正解のない時代にキャリアを創造する【第6回】 人材版伊藤レポートの3P・5Fモデルとは

「自分らしく働きたい」
そう考えたとき、まず思い浮かぶのは、
「自分は何が好きなのか」
「どんな仕事がしたいのか」
「何を大切にしているのか」
といった、自分自身のことではないでしょうか。
これまでのコラムでも「好き嫌い」や、エドガー・シャインの「キャリア・アンカー」を通じて、自分自身の価値観を知ることについて考えてきました。
しかし、仕事を取り巻く環境は、ずっと同じではありません。
会社の事業が変わる。
お客様のニーズが変わる。
新しい技術が登場する。
働き方が変わる。
そうすれば、当然、仕事の内容や求められる役割も変わっていきます。
今回は、シャインの「キャリア・サバイバル」という考え方から、変化する仕事や役割について考えてみたいと思います。
「キャリア・サバイバル」は、会社で生き残ること?
「サバイバル」という言葉から、
「会社に必要とされ続けるために頑張ること」
「会社の期待に合わせて生き残ること」
というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、シャインの『キャリア・サバイバル――職務と役割の戦略的プラニング』で扱われているのは、もう少し違った視点も含むものです。
シャインは、現在の職務と役割を棚卸しし、環境の変化を確認します。そして、その変化が周囲の利害関係者の期待にどのような影響を与えるのかを考え、最終的に職務や役割、職務要件を見直していくという6つのステップを示しています。
つまり、
「今の仕事を、そのまま続ければいいのか?」
と問い直すための考え方なのです。
長期的な視点である「キャリア」を創造していくためには、今ある仕事もこなしていかなければならないのは事実です。そして5年、10年先をも生きるためには、今日を生きなければならないという点では「サバイバル=生き残る」を意味しますが、目の前にある仕事が変化していくものだと捉えるのが、キャリア・サバイバルの特徴の一つです。
「職務」と「役割」の違いを意識してみる
ここで、シャインが「職務」だけではなく「役割」に注目していることが重要になります。
例えば、「営業」という職種があったとします。
以前は、
「商品を紹介して販売する」
ことが主な仕事だったかもしれません。
しかし、今では、
「顧客の課題を見つける」
「社内の専門部署と連携する」
「新しい提案を考える」
「顧客との長期的な関係をつくる」
といったことまで求められるかもしれません。
職種の名前は変わっていなくても、その仕事に求められる役割は変わっているのです。
だからこそ、シャインは職務と役割を分析し、環境の変化を踏まえて戦略的にプランニングすることを提案しています。
「自分の仕事はこれ」と決めつけない
私たちは、仕事に慣れてくると、
「自分の仕事はこれだ」
と考えるようになります。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、環境が変化しているのに、仕事だけを固定的に捉えていると、いつの間にか周囲から求められていることとの間にズレが生じるかもしれません。
例えば、会社が新しいサービスを始めれば、営業担当者に求められる知識や役割も変わるでしょう。
IT化が進めば、これまで人が行っていた仕事の一部が変わるかもしれません。
顧客のニーズが変われば、「良い商品を売る」だけではなく、「顧客の課題を一緒に考える」ことが求められるようになるかもしれません。
だからこそ、
「今、自分には何が求められているのか?」
だけでなく、
「これから、何が求められるようになるのか?」
と考えることが大切になります。
周囲からの期待にも目を向ける
仕事は、自分一人で完結するものではありません。
上司がいる。
同僚がいる。
他部署がある。
顧客がいる。
それぞれが、自分の仕事に対して何らかの期待を持っています。
シャインのキャリア・サバイバルという分析過程においては、環境の変化が利害関係者の期待にどのような影響を与えるのかを考えるステップがあります。
例えば、会社の事業方針が変わったことで、
「これまで以上に新しいことに挑戦してほしい」
と期待されるようになるかもしれません。
あるいは、
「自分の仕事だけでなく、後輩を育ててほしい」
という新しい役割を任されることもあるでしょう。
こうした変化に気づくことは、会社のためだけではありません。
自分自身のキャリアを考える材料にもなります。
「自分は人を育てることに興味があるのだろうか」
「新しいことに挑戦するのは好きだろうか」
「専門性を深める方が自分には合っているのだろうか」
そんなふうに、自分自身について考えるきっかけにもなるからです。
「会社が求める人材」に自分を合わせる、という話ではない
ここで大切なのは、
「会社が求める人材になりましょう」
ということではありません。
会社から求められることを知った上で、
「自分は、その役割をどう捉えるのか」
を考えることが大切なのです。
やってみたら意外と面白いかもしれません。
新しい自分の強みに気づくかもしれません。
反対に、
「これは自分が大切にしたいこととは違う」
と気づくこともあるでしょう。
どちらも、自分のキャリアを考える上では意味のある発見です。
前回まで取り上げてきた「好き嫌い」や「キャリア・アンカー」も、こうした経験を通じて、より具体的に見えてくることがあります。
「好きな仕事」だけを探していても、キャリアは見えてこない
「好きな仕事をしたい」
という気持ちは、大切にしてよいと思います。
しかし、好きな仕事を探すだけでは、キャリアのすべてを考えたことにはなりません。
仕事には、自分の好き嫌いとは別に、社会や組織から求められる役割があります。
そして、その役割は変化します。
だからこそ、
自分は何を大切にしたいのか。
そして、
今の仕事には何が求められていて、それはこれからどう変わるのか。
この両方を見る必要があります。
「好き嫌いだけ」でもない。
「会社から求められることだけ」でもない。
まずは、この二つの視点を持つことが、キャリアを考える第一歩なのではないでしょうか。
キャリアのニーズは変化する、だからキャリアは創造すべきもの
シャインのキャリア・サバイバルが興味深いのは、仕事を固定されたものとしてではなく、環境の変化の中で捉えていることです。
今の仕事が、5年後も同じとは限りません。
求められる役割も変わるかもしれません。
だからこそ、自分のキャリアについても、
「以前こうだったから、これからもこうする」
と決めつける必要はありません。
仕事の変化を知り、自分の役割を捉え直し、その中で自分が何を大切にしたいのかを考える。
そんな繰り返しの中で、自分のキャリアが形づくられていくのだと思います。
つまり私たちが社会で働いていく際には、まずは自身のキャリアに対するニーズと、組織や環境から求められるニーズの二つがあることを、理解しておく必要があるということであり、それらは変化していくものだと捉えることが重要です。
次回は、シャインの「キャリア・ダイナミクス」という考え方から、個人と組織がどのように関係をつくっていくのかを考えてみたいと思います。
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