Mybestpro Members

福島治男プロは静岡新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

自分らしく働くとは、組織とどう関わることなのか ―シャインの「キャリア・ダイナミクス」から考える

福島治男

福島治男

テーマ:キャリア



「自分らしく働きたい」

そう考える人は少なくないと思います。

  • 自分の好きなことを仕事にしたい。
  • 自分の価値観を大切にしたい。
  • 自分に合った働き方をしたい。


これまでこのシリーズでは、「好き嫌い」やエドガー・シャインの「キャリア・アンカー」を取り上げながら、自分自身が何を大切にしているのかを知ることについて考えてきました。

一方で、私たちは一人で仕事をしているわけではありません。

会社には会社の目的があります。

顧客からの期待があります。

上司や同僚との関係もあります。

そして、自分自身にも「こうありたい」という思いがあります。

では、

「自分が大切にしたいこと」と「組織から求められること」を、どのように捉えればよいのでしょうか。

今回は、シャインの「キャリア・ダイナミクス」という考え方から、この問いを考えてみたいと思います。

「キャリア・ダイナミクス」とは?


シャインの『キャリア・ダイナミクス』は、1991年に白桃書房から刊行されたキャリア研究の古典的な著作です。

本書の第2部には「キャリア・ダイナミクス――個人と組織の相互作用」というタイトルが付けられています。

そこでは、組織への参加、仕事の習得、組織との相互受容、心理的契約、キャリア・アンカーの開発、キャリア中期などが扱われています。

ここで注目したいのが、「個人と組織の相互作用」という言葉です。

キャリアというと、

「自分は何をしたいのか」

という個人の問題として考えがちです。

しかし、シャインは個人だけを見ているわけではありません。

個人と組織が、お互いに影響を与えながらキャリアをつくっていく。

そのような視点でキャリアを捉えています。

会社に合わせるだけでも、会社を自分に合わせるだけでもない


会社に入れば、当然、組織のルールや仕事の進め方を覚える必要があります。

最初は分からなかった仕事も、経験を積む中で少しずつできるようになります。

会社から期待されることも増えていくでしょう。

一方で、働いている本人も、

  • 「この会社は自分に合っているだろうか」
  • 「この仕事を続けていきたいだろうか」
  • 「この会社で、自分の大切にしたいことを実現できるだろうか」


と考えています。

つまり、会社が社員を見るだけではありません。
社員もまた、会社を見ているのです。

シャインは、このような個人と組織の関係を「相互受容」という視点から捉えています。『キャリア・ダイナミクス』では、その後に「心理的契約」というテーマも扱われています。

「心理的契約」という、見えない約束


心理的契約とは、簡単に言えば、会社と個人との間にある「お互いの期待」のようなものです。

例えば社員は、

「この会社なら、自分を成長させてくれるだろう」

「頑張れば、仕事を任せてもらえるだろう」

と思っているかもしれません。

一方、会社は、

「この人なら、将来はリーダーになってくれるだろう」

「長く働いて、会社を支えてくれるだろう」

と期待しているかもしれません。

ところが、こうした期待が、時間とともにずれてくることがあります。

社員は「専門性を高めたい」と思っているのに、会社は「管理職になってほしい」と考えている。

会社は「新しいことに挑戦してほしい」と思っているのに、本人は「今の仕事をじっくり極めたい」と考えている。
このようなズレは、決して珍しいことではありません。

だからこそ、個人と組織の関係は、一度決めたら終わりではなく、**変化の中で調整されていくもの**と考えることができます。

キャリア・アンカーも、仕事を通して見えてくる


ここで、以前の記事で取り上げたで取り上げた「キャリア・アンカー」ともつながってきます。

キャリア・アンカーは、自分が仕事をする上で「これだけは大切にしたい」と考える価値観や動機、能力についての自己イメージです。

例えば、

「専門性を高めることが大切」

「自分の裁量で仕事をしたい」

「人を支える仕事がしたい」

など、人によって大切にするものは違います。

しかし、自分のキャリア・アンカーが、最初から認識できるというものではありません。

仕事を経験し、異動したり、新しい役割を担ったり、失敗したりする中で、

「自分はこういう仕事が好きだったんだ」

「これは思ったほど大切ではなかった」

「やっぱり自分には、これだけは譲れない」

と気づきながら見えてくるものです。

シャインの『キャリア・ダイナミクス』でも、組織への参加や社会化、相互受容などに続いて「キャリア・アンカーの開発」が扱われています。

つまり、働くことそのものが、自分自身を知るプロセスにもなっているのです。

「自分らしさ」は、最初から決まっているわけではない


このことは、今回のシリーズで考えてきた「好き嫌い」ともつながります。

私は、キャリアにおいて「好き嫌い」を知ることは大切だと考えています。

ただし、

「好きなことだけを仕事にすればいい」

という意味ではありません。

仕事をしてみなければ分からない「好き」もあります。

反対に、やってみて初めて「これは自分には合わない」と分かることもあります。

会社から新しい役割を任されたことで、自分でも知らなかった能力や興味に気づくこともあります。

だから、

「自分らしさを知ってから仕事を選ぶ」

だけではなく、

「仕事を経験しながら、自分らしさを知っていく」

という見方もできるのではないでしょうか。

「マッチング」ではなく「関係をつくる」


キャリアを考えるとき、

「自分に合った会社を探す」

という考え方があります。

もちろん、それも大切です。
しかし、個人と組織が最初から100%一致することは、ほとんどないでしょう。

自分にも希望があります。

会社にも希望があります。

顧客にも期待があります。

そして、時間が経てば、それぞれが変化します。

だからこそ、私は「マッチング」という言葉だけではなく、「ブレンド」という言葉も大切だと考えています。

自分の希望と会社の期待を完全に一致させるのではなく、

「会社は何を求めているのか」

「自分は何を大切にしているのか」

「その間で、自分にはどんな役割が担えるのか」

を考えていく。

場合によっては、会社側が仕事の役割を変えることもあるでしょう。

本人が新しい能力を身につけることもあるでしょう。

あるいは、本人が「意外とこの仕事は面白い」と新しい自分を発見することもあります。

なお「キャリア・ダイナミクス」の邦訳本では「調和」という言葉が多く用いられています。

キャリア・アンカーという自らのニーズと、キャリア・サバイバルという周囲からの期待をどのように扱うのかを考える際に、いかにして「調和させるか」が、キャリア・デザインやキャリアを創造していく上で鍵となる視点なのだと思います。

「自分らしく働く」は、好きなことだけをすることではない


ここまでのコラムでは、「好き嫌い」をテーマにお伝えしてきました。

しかし、好き嫌いを100%実現することが、自分らしく働くことだとは考えていません。

会社で働く以上、果たすべき責任があります。

顧客からの期待もあります。

組織の中で担う役割もあります。

その中で、

「ここは自分らしくできている」

「この仕事は好きだ」

「この部分では自分の強みを活かせている」

というものが、多かれ少なかれ存在していることが大切なのではないでしょうか。

好き嫌いだけでもない。

会社から求められることだけでもない。

その間で、自分なりの接点をつくっていく。

それが、私が考える「自分らしく働く」ということです。

キャリアは「完成品」ではない


シャインの『キャリア・ダイナミクス』では、キャリア中期の課題についても扱われています。

人は人生を歩んでいくに従って、仕事以外でもさまざまな役割を担う存在になります。

そうすると、自らのキャリアのニーズも変化していきます。

若い頃は仕事一筋だった人が、家庭ができると仕事より家庭を大切にしたい時期が来るかもしれません。

会社の事業が変わり、それまでの役割がなくなることもあるでしょう。

自分も変わる。

会社も変わる。

仕事も変わる。

だからこそ、キャリアも変化していきます。

キャリアは、完成させるものではなく、その時々の自分と環境との関係の中で、つくり直していくもの。

そんなふうに考えると、キャリアについて少し違った見方ができるのではないでしょうか。

キャリアを考えることは、関係を考えること


ここまで、「好き嫌い」「キャリア・アンカー」「経営者と従業員」「キャリア・サバイバル」と、さまざまな角度からキャリアについて考えてきました。

そして今回、「キャリア・ダイナミクス」という考え方を取り上げました。

すると、キャリアは、

「自分は何がしたいのか」

だけでは語れないことが見えてきます。

自分自身。

会社。

仕事。

家庭。

顧客。

社会。

私たちのキャリアは、さまざまなものとの関係の中でつくられています。

だから、

「会社に自分を合わせる」だけでもない。

「会社を自分に合わせる」だけでもない。

その間にある関係を考え、必要に応じてつくり直していく。

それが、キャリアを「ダイナミックなもの」として捉えるということなのかもしれません。

そして、ここで一つの問いが生まれます。

では、

「自分は何を大切にしたいのか」

「今の組織で、自分はどんな役割を担いたいのか」

「これから、どんなキャリアをつくっていきたいのか」

こうしたことを、誰と一緒に考えていけばよいのでしょうか。

次回はキャリアコンサルタントが、個人と組織の間でどのような役割を果たせるのかについて考えてみたいと思います。

関連するコラム

「好き嫌い」は仕事に持ち込んではいけない?

人それぞれにある「譲れない」価値観を知ること

「あなたの良いところ」は、誰が決める?

会社は自分のキャリアをつくる場所でもある

仕事は変わる。だから、役割を捉え直す 「キャリア・サバイバル

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

福島治男
専門家

福島治男(キャリアコンサルタント)

キャリアデザイン・メンタルサポート株式会社

製造業での会社員経験を生かしたキャリアコンサルティング。丁寧な傾聴で相談者の自律的な成長を支援します。組織課題を可視化することで、働く人と企業が共に成長できる環境づくりに貢献します。

福島治男プロは静岡新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

組織活性を導くキャリア設計とメンタルサポートのプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ静岡
  3. 静岡のメンタル・カウンセリング
  4. 静岡のキャリアカウンセリング
  5. 福島治男
  6. コラム一覧
  7. 自分らしく働くとは、組織とどう関わることなのか ―シャインの「キャリア・ダイナミクス」から考える

福島治男プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼