『マージン・ミックス』、ほとんどの人が知らない戦略的・活用術【商人舎magazine7月号】原稿
最低賃金が1121円となり、1500円時代が目前に迫る中、スーパーマーケット経営は「作業改善」だけではもはや限界を迎えています。
これからの生産性向上は、“働き方の効率化”に加えて、“売り方の生産性”をどう高めるかが勝負です。
つまり、「マーチャンダイジング(MD)」と「実践的マーケティング」こそが、現場を救う最大の武器です。
単に“人手を減らす”のではなく、同じ人数でより多く売る・粗利益を確保するための「知恵と仕組み」を持つこと。
本稿では、現場ですぐ実行できるマーチャンダイジング&実践的マーケティング・必須10策を紹介します。
目次
① 顧客視点に立ち返る ― “誰に・何を・どう売るか”の再設計
③ 季節と天候を味方に ― “売れるタイミング”の再現性を高める
⑤ 売場を語るPOPとストーリー ― “買いたくなる理由”を演出
⑥ 試食・体験・SNS連動 ― 五感と共感を生むマーケティング
⑦ チラシから“リピート設計”へ ― 販促の目的を利益に変える
⑧ 値引き依存からの脱却 ― “割安感”より“納得感”を売る
⑨ 売場改善を“仕組み化”する ― 一人のやる気に頼らない店づくり
① 顧客視点に立ち返る ― “誰に・何を・どう売るか”の再設計
売場づくりや販促企画を考える際、まず、最初にやるべきことは、「顧客を見つめ直すこと」です。
データ分析より先に、“誰のための売場か”を明確にする。
ターゲット(誰に)とポジショニング(どう見られたいか)を明確にすれば、無駄な施策は減り、売場の方向性が定まります。
ファミリー層は「夕食の時短・家族の満足」、単身層は「手軽・少量・映える」、高齢層は「健康・安心・少量パック」。
このように購買動機を分けて考えることで、同じ商品でも“見せ方・言葉(伝え方)・陳列位置”を変えられます。
顧客像の明確化が、すべてのMDの出発点です。
② 重点カテゴリーを明確に ― 「どこで勝つか」を決める
すべてに力を入れると、どこにも勝てません。
「どの部門で粗利益を稼ぐか」「どのカテゴリーを店の強みにするか」を経営レベルで明確にすることが、これからの生産性経営の要です。
特に中小スーパーでは、“広く浅く”より“狭く深く”の集中戦略が効果的です。
重点部門では、相乗積(売上構成比 × 粗利率)の高い商品群を分析し、「利益の柱」を見える化する。
その結果、店全体の収益構造を“意図してデザイン”できるようになります。
③ 季節と天候を味方に ― “売れるタイミング”の再現性を高める
スーパーの売上は、天気と気温に強く影響されます。
「暑い」「寒い」「雨」。
この当たり前を“仕組み化”している店は少ない。
天候連動型の販促は、POSデータよりも“感性×データ”の融合です。
たとえば、気温25度を超えたら「冷やし麺」「そうめんつゆ」「サラダ野菜」を前面展開。
“気温×気分指数”をもとに、即日で売場を修正する力が、これからの店の競争力になります。
「天気が変われば売場が変わる」。
この即応性こそ、実践的マーケティングの真髄です。
④ 定番棚を見直す ― “稼ぐ棚”への構造改革
定番棚は“売れる・売れない”の集積です。
にもかかわらず、多くの店舗では「過去のまま」「取引慣習のまま」で動いていません。
今こそ棚1本あたりの粗利益を見える化し、“稼ぐ棚”へと組み替えるべきです。
カテゴリー単位で「生産性基準」を設け、死に筋は思い切って削減。
その分、回転率と利益率の高い商品にスペースを再配分します。
“商品を選ぶ基準”から“棚を稼がせる基準”へ発想を変えることが、収益改善の第一歩です。
⑤ 売場を語るPOPとストーリー ― “買いたくなる理由”を演出
POPは「値段を知らせるため」ではなく、「価値を伝えるため」にあります。
“安さPOP”ではなく、“選ばれる理由POP”へ。
「このトマトは朝どれ」「この弁当は店内仕込み」「この魚は○○港直送」。
ストーリーを語れば価格以外で勝負できます。
特に健康・時短・地元愛といったキーワードは、購買意欲を高める効果が高い。
産地・調理・健康を軸に“会話する売場”をつくりましょう。
POPが語れば、店員が語らずとも商品は動きます。
⑥ 試食・体験・SNS連動 ― 五感と共感を生むマーケティング
試食は「人件費のムダ」ではなく、ROI(投資効果)で考える時代です。
“試食1回=販促投資”と位置づけ、販売数量やリピート率を測れば、実施の価値が明確になります。
また、試食風景や調理動画をInstagram・LINEで発信すれば、店外でも“空気感”を共有できます。
「この店は楽しそう」「行ってみたい」と思わせる“共感マーケティング”が、地域密着店の最大の強みです。
⑦ チラシから“リピート設計”へ ― 販促の目的を利益に変える
チラシは集客のためのツールで終わらせてはいけません。
重要なのは、“集客後の利益構造”をどう作るかです。
すなわち、フロントエンド(集客)とバックエンド(粗利拡大策)の設計を両輪で考えること。
来店データや購買履歴を分析し、「初回購入→再購入→固定客化」への動線を描きましょう。
「売ったら終わり」ではなく、「また来たくなる理由」をつくる。
この発想転換が、販促コストを投資に変える鍵です。
⑧ 値引き依存からの脱却 ― “割安感”より“納得感”を売る
値引き競争では、永遠に利益は残りません。
いま必要なのは“割安”ではなく“納得”の提案です。
「この価格でこの味なら納得」「このセットなら便利で助かる」。
お客様が“選ぶ理由”を感じる売り方を設計します。
味・楽しさ・面白さといった情緒的価値を前面に出すと、値引きに頼らず売れる。
例えば“2人用おうち焼肉セット”“旬野菜+簡単調理レシピ付き”など、
値段より体験価値を高める“バリューパッケージ”がこれからの主戦場です。
⑨ 売場改善を“仕組み化”する ― 一人のやる気に頼らない店づくり
どんなに意識の高いチーフがいても、属人的では成果は続きません。
重要なのは「仕組み化」。
MD計画書と陳列指示書を連動させ、誰でも同じ品質で売場を再現できるようにすることです。
週次・月次・季節ごとのPDCAを回し、「売れた」「売れなかった」を数値で振り返る。
“やる気頼み”から“仕組みで勝つ現場”へ。
この切り替えが、生産性経営の最重要テーマです。
⑩ 店長・バイヤーがマーケターになる ― “考える現場”の育成
店長・バイヤーは「管理者」ではなく「マーケター」へと役割を変える時代です。
数字を読む力、顧客を感じる力、現場を動かす力。
この3つを兼ね備えた人材が店の未来を決めます。
「数字で語る会議」を習慣化し、AIやPOS分析で課題を発見する。
さらに、パート社員の“現場の声”を組み合わせることで、データに“温度”が加わります。
数字と感覚の融合で、“考えるチーム”に変わる。
これが、1500円時代を生き抜くスーパーの最強の武器です。
【まとめ】
― 小さな実践を全員で積み上げる。それが1500円時代を生き抜く最大の武器 ―
今回紹介した10の策は、特別な投資やITシステムを導入しなくても、
どこの会社でも、誰にでもできる「現場発のマーケティング改善」です。
重要なのは、「やる・続ける・振り返る」こと。
チラシや値引きよりも、
“お客様の気持ちをつかむ力=マーケティング力”を鍛えた店は、必ず強くなります。
マーケティング力が高まれば、
・同じ来店客数でも売上と粗利が上がる
・お客様がリピートしてくれる
・スタッフが“売れる理由”を理解して動ける
という、売上・利益・人材の三拍子がそろった好循環が生まれます。
そして、忘れてはいけないのが、パート社員の参加です。
パートさんこそ、日々お客様と接している“生活者の代表”です。
彼女たちの「お客様の声」「気づき」「提案」を現場改善に活かせば、 マーケティングは“机上の理論”から“売場の実践”に変わります。
売場を変えるのは一人の努力ではありません。
店長もチーフもパートも、みんなが一枚のチームになることで、
「お客様の心を動かす店」=「働く人が誇れる店」へと進化します。
最低賃金1500円時代。
人を減らすより、“知恵と工夫で稼ぐ力”を育てましょう。
今日から始める小さな一歩が、明日の生産性を大きく変えていきます。



