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高塚哲治

欠陥住宅問題を解決し良質な建築の創造へ導く一級建築士

高塚哲治(たかつかてつじ) / 建築家

タウ・プロジェクトマネジメンツ一級建築士事務所

コラム

「外壁タイル」のトラブル(「落下」「接着不良(浮き):はく離」「割れ」)(1)

2020年5月29日 公開 / 2020年12月28日更新

テーマ:欠陥住宅

コラムカテゴリ:住宅・建物

 このところ、テレビや新聞などで「外壁タイル」が落下する事故が報道されています。また、「外壁タイル」に関する「落下」や「接着不良(浮き):はく離」「割れ」のトラブル相談も寄せられ、マンション管理組合や建物オーナーが、売主や施工者を相手取り裁判で争うケースもあります。
 裁判における争いや、売主や施工者と話し合いを行う場合には、不良の原因と合わせて「接着不良(浮き):はく離」(「落下」を含む)「割れ」の位置と数量(全数量に対する不良部分の割合)を特定する必要があり、裁判においては、補修方法と補修金額を算定する必要があります。いずれにせよ、日常の点検が重要で、異常が認められる場合は、早期に専門家に相談することが肝要です。
 従来、「外壁タイル」は、「躯体(コンクリート面)」に「下地モルタル」を塗り、その上に「張り付けモルタル」で「外壁タイル」を張る工法が一般的でしたが、最近は「下地モルタル」を省き、「躯体(コンクリート面)」に直接「張り付けモルタル」により「外壁タイル」を張る「直張り工法」が主流となっています。(写真-3)(写真-4)
 また、「ALC版」や「押出成形セメント板」の上に「張り付けモルタル」により「外壁タイル」を張る工法も採用され、この工法においても「落下」「接着不良(浮き):はく離」「割れ」が生じる場合があり、トラブルになるケースも見受けられます。
 「直張り工法」においては、「コンクリート」の「型枠」に塗装合板が使用され「躯体(コンクリート面)」の打上り面がツルツルで平滑になっていることに加えて、「コンクリート」の収縮が納まる前に「外壁タイル」を張る/「型枠」剥離剤が残留している/「吸水調整剤」を使用していない/「張り付けモルタル」にポリマー入りセメントモルタルを使用していない、などの要因が重なると、「張り付けモルタル」が「コンクリート」面から剥離するリスクが高まります。(写真-1)(写真-2)

(1) 「外壁タイル」の「落下」「接着不良(浮き):はく離」の仕組み
 「直張り工法」において、「躯体(コンクリート面)」と「張り付けモルタル」や「下地調整モルタル」(【「下地コンクリート」の型枠精度の不良(平たんさの不良など)に伴う厚さ調整用の下地モルタル】)、「下地調整モルタル」と「張り付けモルタル」、および「張り付けモルタル」と「外壁タイル」の各接着面(界面)には、直射日光・外気温・吸水乾燥等の変化に伴う膨張収縮が繰り返し作用します。(これを「ディファレンシャルムーブメント」といいます。)
そのため、各接着面(界面)には「せん断応力」が生じ、「せん断応力」が各接着面(界面)の接着力を上回った場合、あるいは「せん断応力」の繰返しにより各接着面(界面)の接着力が低下した場合、各接着面(界面)部分で「接着不良(浮き):はく離」が顕在化し、その後剥落(事故)へと至ることになります。
 「直張り工法」においては、「外壁タイル」張りの標準的な設計施工上の手引きとなる各「設計施工基準」が整い活用されていますが、新築工事時や大規模修繕工事時に、「外壁タイル」張りの標準的な設計施工上の手引きとなる各「設計施工基準」に基づく適切な工事が行われていない場合、新築時や修繕時から各接着面(界面)が持つべき接着力が不足し、「躯体(コンクリート面)」と「張り付けモルタル」や「下地調整モルタル」、「下地調整モルタル」と「張り付けモルタル」、および「張り付けモルタル」と「外壁タイル」の各接着面(界面)に「接着不良(浮き):はく離」が生じる確率は高くなります。
 新築工事時や大規模修繕工事時に、「外壁タイル」張りの標準的な設計施工上の手引きとなる各「設計施工基準」に基づく適切な工事が行われず、初期から「接着不良(浮き):はく離」が生じているにもかかわらず、「接着不良(浮き):はく離」が、施工完了後の早期に目視で発見されにくい理由は、「外壁タイル」間に詰められている「目地モルタル」(「シーリング目地」を含む)により「外壁タイル」が連結され、その付近全体が比較的接着力が高い部分に支えられていることで、「接着不良(浮き):はく離」に伴う剥落(事故)が顕著に生じることなく、一見して健全な状況であるという誤った判断を下してしまうところにあります。
 また、このような状態にあっても、「外壁タイル」の「接着不良(浮き):はく離」を地上(遠方)から目視調査だけで発見することは難しく、「外壁タイル」の「目地モルタル」(「シーリング目地」を含む)による「タイル」間の結合力が重力に耐え切れなくなった時点で、突然に「落下」する事故が発生することになります。
 ある実験結果によると、経年に伴い「外壁タイル」の接着強度は高くなることから、「ディファレンシャルムーブメント」に伴う応力を吸収する「伸縮調整目地」を、標準的な設計施工上の手引きとなる各「設計施工基準」に規定された位置に規定された大きさで設置することにより、「外壁タイル」の「落下」「接着不良(浮き):はく離」「割れ」を未然に防ぐことができ、「MCR工法」「超高圧水洗浄法」などによるコンクリート表面処理の実施と併用して、10年以上のはく離防止が維持できることも実証されています。


(写真-1)

(写真-2)

(写真-3)

(写真-4)

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