情報管理セミナーでの質疑で思ったこと
知識だけあってその意味がわからない!?・・
●今日、子供と話していた時ですが、たまたま深海魚の話から水圧の話になって大気圧の話になったときです。「じゃあ大気圧って何?」と私が尋ねると「大気圧は1013hPaでしょ?」といったので「ほう、よく知っているね」と感心したふりをしました。そこで「じゃあ、それってどんなことを表しているの?」と尋ねてみました。すると困った顔をして「大気圧はそうなっているの」と言います。
●ちょっと意地の悪い質問だったかもしれませんが、わたしが尋ねたかったのは数値ではなくそれがどのような状態かを説明してほしかったのです。
●つまり大気圧とは1平方センチメートル当たり約1キログラムの空気の圧力がかかっている状態、1平方メートルでは約10トンの空気の圧力で抑えつけられている・・・というようなことを説明してほしかったのです。
●たとえば100平方センチの面積がある吸盤では、それにかかる大気圧は 「100cm2x1kg=100kPa」 ということで、たった10センチ四方位の吸盤でも100キロもの力で押さえつけられていることになります。単に引っ張って取れるものではありません。
●これは生活で吸盤を使ったことがあれば、大きな吸盤を引きはがそうとしてもなかなか取れないという経験で大気圧というものを体感で理解が出来ます。
●ところが、「大気圧は1013hPa」という知識だけあっても、体験や経験を通した理解がないと、その現象の本当の意味を理解できていないに等しくまた説明もできません。つまり数値を知っているだけでは「大気圧」という事象について本質を理解しているとは到底言えないわけです。
●このような傾向は、最近の教育現場でも深刻な問題になっているそうです。知識だけ詰め込んで本質や意味がわからないと、生活面などにも影響が出てしまいます。
●知識と知恵は違います。知恵は知の恵みと書きますが、得た知識を生かすことによって恵みを得ることを言います。今社会で求められているのは知識よりも知恵ですね。
裾野が広いコンピュータ工学に関係する工学的、科学的な問題
●大気圧の話をしましたが、コンピュータと何の関係があるのか?と思われるかもしれませんが、実はこれが大ありなんです。
●パソコンのOSやデータが入っているHDD(ハードディスクドライブ)という部品は円盤状の磁気記録が可能なディスクに磁気でデータを書き込み記録しています。このディスクのデータを読書きする部分、つまり「ヘッド」と言われる部分は実はディスクに直接接触していません。
●ディスクヘッドには「スライダ」という羽のようなものが付いていて、ディスクが高速回転することによって生じる空気の粘性と気流で飛行機のようにディスク上を浮いて滑空します。
●ということは、気圧が変化した場合空気の濃さも変化しますから、滑空に必要な空気の状態変化がそのままヘッドの滑空に影響を与えることになるというわけです。ですから、大気圧がパソコンへ与える影響は非常に大きいと言えます。
●ディスクとスライダの間のすき間は、15nm(ナノメートル)というウイルスの大きさよりも狭い間隔で「飛んで」います。その狭いすき間で滑空しているところに、少しでも外部から振動が加えられればわずかな高さで浮いているヘッドはあっという間にディスクに接触。ディスク面は接触で傷つき、激突した衝撃でディスク表面から削れた「かけら」が盤面に拡がって更にそれをヘッドが拾い噛み込み、円周状に傷が広がって被害が拡大していきます。
●円周上に傷が入ると、データエラー訂正などは意味をなさなくなり事実上データは「お亡くなり」になります。光学メディアなども放射状に入る傷には強いですが円周状に入る傷はデータも円周状に記録されるため読み書き不能になり致命的になります。
●こうなると、パソコンがが固まる、起動しない、動作がおそいなどの弊害が出ます。
●わずかな振動でもパソコンは大変なダメージを被ることになりますので、移動の際は必ず電源は落とす必要があります。(SSDなどは回転系の記憶媒体ではないのでこの話は関係が無くなります。)
●HDDメーカーは、大気開放型の現在の構造から、ヘリウムを封入した密閉型のHDDの開発、販売を行っています。
●ヘリウムを封入することで、大気より粘性が低くなりプラッタの回転負荷が減って低消費電力になり、さらに抵抗が減るために発熱、騒音を改善する効果があるそうです。良い事ずくめですがヘリウムガスは昨今希少で高価なために価格面が難点のようです。
●これでわかるように、大気圧の話がコンピュータに直結した話になっているように、その他の様々な物理的な問題は裾野が広いコンピュータ工学にどれも関係してきますので、全方位に感覚を研ぎ澄ます必要があります。
工学的観点が求められるこれからのITサポート
●ITサポートの技術者は、ただ単に部品交換屋いわゆる俗語でチェンジニアとか、御用聞きだと思われているかもしれません。実際にそういう業者も多いですが、私は常日頃から情報収集と研究・検証行っており、コンピュータサポートをできるだけ工学的な観点から行うようにしています。
●ですから、CPUメモリなどの帯域計算設計や放熱などを考察するための熱伝導、また、気流などの動きに関する換気工学などを駆使して、ケーシング内部の検証などをも行っています。
●診断にもデジタル計測機器類を用いて、電源の各部電圧や温度分布などを測りながら検証を行っています。
●これらの日々の努力が理解されるように、これからも分かり易い、しかしきちんとした工学的な検証や根拠に基づいたアドバイスをお届けしていきたいと思います。
「パソコンとほこり」
http://www.kumin.ne.jp/kiw/hokori.htm