoV-2ウィルスは防げないはずである。しかし、米コーネル大学のグループの研究によれば、イタリアの高齢者へのインフルエンザ・ワクチンの接種率が40%の地域のSARS-CoV-2ウィルス死亡率は約15%だったが、ワクチンの接種率70%と高かった地域では6%まで低下した報告がある。
 
 米ジョンズ・ホプキンス大学の研究者らも、ワクチンの接種率が10%増えるごとにSARS-CoV-2ウィルスによる死亡率が28%低下していたという報告をしている。ギリシャでは、BCGワクチンを接種した人はSARS-CoV-2ウィルスの発症率が45%減少した研究報告がされている。メキシコでは、麻疹、風疹、おたふく風邪のワクチンを接種した人は、SARS-CoV-2ウィルスに感染しても軽症ですむ割合が高かったという研究報告がある。
 
 重要なことは、SARS-CoV-2ウィルスに陽性になっても、発症しないように対策することであり、発症しても死なないような対策をすることである。信頼性の低い陽性者数のデータにより、過剰な感染拡大防止対策を追求するのではなく、免疫力全体を活性化させるにはどうしたら良いかということに感染防止対策の基本方針が向けられるべきである。
 
 米コーネル大学のデータ等は、種類の異なるワクチンであっても、免疫力全体を活性化させて、SARS-CoV-2ウィルスへの防御力を高めた可能性があることを示している。このような免疫力全体を活性化させる研究は量子生物学の領域であろう。
 
 1944年に量子力学の開祖E.シュレーディンガー(Schredinger)が名著『生命とは何か(What is life?)』で、生物体は「非周期性結晶」であると述べたのが、量子生物学の始まりと思う。1970年に国際量子生物学会が発足しているが、ウィルスの分野で量子生物学の発展に期待したい。
 
 筆者は2020年12月に(一財)大阪科学技術センター等の主催する『保物セミナー2020(Web討論)』において、ウィルスの撃退には量子生物学が重要であることを報告した。
 
   http://anshin-kagaku.news.coocan.jp/hobutsu2020ext.html
 
 SARS-CoV-2ウィルス・スパイク・グリコプロテインと人間のACE2受容体のドッキングの多くの説明はスパイク・グリコプロテインと ACE2受容体の形状が一致する、或いはスパイク・グリコプロテインと ACE2受容体の間の「親和力」が高いからドッキングできると、現象論的な説明がなされている。現象論的な説明で誤魔化すのではなく、「親和力」の内容を量子生物学におけるエネルギの共鳴で説明するのが一番簡潔なはずである。 
 
 2006年6月に恩師西澤潤一先生は、当時の小泉純一郎内閣総理大臣宛に対し、テラヘルツ波電波を利用した技術(特許第4272111号)でウィルスの変異に対策することができ、量子生物学による医学時代が到来するとの予言を、提言した。

 確率論や統計学においてベイズの定理(Bayes' theorem)というのがある。現在のPCR検査の多くは、濃厚接触者等の陽性になっている確率が高そうな集団を選んで検査している。ベイズの定理によれば、PCR法で全数検査するとSARS-CoV-2ウィルスに罹患していないにも関わらず検査で陽性になる「偽陽性率」が高くなる。これはPCR検査の精度が低いからである。ならば、もっと精度の高い検査法を研究して確立すればよい。これが科学技術である。

 残念ながら、我が国では西澤先生のテラヘルツ波電波を利用する技術は、未だ着目されていない。テラヘルツ波電波を使って、SARS-CoV-2ウィルスのリアルタイム検出装置を開発したのは、2021年7月現在ワクチン摂取率が世界で一番高いイスラエルである。 

   https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-05/aabu-ome052220.php

 尾身会長が感染防止に科学技術の重要性に言及するのであれば、政府は量子生物学の分野への多くの研究者が参画できるように支援し、量子生物学と量子電子工学の結合による新しい科学技術を積極的に開発すべきである。馴化したウィルスと仲良くするのが、これからのウイズ・ウィルスの時代の生き方になろう。 

 飲食店、競技場や公共交通機関の入り口に、ウィルスのリアルタイム検出装置を設置するDXを実施すれば、緊急事態宣言など不要になるであろう。

§5 医療が逼迫していないのを一番承知しているのは日本医師会

 高橋洋一嘉悦大教授に、SARS-CoV-2ウイルスの日本での流行は「さざ波」レベルだと指摘したのは、現在医師である元厚生労働省技官の木村盛世氏である。高橋先生は「さざ波」発言で、内閣官房参与を辞任した。

 しかし、まん延防止等重点措置発令中で、且つ緊急事態宣言発出の3日前の2021年4月20日に日本医師会長が発起人になり、100人規模の政治資金パーティーに医師会の幹部らを集めた。この事実は、SARS-CoV-2ウイルスの流行が「さざ波」レベルであることを、日本医師会が把握していたことの明かな証拠である。

 医師の常識として、パンデミックの状況で100人規模の集会をする訳がない。日本はパンデミックの状況にはないのである。

 医師全体32万人に対し日本医師会の会員数は約17万人であるので、日本医師会長はすべての医師の代表ではない。勤務医やフリーランス医師の多くは医師会会員ではなく、日本医師会に批判的な医師もかなりいるようである。

 日本医師会は自民党の非常に重要な集票組織であるので、政府や厚生労働省は日本医師会のいいなりになっている。医師会の政治団体である「日本医師連盟」は、自民党を中心として与野党に対して毎年5億円近くを献金している。過去に遡れば、日本医師連盟が自民党と厚生族議員らに11億円余の政治献金をしていた時代もあった(例えば、2001年の政治資金収支報告書。)。

 医療の逼迫というフェイク性に富んだ印象操作は、開業医がコロナ患者を受けいれる等の日本医師会の構造改革で解消できる性質のものである。コロナ患者を含めた日本の全体の死亡数が、前年同期より1万4千人も少なくなって、医療が逼迫するわけはないのである。

 地域の重症患者の治療などを24時間体制で行なっている大きな病院を「急性期病院」という。開業医の方を厚く保護する医師会の影響力は、診療報酬を急性期病院の勤務医に報いるような制度にしていない。そのため、急性期病院の医師や医療スタッフ等の数が足らないという不平等・不均衡が、以前から生じていたのである。

 今コロナ患者を受け入れている多くが、この急性期病院である。このような不平等・不均衡による医療崩壊を危惧する声は、SARS-CoV-2ウイルスの流行の前からあり、そこが日本の医療制度の根本的問題であった。

 2020年11月には、旭川医科大学が他病院からのコロナ患者の受け入れを求めた病院の院長を学長が解任した。旭川医大病院は、旭川市内のコロナ重症患者の担当だった。その後2021年6月になり学長が辞表を提出している。

 コロナ患者を受け入れると一般の外来患者、入院患者、手術数が減り、病院にとっては収益減を招く。全国の87の大病院中、重症者受け入れ数が10人以上が6病院で、4人以下が62病院である。受け入れゼロが22病院もある。大学の教授会で政治力を持つのは、死因の上位を占めるがん・脳卒中・心筋梗塞等の教授であり、感染症関連の教授の政治力が弱く、赤字経営の危機を避けているのである。

 逆に言えば、現在の日本はがん・脳卒中・心筋梗塞等の死者の方が、コロナによる死者よりも圧倒的に多いのである。パンデミックの状況の諸外国では、死因のランキングのトップの方にコロナによる死者がいる。外国の真似をするのではなく、我が国独自のコロナ対策をするべきであるが、我が国のトップは外国の真似ばかりしている。

 重症者向けの設備が整わない中規模病院がコロナ患者を受け入れて疲弊している一方で、重症者への対応が可能な規模と最先端の設備を持つ大学病院の多くがコロナ患者を受け入れていないのは、大学病院の多くは「さざ波」ではなく「大波」に対処しているということである。医療崩壊ではなく、「さざ波」と「大波」を扱う医療の調整不足による不均衡である。

 確かに日本の大学病院等の大病院が重症患者を受け入れないやり方は世界に逆行しているとも言える。この世界に逆行するやり方の背景に、より高所からの包括的な判断ができない厚労省等の日本の政治の戦略ミスがある。

 東京オリンピックの無観客開催は、日本のトップの「無能力さ」を世界に向けて発信していることに気がつかねばならない。
 
    弁理士鈴木壯兵衞(工学博士 IEEE Life member)でした。
    そうべえ国際特許事務所は、「独創とは必然の先見」という創作活動のご相談にも
    積極的にお手伝いします。
              http://www.soh-vehe.jp

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鈴木壯兵衞(弁理士)

そうべえ国際特許事務所

外国出願を含み、東京で1000件以上の特許出願したグローバルな実績を生かし、出願を支援。最先端の研究者であった技術的理解力をベースとし、国際的な特許出願や商標出願等ができるように中小企業等を支援する。

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