「ボストン美術館展」ジャポニズム
「スペイン」現代美術の最重要作家「アントニオ・ロペス」の日本初となる回顧展が「長崎県美術館」で開催されています。
「アントニオ・ロペス」は1936年に「ラ・マンチャ地方」の町「トメリョソ」に生まれ、13歳の時に絵画修業のため単身「マドリード」へと居を移します。それ以降、若くして芸術の才能を開花させた「ロペス」は、絵画、彫刻の分野にて「リアリズム」を追求してきました。
現在70代後半を迎えてなお、制作意欲は全く衰えることなく、数々の傑作を生み出し続けています。
「ロペス」は、身の回りの家具や植物、そして家族たちなど、何の変哲もない日常の生活にモティーフを求め、そこに美を見出していきます。それらを忠実に、そして時には気の遠くなるほどの時間をかけて描くことにより、「ロペス」独自の世界へと変容させていきます。私たちは「ロペス」の目を通して、新たな現実の姿を発見していくことになるのです。
日本では1993年に封切られた映画「マルメロの陽光」(監督:ビクトル・エリセ)に登場する作家として紹介されることが多いのですが、芸術家としての全貌はいまだ広く認知されているとは言い難い状況です。展覧会開催にあたり、長崎県美術館が所蔵する《フランシスコ・カレテロ》(1961-87年)を中心軸として、作家本人と話し合いながら厳選に厳選を重ねて出品作品を固めてきたといいます。美術学校時代の初期作品から近作まで、油彩、素描、彫刻の各ジャンルから選んだ64点の作品によりロペス芸術が包括的に紹介されています。会場においては、「故郷」「家族」「静物」「室内」「植物」「マドリード」「人体」の7章に分け、「ロペス」が長年にわたって追求してきた各テーマが分かりやすく展示されているということです。
「アントニオ・ロペス」は、全世界に熱烈な信奉者を持ち、「スペイン」での大規模な個展(2011年)では記録的な来場者数を獲得しました。作家自身が展覧会にあまり積極的でないこともあり、大規模な個展はおそらく日本では最初で最後となるかもしれないということです。
日常的な光景を細部に引きずられない迫真的な描写で的確に描き出す一方、『アトーチャ』(1964)や『皮を剥がされたウサギ』(1972)のように演出の色合いが濃い、ドラスティックな作品もあります。
一作に膨大な歳月を掛けることも珍しくなく、『フランシスコ・カレテロ』 (1961-1987)のように、20年以上の時間を割き、それ故にこそ堅固で荘重な文理・テクスチャーとよく探究された諧調・色価を備えた絵画を制作し、塑像などの「立体作品」も手掛けています。
「ロペス」自身は「他人がどういおうとすべて私の作品は絵画である」と述べ、「ロペス」を扱った映画もあります。
単純な技法の上では「ピカソ」のハッチングを思わせる描線が見いだされる絵画もあり、『洗面台と鏡』(1967)や『便器と窓』(1968-71)に見られる視点の併合は、「ポール・セザンヌ」をひとつの起点とする「ピカソ」の「キュビスム」にも呼応します。
「ロペス」は、『便器と窓』などのように、幾度か便器を描いていますが、「マルセル・デュシャン」の『泉』を無視することはできません。作品のこのような言及的な性格は、「現実に対する」「忠誠を表明する」、「伝統的な主題と技術を用いる」画家のものとしてはラディカルであり、基礎的な造形性や共有され一般化された審美性に依存した方法を採用していないことが分かります。
タウ・プロジェクトマネジメンツ一級建築士事務所