マンション問題(2)「分譲マンション」のトラブル
首都圏への転入者が転出者を上回る転入超過の状態が続いています。政府は、「2020年に東京圏と地方の転出入を均衡させる。」という目標を断念したといいます。首都圏への人口流入の増加や、東京五輪関連・インバウンドの急増などに伴うホテル需要の拡大などによる土地価格の上昇と、建設資材や労務費高騰による建設コストの高止まりから、首都圏のマンション販売価格は、引き続き高い状態が維持されています。
㈱不動産経済研究所の市場動向調査によると、今年1月度の首都圏における「分譲マンション」1戸あたりの販売価格は、高額物件の供給、販売戸数の減少も影響して8,360万円(126.2万円/㎡)と大幅に上昇しています。ちなみに、近畿圏における同月の「分譲マンション」1戸あたりの販売価格は、4,296万円(62.9万円/㎡)となっています。購入に要する諸費用、引っ越し費用、家具類などの購入費用を含むと、マンションの購入は、生活者にとって人生最大の買い物といえるでしょう。
「分譲マンション」は、工事完成前に購入するケースも多く、特に、立地条件、広さ、間取りなどにより販売開始と同時に即時完売する物件もあります。また、中古物件をリフォームして購入するケースもよく見受けられます。
新築の物件を購入する場合、中古の物件を購入する場合の何れにおいても、「分譲マンション」(特に共有部)は、生産者(設計監理者、施工者、販売業者)を除き、設計内容の詳細や工事中の施工の水準を確認することはできず、その建築物が有する性能(安全性/耐久性/維持管理性/美観性等)は生産者の力量に左右されることになります。
国土交通省が公開しているデータ(平成30年度「マンション総合調査」結果報告書)に従うと、旧耐震基準ストック数約104万戸を含めた「分譲マンション」のストック戸数は上昇を続け、総人口の約10%の人々が「分譲マンション」に暮らしているといい、国土交通省「マンション総合調査」の結果が示すように、マンション世帯主は高齢化の傾向にあり、マンションへの永住意識は高まっています。【表-1】【表-2】【表-3】
さて、総人口の約10%の人々が生活し、高齢化の進行や永住意識が高まる「分譲マンション」は、どのようなリスクを有しているのでしょうか。
国土交通省「マンション総合調査」で公表されているデータを見ると、建築物に関するトラブルが全体の約30%(平成30年度)に上り、費用負担に関するトラブルは全体の約25%に達し、修繕積立金の額も年々上昇している状況が確認できます。【表-4】【表-5】
それでは、実際に「分譲マンション」が抱えている建築物に係わるリスクを拾い出してみましょう。「分譲マンション」が抱えている建築物に係わるリスクとして、建築時の設計と施工の水準に起因する事項(施工不良)と、経年に伴い発生する事項に分類することができます。経年に伴い年々必要となる費用を、長期修繕計画書として作成するケースが多くなっているものの、長期修繕計画書に示されている項目や費用の適否を直ちに評価することは困難であり、経年に伴うリスクも無視することはできません。
これらの建築物に係わるリスクが顕在化した時、想定する以上の費用が必要となり、区分所有者の不安が増すことになります。
経験上、「分譲マンション」が抱えている建築物に係わるリスクの内、建築時の設計と施工の水準に起因する事項(施工不良)をいくつか列挙してみます。
①「ひび割れ誘発目地」が適切に設置されていないことや、コンクリートの材料および施工の問題などに伴い、外壁に多くの「ひび割れ」が発生し、想定以上に補修費用が嵩む。
②「耐震スリット」が設計図通りに施工されていないことから、想定外の補修が必要となる。
③コンクリート打設後に設備スリーブが開口され、鉄筋の切断等による構造耐力に係わる補強工事が必要となる。
④鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さが不足する部分が多く、鉄筋の早
期腐食・爆裂などに対応する補修が必要となる。
⑤「はり」「床スラブ」のたわみに伴い、建具の開閉に支障が生じ、想定外の補修が必要となる。
⑥「外壁タイル」に浮きや亀裂が多く発生し、剥落の危険性を防ぐための補修工事が必要となり、想定以上に補修費用が嵩む。
⑦塗膜防水の施工不良に伴い、防水の早期劣化やコンクリートの亀裂から雨漏りが発生し、早期に補修が必要となる。
⑧排水勾配不足に伴い、防水の早期劣化や雨漏り・水溜りが生し、早期の補修が必要となる。
⑨排水管の通気不良に伴い汚水が逆流することから、想定外の補修が必要となる。
⑩外部埋設排水管下部の埋戻し土の転圧不足に伴い、排水管が破損したため
補修に際して多額の費用が必要となる。
⑪外構アスファルト舗装が陥没し、想定外の補修が必要となる。
⑫危険なブロック塀が残置され、撤去に伴う想定外の費用が必要となる。
⑬外部の埋戻し土の転圧が不十分なことから、土間床が沈下し、想定外の補修が必要となる。
また、「分譲マンション」が抱えている建築物に関するリスクの内、経年に伴い発生するものとして、次のような事項が挙げられます。
①アルミ製建具・格子・手摺に「白錆」が発生し、美観上、早期の交換が必要となる。
②給水管の継手部分に「錆こぶ」・「スライム」が付着していることから、広範囲におよび給水管の更新工事やライニング工事が必要となり、想定以上に費用が嵩む。
③駐車台数が減少するにも係わらず、機械式駐車設備のメンテナンス費用が嵩む。
④実施した大規模修繕工事に欠陥が発覚し、更に補修が必要となる。
⑤長期修繕計画書が適切に更新されていないことから、修繕積立金が大幅に不足し、維持管理が困難となる。
⑥居住者が減少し、維持管理が困難となる。
リスクとは「事前に想定できる好ましくないこと(危険性)」であり、前述したリスク(建築時の設計と施工の水準に起因する事項/経年に伴う事項)は、専門家(建築士など)の調査・検証により推測することができ、事前に対策を検討することにより、必要となる補修費用の準備や事故の発生を押えることが可能となります。
ところが、国土交通省「マンション総合調査」によると、「分譲マンション」における建築士などの専門家の活用事例は少なく、専門家を活用したことがない「分譲マンション」は55%を占め、建築の専門家である建築士を活用したマンションは15.6%に留まっています。【表-6】更に、専門家の専任理由としては、「大規模修繕等の実施」のための活用が多く、リスク回避のために日常的に専門家を活用することは少ない状況であり、老朽化問題についての対策の論議も行われていない状況にあります。【表-7】【表-8】【表-9】
「大規模修繕等の実施」に関連する業務に留まらず、建築の専門家(建築士など)による定期的な点検や継続的なアドバイスを求めることが、「分譲マンション」が抱えているリスクを低減することにつながります。
「分譲マンション」への客観性を有する建築の専門家(建築士など)の積極的な有効活用が望まれるところです。
東京都は、2019年3月に、良質なマンションストック及び良好な居住環境の形成等を図ることを目的とした「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定しています。この条例は、都や管理組合、事業者等の責務や役割の明確化、マンションの管理状況についての管理組合などからの届け出の義務化、管理状況に応じた助言や支援が目的とされています。
管理状況の届け出項目は、管理組合や管理者の有無、総会の有無、管理規約や管理費、修繕積立金などの設定や金額、大規模修繕工事の実施などとなっています。届け出の対象になっているのは、管理組合に関する明確な規定のなかった1983年の区分所有法改正以前に建築された6戸以上のマンションです。届け出は2020年4月から開始される予定で、対象となるマンションは、1984年以降のものへ順次拡大されることになっています。また、届け出のないマンションや、管理に問題のあるマンションに対しては、管理組合や代表者などの協力を得た上で、調査の実施、必要な指導・勧告を行うこともあると定めています。
神戸市も、管理組合に対し、マンション名や戸数などの基礎情報をはじめ、管理規約や管理費・修繕積立金などの維持管理の状況、防災訓練実施の有無など必要項目の届け出を義務づけ、管理組合の財務状況や大規模修繕工事の履歴など不動産売買時に重要な情報も含め、神戸市のホームページに表示するといいます。
(【表-1】~【表-9】:国土交通省HP掲載資料から引用)
【表-1】
【表-2】
【表-3】
【表-4】
【表-5】
【表-6】
【表-7】
【表-8】
【表-9】