「差益を粗利益だと思っていました」        算数の知識レベルを上げないと大損する!? 

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーの業務改善

先日、私のクライアントの若い社員の方と話している時のこと。
「差益は粗利益じゃないんですか?」と、ビックリしたように私に聞いてくる。
私は一瞬、驚くとともに、「これが現実か・・・」と、クライアントの教育レベルを改めて知ることになった。

しかし、よく考えてみると、中小企業には、算数を正しく理解してない現場の担当者が多いことも事実としてある。
経営者や経営幹部でも、人時売上高や人時生産性など、生産性の数値など正しく理解していない人が多いことも現実である。部門別の損益計算になってくると、その割合は、さらに高くなる。

今回は、これらの事実を前提として、最低限知っておくべきこと、そして、効果を高めるための活用法について解説してみたい。

期末の仕入れを抑えれば、「粗利益が上がる?」という、間違

例えば月末になると、仕入れを抑えて差益を上げようとする動きがある。

しかし、これは荒利益ではなくて、あくまでも売買差益を上げるということで、粗利益には関係しないし、粗利益は上がらない。
架空に値入れを上げて計算(売価還元法)すれば、粗利益率は上がるが、これは不正である。

ちなみに、営業キャッシュフロー上では、月末に仕入れを抑えることは、仕入と売上の関係から、キャッシュフローは押し上げられる。しかし、これも粗利益には関係ない。

ところが、正しく算数を理解してないと、未だに月末の仕入れを抑えるという行為を行っている企業もある。そして、現場のやっていることを一部の経営者や幹部の中では、理解してない場合もある。
要注意は、期末や期首に欠品を起こしてしまい、お客に迷惑をかけてしまうことである。
そして、機会ロスを起こして、結果として粗利益を失う結果になることを、責任者は正しく理解する(させる)必要がある。

私は、月末に仕入れを抑えるということに関しては、二つの重要なポイントを教えている。
それは、「客様に便を掛けること」、そして、「経営上のメリットがないこと」である。
実際まだまだ中小企業で、そういう行動を取る人は存在しているのが事実である。
現実に有れば、即時、正しい教育をして修正させる必要がある。

「考え方(思考)が変われば、行動が変わる」「行動が変われば、結果が変わる」と言われるが、これがまさしく現場の事例としては当てはまることである。

キャッシュフローと回転差資金

月末の仕入れについて付け加えると、ほとんどのスーパーには、支払いサイトがあり、通常であれば(生鮮品など以外)月末締めの翌月末払いであるから、最短30日、最長60日ほどの支払い猶予期間がある。このことからもたらされる現金、これを回転差資金という。
商品を仕入れても、仕入先にお金を支払う前に、販売されて売上に変わり、手元に現金が残ることを意味する。

月末までの対象期間に、よほどの無茶な(多額の)仕入れをしない限りは、日々の運営上の資金繰りとしては問題もないし、仕入れを抑えるそのメリットも無い。

ただ、お盆や年末に、売上が大きく拡大する場合、その期間の粗利益率が低く、期中の仕入れ高が超過するなどのことが重なると、翌月の資金繰りが立たなくなる場合もあることは事実。
このことからも、各担当者の数値管理技術を上げることが重要であり、そのためには、日々の数値管理教育が必須である。経営上重要課題として、戦略的に行う必要がある。

在庫は、数値管理と現場管理で適正値を維持すること

また一つ違う方向から話をすれば、在庫の問題がある。
仕入れを抑えることによって、在庫が月末に少なければ良いというものでもなく、無理して仕入れを抑えること自体は、全く間違っている行動である。

先ほどの述べたように、「お客様に対して、欠品を起こしてご迷惑かけないということ」が営業の大前提になければいけないし、月末に仕入れを抑えた分は、翌月初めに仕入れが増えることから、日々の作業量も安定せず、ムリやムダな作業が現場で発生してしまう。
また、売買差益で考えた時に、月の第1週が大幅にマイナスになったりする場合も、現場では見られる。

また、これらのことから、商品の鮮度も安定しないことにも繋がる。
在庫自体は、日々一定に保たれることが望ましいし、それ自体が適正であること、そのことによって、特に生鮮品の鮮度維持と、日配品の新しい日付の商品を陳列することが可能となる。

繰り返すが、結果的に月末に仕入れを抑えるということは、その鮮度管理にも大きな影響を受けることにもなるし、結果的にお客様からの信頼を失うことにも繋がることにもなる。

現場での差益と粗利の使い分け

また、現場のオペレーションにおいても、差益と粗利益の違いを理解しているか、していないかによって、行動が変わってしまう場合もある。

生鮮品で言えば、実地棚卸しを実施することによって、正確な粗利益が算出される。
また、グロサリーや日配品で、自動発注など発注自体が電子的に遣られている場合は、帳簿上でも、ある程度正確な粗利益が算出される。
しかし、万引きなどや、ファックス発注や電話の発注が、その一部に残っていれば、そのことによって精度が落ちることになる。

どちらにしても、正確な粗利益は、実地棚卸しをした結果算出される。
期首と期末の実地棚卸しの在庫高の増減と、期中の仕入れ高から売上原価を求めて、売上高との関係で求められるものが粗利益高である。
売買差益は、単に売上高から仕入高を引いて算出される。

売買差益を管理していたら、ある程度、期間の仕入れが適正に行われているかという、予測はつく。
私自身、クライアントには、週間単位の売買差益管理を行うことを実施してもらっている。
バックルームの現物の在庫量と売場の一品一品の陳列在庫量が適正に、日々ある程度管理されていることが望ましいし、それ自体が、高い鮮度を維持することに繋がり、競争力を生む源泉とになる。

知識が思考を変化させて、行動を変えるきっかけになる

もし、皆さんの現場でも、正しい算数の使い方と用語の理解ができていることを、現場の店長やチーフ達にも確認する必要はあるし、店舗運営上大きな意味を持つ。
もし、正しい理解がされていなければ、早急に教育を加えることが必要である。

私自身の経験から言っても、1番はやはり、現場の正しい「高位(あるべき形)の鮮度や味が日々保たれている」こと、そのことによって、ムダな作業が発生しないようにすることが重要である。

算数を正しく理解し、数値管理のレベルを上げることによって、数量管理や品質管理のレベルは確実に向上することになり、競争力は高まり、生産性も確実に高まる。
その結果として、お客様から、販売している商品に対する信用度が増すことになる。

地味なことではあるけども、これの日々の繰り返しの行動によって、生産性は高位に維持されることと同時に、現場の担当者、パート社員、アルバイトに至るまでのスキルアップにも繋がる。
当然、人時生産性の向上にも、大きく関わってくる。

繰り返しになるが、今までそういう教育をしていないと感じる経営者の方、経営幹部の方は、自身も含めて、早急に現場全体のチェックをしてもらいたいと思う。

生産性だとか、効率とか言うと、「そういうもので商売はできない」とか、「そういうものは儲けにならない」という方もいることも承知している。

しかし、本当にこれだけ厳しい時代になって、そういうことを言っていられる余裕があるかどうかも、実際の営業成績を見て判断してもらいたいと思う。

確実に営業利益率が高く、しかも安定した成長を実現している企業は、ある程度の理解レベルが高いものと考える。

“必要”に迫られて掴んだ知識は強く、結果に繋がる! 

数字それ自体は、目的をもって学習し、実践で活用すると、現場の生産性を高める力を持つ。活用法を知らないことは、非常に勿体ないことだ。

逆に、知っているだけで、活用することが無ければ、宝の持ち腐れと言うことになってしまう。

特に重要なことは、活動の最終の目的数値だ。
例えば、営業活動で言うと、損益計算書の一番下に来る営業利益高だ。

幾ら売上を伸ばそうと、粗利益率が高かろうと、結果として、営業利益がある程度確保できなければ、ビジネスとしては、何らかの修正を加えることが必要である。

中長期的な視点で、営業戦略として、戦略部門の粗利益を落として戦うことも必要な場合も有る。その場合、一時的に営業利益が低下するということはあり得る。

しかし、そうでなければ、営業利益が低下しているという場合、粗利益率を上げることや固定費を下げること。また、その両方を実現するために行動を変える必要がある。

同じように、粗利益が低ければ、値入れ率を上げる、ロスを減らす。また、その両方を実現するために行動を変える必要がある。

この様に、数値を正しく理解すること。そして、それの正しい活用法を理解し実行することが、経営戦略上、営業戦略上、とても重要なことである。
経営環境が厳しくなる中で、経営者や幹部、各リーダーは、知らないでは済まされない。

さて、あなたの会社では、各リーダーや一般社員、パート社員。果たして、どこまで、そしてどの内容まで、数値教育がなされているだろうか。

現場を見る(定性データ)、そして、実績数値(定量データ)

私は、クライアントを訪問(既存店)した場合、先ず、売場とバックルームの現場(現象)を見て、問題点を確認し、その後、その裏付けを含めて、実績データを確認するという手順を踏むようにしている。
直ぐに改善が必要で、緊急の対応を必要とする場合以外は、この手順は変わらない。

定性データの確認だけでも、定量データの確認だけでもいけない。改善効果を高めることや、計画の目標を最大化するためには、基本両方を確認すべきだ。

例えば、棚卸し在庫が過多であるという場合、現場の在庫内容(質と量)の確認と、増えた理由の確認が必要である。
特に問題なことは、その内容を確認しないまま、在庫回転日数が云々など言っても、何の意味もないしムダなことである。
そして、間違った改善行動を取ることにもなるから要注意である。

在庫自体は、その内容(品質、鮮度、トレンドなど)が問題であり、一時的に増えることは問題では無い。


今回は、粗利益に関係した数字の話だったが、現場ではその他多くの数値が存在する。
その中には、役に立たない者もあるかもしれない。
逆に、本来、有るべきものが、自社内にに存在(活用)していないかもしれない。

そして、活用性の低い、また、見にくい管理帳票の存在も少なくない。
改善が必要なものは無いだろうか・・・。

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新谷千里
専門家

新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングと作業改善、そしてコスト削減。他では教えてくれない理論と実地指導で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

新谷千里プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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