値上げが怖い。その正体は何か。【引き算コーチング】
「人に任せたいんです。でも、なかなか任せられなくて……」
経営者の方とお話をしていると、こんな言葉を聞くことがあります。
特に、個人事業主や小規模な会社の経営者の方は、自分自身が現場の中心になっていることも多いですよね。
お客様のこともよく知っている。
商品やサービスのこともよく分かっている。
これまで自分で考えて、試して、失敗して、そして今まで事業を続けてきた。
そう考えると、
「自分がやったほうが早い」
「自分がやったほうがうまくできる」
と思うのも、無理はないと思うんです。
むしろ、それはある意味で当然なのかもしれません。
だって、今の事業が続いているということは、これまで自分がやってきたことによって、実際にお客様に選ばれたり、売上をつくったりしてきたということですから。
そこには、ちゃんとした「成功体験」があります。
私は、この成功体験そのものは、決して手放す必要はないと思っています。
むしろ、それは経営者にとって大切な財産です。
ただ、少し気になることがあります。
その成功体験が、
「このやり方でうまくいった」
から、「このやり方が一番いい」
そして、「自分以上にうまくできる人はいない」
に変わってしまうことがあるんです。
ここは、ちょっと似ているようで違うんですよね。
今のやり方で成功した。
これは事実です。
でも、それが「唯一の正解」かどうかは、また別の話です。
例えば、もし自分とは全く違う経験をしてきた人が、この事業を見たらどうでしょう。
自分にはない知識を持っている人。
違う業界で経験を積んできた人。
自分とは違うお客様との関わり方をしてきた人。
そういう人が、自分のビジネスを見たら、もしかすると私たちが今まで考えたこともないような方法を思いつくかもしれません。
もちろん、うまくいくとは限りません。
でも、そこから試行錯誤すれば、うまくいく可能性はある。
私は、ここが「人に任せる」ということの面白さなんじゃないかなと思っています。
人に任せるというと、
「自分ができることを、誰かにやってもらう」
というイメージがあります。
でも、本当はそれだけではないんじゃないでしょうか。
自分とは違う経験、知識、考え方、行動量を持っている人に任せることで、
自分一人では生まれなかったやり方が見つかる可能性があります。
つまり、「自分の代わりをつくる」ということだけではなく、
「自分にはなかった成功の可能性を増やす」ということです。
ただ、ここで難しいのが、
「そうは言っても、任せるのが怖いんですよね」
というところです。
これも、よく分かります。
自分がやったほうが確実。
自分なら失敗しない。
これまでこの方法でやってきた。
だから、わざわざ誰かに任せて、うまくいかなかったらどうするんだ、と。
でも、ここで私は、答えを出すのではなく、問いを投げかけてみたいんです。
「本当に、自分がやることが一番いいのでしょうか?」
「自分と同じやり方でできる必要がありますか?」
「もし、その人が自分とは違うやり方で成功するとしたら、どんな方法があるでしょう?」
そして、「今の自分の成功体験以外に、成功する方法があるとしたら?」と。
もちろん、今までのやり方が間違っていると言いたいわけではありません。
そのやり方で、実際にここまで事業を続けてきた。
それは紛れもない事実です。
だから、その成功体験を否定する必要なんてないんです。
ただ、その成功体験だけを「一番の正解」にしてしまうと、もしかすると、これから生まれるはずだった別の可能性まで閉じてしまうかもしれません。
私は、コーチングの中で「思い込みを外しましょう」とは、
あまり言いたくありません。
その考え方にも、その人なりの理由があります。
その人をここまで連れてきたものでもあるからです。
だから、「それも一つの考え方ですよね。
でも、もし他にも可能性があるとしたら、どんなものがあるでしょうか?」
というところから、一緒に考えてみたいんです。
任せられない経営者が、本当に手放すべきもの。
それは、仕事そのものではないのかもしれません。
ましてや、これまで積み重ねてきた成功体験でもありません。
もしかすると、
「自分のやり方が一番いい」
と決めてしまうことなのかもしれません。
自分にはない経験を持つ人がいる。
自分とは違う考え方をする人がいる。
自分とは違う方法で、同じように、あるいはそれ以上に成果を出す可能性もある。
そう考えられるようになると、「任せる」ということの意味も、少し変わってくるんじゃないでしょうか。
自分の仕事を手放す。
それだけではなく、
”自分一人では見ることのできなかった可能性を、誰かと一緒に見つけていく。”
私は、それも経営における「引き算」の一つだと思っています。


