生産性向上で営業利益2倍を実現する‼2018年度計画の立て方【商人舎magazine2月号】原稿
今回は、最近の私のクライアントで行った、店舗のプチ・リニューアルの事例を紹介します。
キャッチコピーは、「○○店は新しい棚が入って、ボロボロからボロになりました!」
サブは、「新商品の取り扱いを通じて、地域の皆さんの健康な体づくりを応援します」
これらは、リニューアル完了後に投入した、チラシ広告のタイトルだ。
リニューアルと言っても多額の資金を投入したというものではなく、陳列ゴンドラを追加して定番の品揃えを増やしたことと、コンセプトを持った新規商品を多く導入したというものだ。
目次
田舎町にあるスーパーマーケットの本部店舗。建物の外装はくたびれ、ペンキが剥げた個所があちこちに見て取れる。
店舗の中に入ってみると、殺風景で照明の照度が低く薄暗い。なぜかBGMだけが元気よく店内に響いている。
売上は年々低下して、ここ数年は赤字が続いて、月によっては大きな損出を出していた。
このまま何も対策を打たなければ、数年も持たないような経営状態であった。
タイトルの通り、心身ともにボロボロの状態だったのだ。
■十数年進化していない売場
業績低迷の原因は大小いろいろと考えられるが、一番の原因は、元気だった十数年前の売場(品揃え)からほとんど変わっていないことだろう。
ジリジリと下がり続ける売上に対して、これといった有効な手段を見出せず、時間だけが経過してしまったのだ。
今回の事例の会社は、私が携わった企業の中でも、かなり特殊で深刻な事例である。しかし、程度の差はあれ、巷にもこの事例に似た会社が少なくないのではないだろうか。
ドラッグストアの出店が増え、消費者はインターネットから多くの情報を簡単に取得できるようになった。十数年前には考えられなかったスピードで周りの競争環境が変化し、消費者は多くの知識を有し賢くなっている。
既存のスーパーマーケットは、売場が進化しなければ、相対的に魅力度が落ちてしまう。顧客からの支持は確実に低下し、何れ商圏内から淘汰されることになりかねない。
■異常に低い粗利益が3ヶ月で大幅アップ
実績数値を見せてもらうと、全部門の粗利益率が低い。
今までディスカウントストアと称して、低価格を武器に商売をしてきた。競争も少なく売上高がそれなりにとれていた時は、利益が残っていたのかもしれない。
しかし、売上が低下した今の状態では、この先経営を続けることは難しい。
私は社長と今後の方向性について話し合い、その中で、まずは粗利益率を業界標準程度に押し上げることを提案し実行に移すことにした。
ここでびっくりしたことが起きた。3ヶ月ほどで、生鮮部門は粗利益を目標水準まで押し上げてくれた。粗利益改善のためのアドバイスを数回行っただけで全部門目標を達成してくれた。そして、今も順調に推移している。
残るはグロサリー部門だが、定番(ステープル)の品揃えが悪く欠品も多い。非定番(ポップアップ)の品揃えも魅力がない。特売比率が高くマージンミックスが利いていない。
■短期で赤字解消
とはいえ、生鮮部門が総じて粗利益をアップしてくれたことにより、会社の赤字は数ヶ月で解消することができた。
そして救いだったのは、生鮮部門の鮮度が悪くなかったことだ。
品揃えをムダに広くすることもなく、主要アイテム(カテゴリー)に集中してしっかり売場展開をしてくれている。
品揃えと称して、売れもしない商品をムダに仕入れて販売することもなく、在庫も多くない。結果としてロスも少なく、粗利益を早期に改善することができた。
生鮮部門の粗利益は、前年をはるかに超えて継続的に安定している。
以上のことから、ムダな作業も少ないことで作業人時も少なく、会社の営業赤字は短期間で改善することができた。
■ターゲットの設定で「新たな価値を提供する」
黒字化すると同時に、グロサリーの課題解消と新たなターゲット開拓の目的で、売り場変更を計画した。
マンネリになって、お客からの支持を失っていた売り場を、「新たな価値をお客に提供する」売り場に変えていく。
品揃えの悪さで、顧客にご不便を掛けていたことの解消。
そして、新たなターゲットの設定だ。
私は、店舗近くのお洒落な飲食店やスイーツ専門店など事前にリサーチを行った。
田舎町ではあるが、「お洒落で感度が高そうな女性(潜在顧客)」が多く住んでおられることを確認できた。
ポジショニング(お店の立ち位置)の上から、「美味しい商品」「安心安全な商品」「健康を考える商品」「お洒落感のある商品」など、コンセプトを持った商品の品ぞろえを計画した。
このリニューアルにあたって私はレイアウトとカテゴリー配置を大幅に変えた。品揃え改善については、コンセプトを持ったベンダーにお願いして助けてもらった。
リニューアル当日は、当社の陳列演出のコンサルタントとベンダーの方々の協力を得て売場変更を実行し、陳列演出も整い楽しい売り場を完成させることができた。
今までの「安さ」は保ちつつ、コンセプトを持った商品を多く取り揃え、お客様に良い体験をしていただき買い物を楽しんでもらう。
■ボロボロの現場に人財が埋もれていた
リニューアルを行った結果の成果はこれから出てくるわけであるが、今回特に読者の皆さんにお伝えしたいことは、現場の従業員の持っていた底力のことだ。
今回のリニューアルに関して私は、大いに期待をすると同時に大きな不安もあった。
というのは、社員の人数も少なく、この会社が何年も店舗改装などの経験をしてないことから、実行段階になると各従業員には相当な負担がかかる。リニューアル自体がうまく進められるか大いに不安だった。
ところが、である。
私の訪問日に売り場の変更手順や注意事項を伝え、訪問日以外はグループLINEを使って細部の指示も出していた。少し時間的に難しいと思われる指示も出していた。
分からないことがあればLINEで適宜私に質問が飛んでくる。そして私は、それに対する回答をする。それを数回繰り返す間に、売場の配置変更は確実進んでいた。
そして、彼らに指示した売り場変更は、本格的な三日間のリニューアルの前までに完了させてくれた。
そしてさらに驚かされたのは、女性軍のリーダーシップだ。
それは、一人のリーダーのものというよりも、各人が自主的に動いてリーダーシップを発揮してくれたことだ。
売場の移動によって汚れた床が顔を出す。手持ち作業の時間の合間をぬってデッキブラシで床を磨き、モップをかけて綺麗にしてくれる。
それを順番に各所繰り返す。ここまで女性軍が主体的に動くチームは、私は見たことがない。
もちろんこちらの指示で動くチームはあるわけだが、私はその辺に関しては全く指示を出してなかった。
おかげで今まで暗かった売場は、照明も内装も変えていないのに見る見る明るくなった。
従業員同士もそうであるが、お客様からも「明るくなったね・・・」「広くなったね・・・」という、お褒めの言葉を沢山いただいた。
私は、それが何より嬉しかった。そして、女性たちを大いに褒めた。
それと、レジの担当の女性パート社員も明るいし、お客様の対応が素晴らしく気遣いがある。
言葉遣いや一つずつの行動に思いやりがある立派な接遇だ。
このチームは、今まで色々なことを教えてもらっていなかっただけで、「潜在能力(底力)は相当なものがある」と、私は確信した。
リニューアル後も色々なことにチャレンジしてもらい、失敗も経験するだろうが、相当なレベルにたどり着いてくれるのではないかと思う。
■ボロボロからボロへ。そして、愛される地域一番店へ
私は、このチームを何としてでも地域一番のチームに押し上げていきたい。
売場は勿論だが、営業利益、そして何と言っても従業員報酬も、である。
その実現のためには最大限の協力をしていきたいと思っている。
先述したように、何年も苦しんできた経営状態も、やっと正常に戻ってきている。ここから教育と訓練を行って標準化レベルを少しずつ上げてもらう。
現在、厳しい状況で経営しているスーパーマーケットも、必ず成功する方法があることを忘れないでほしい。100%は無いが、正しい努力をすれば顧客は確実に反応してくれる。口コミが起こり新たなお客も呼び込んでくれるはずだ。
基本原則の正しい知識を習得し、正しくムダなく行動すれば、結果は必ず変わる。
必要なことは、そのための第一歩を踏み出すことだ。
何もしなければ、何も変わらない。いや、正しくは衰退の道をたどる。
経営者は、責任をもってその準備に取り掛かることだ。
世界のトヨタの元会長の奥田さんは、「変わらないことは悪である」と現役のころ言っていた。
経営者は、この言葉を噛みしめてほしい。従業員とその家族のために。
正しく学ぶことをお願いしたい。従業員とその家族のために。
学ぶ機会を与えてほしい。従業員とその家族のために。
今回、たくさんの人に協力いただいて、第1段階のリニューアルを無事終えることができた。もちろんゴールではないし、これからが本番だ。
今回の事例は、私も経験したことのないような売り場、そして赤字の連続を続ける経営。
まさに知恵なし、人材なし、時間なし、と思われた。
しかし、私の考えを良い意味で、大きく裏切ってくれた。
皆が良い仕事をしてくれた。
今、業績低迷で悩んでいるスーパーマーケットには繰り返し伝えたいが、どこの会社にも強みがある。
そして、どこの会社でも隠れた人材がいる。
そして、教育を加えれば理解し、成果を出してくれる。
このことを忘れないでほしい。
「行動をしなければ何も変わらない」ということはこの企業でも共通することである。 諦めたら終わりだ。
まずは、学び行動し少しずつ結果を変えていく。
その先に間違いなく、今までとは違う大きな成果が見えてくるはずだ。