今こそ、損益分岐点を下げる絶好のチャンス・ その2【商人舎WEBコンテンツ8月号・原稿】

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーの業務改善

商人舎WEB2008・2020-08-29 (2).png
先月に続き、損益分岐点を下げることについて、解説していきます。

コロナ禍特需の勢いも、少しずつ落ち着きつつあります。
とは言っても、まだ、前年の売上を上回っているお店が多いと思います。

そして、地方では、盆商戦の重要な今、コロナ禍の影響は思っていた以上に大きく、販売計画を組む商品部は、この初めての経験に対して、悩んでいる人も多いことでしょう。
しかし、この取り組みの経験は、間違いなく重要なデータを会社に残してくれることになります。

そのためにも、顧客の行動(心理)の変化を考えて、細部に対して仮説を立てて実行することが重要です。


例えば、帰省が出来ない、遠く離れた家族のために、「名産の果物やその他の食品を送ってあげたい」というニーズは、大いに期待できるでしょう。
ターゲットとそのニーズに対して、POPや店内アナウンスで宅配便のお知らせなど、「だから、どうする」の計画と新たな行動がチャンスにつながります。

また、この機会に、ECサイトを立ち上げて、地方の強みを生かして、全国に商品を販売することも考えても良いかもしれません。

低価格志向への対策

前回の記事で、低価格志向の消費者の層は厚みを増して、食品の低価格を打ち出しているドラッグストアやディスカウントストアへの支持は、今後さらに高くなるとが考えられる。と書きました。

バイヤーの高い折衝交渉力は重要な武器です。
ベンダーとスーパーマーケット双方のメリットがあるような交渉ができれば、原価を適切に下げることも可能でしょう。
しかし、原価を下げるには、なんといってもスケールメリットが、ものを言います。
規模の小さい企業には、有利に働きにくいと言えます。

『利』は元にあると昔から言われますが、これは、「良い商品を仕入れる」ことと、「適正な原価で仕入れること」を指していると思います。
決して、単に原価が低いものを仕入れると言ことではないと思います。
お客が喜ぶ、お客のためになる商品。それに、価値情報をプラスして、お客に提示することができれば、商品の売れる確率が高くなります。

そこで考えなければならないことが、FLコストを下げることです。

FLコストを意識して、作業改善を行う

FLコストを意識するということは、商品がお客の手に渡るまでの、一連のコストを管理して、低減するということです。
商品を安く仕入れても、現場のオペレーション全体の効率が悪ければ、実質的に原価(FLコスト)は上がってしまいます。
ここを正しく理解することが重要です。

スーパーマーケットは、高い鮮度や味が重要な武器になります。特に、生鮮部門の管理レベルが高ければ、業態としての『強み』になります。
しかしその反面、管理能力が低く、現場のオペレーション全体の効率が悪ければ、品質レベルは低下し、人件費も余分に掛かってしまい、競争上も損益分岐点比率の上からも『弱み』にもなってしまうのです。

ですから、在庫を適正に保ち、補充や加工作業の改善を行い、FLコストをさげる取組みが重要です。

 ※作業改善の具体的な方法については、私の過去の記事を参照してください。

損益分岐点比率を下げることを理解する

コロナ禍で、売上の調子が良い今、行っておくべきこと。
それは、将来の長期的なことに視点を置き、会社を堅実に成長させるための『仕組み』を手に入れることです。
要するに、「損益分岐点比率を下げるための仕組みを作る」ということです。

そして、『損益分岐点売上高』よりも、直接的に、粗利益高と固定経費の関係で考える、『損益分岐点比率』に視点を置いて考えることが重要です。
ここには私なりの考え方とこだわりを持っています。

工業製品を作って売っているのであれば、損益分岐点売上高で考えることで良いでしょう。しかし、スーパーマーケットのように、商品相場の変動や競合店との競争に直面していると、粗利益率が安定しないことが多くあります。
ですから、損益分岐点売上高で考えても、あまり役に立ちません。

実際に、稼ぎの本になるのは、粗利益高です。
粗利益高から固定経費を引いたら営業利益高です。
机上では、損益分岐点売上高も損益分岐点比率も同意語です。
しかし、特に現場では、粗利益高をいかに高めることができるかを考えて行動し、結果を出すことが重要です。

損益分岐点比率=固定費高÷粗利益高ですから、損益分岐点比率を下げるためには、単純には、粗利益率を上げて、固定経費率を下げることです。
また、競合状況や販売戦略によって、
・粗利益率を上げることが難しい場合は、固定費を減らす(下げる)
・固定費率を下げることが難しい場合は、粗利益高を増やす(上げる)
ということです。
要するに、粗利益高-固定経費高の差(営業利益高)を広げることです。

ロスを理解する

損益分岐点比率を下げて、競争力を上げるには、以下のことを理解することが重要です。

①固定経費率を下げること(図表①【原因 3】参照)
②商品ロスを減らすこと( 〃 【原因 2】参照)
そして、
③競合店にない商品を開発したり、新たなサービスを始めたりして、新たな粗利益を作り出すこと( 〃 【原因 1】参照)
が、重要になってきます。

【図表 ①】
商人舎WEB2008①.png

そのためには、それぞれのロス(損益)を正しく理解して、改善を加えることです。
現場には、多くのチャンスが眠っています。

現場の多くのムダを生む根源

現場のムダ(図表①【原因 3】参照)で、それを生む重要な最大要素は、在庫です。

在庫が過剰な場合は、値引きや廃棄その他のムダを発生させてしまいます。
逆に、不足する場合は、欠品を発生させて、機会ロスの損失を招きます。

また一方、バックルームの在庫と売場の在庫があります。
バックルームの過剰在庫は、商品管理などの作業を生み、作業効率の低下を招きます。
そして、生鮮品の多くは、確実に鮮度低下を招き、結果的に競争力を低下させてしまうことにも繋がります。

売場の在庫は、単品管理が重要です。
大まかに言うと、売れ筋商品のフェイシング数(在庫)の拡大と、それ以外の商品のフェイシング数(在庫)の縮小を考える必要があります。
このことにより、限られた売場の販売効率が上がり、在庫全体の投資効率を上げることにもなります。
また、フェイシング管理が進んだ売場は、人時効率に大きく関わり、確実に生産性を高めることに繋がります。

このように、在庫管理の良し悪しは、粗利益と人件費(固定経費)などに深く関わり、生産性を大きく左右することを正しく理解して、改善に取り掛かる必要があります。

たった、1%の商品ロスの意味

1%の商品ロス( 〃 【原因 2】参照)が、どういう意味を持つかを正しく理解しているでしょうか。

例えば、店舗の粗利益率が25%の場合、1%のロスの改善は、売上高を104%に伸ばすことに相当します。
月商1億円のお店であれば、400万円の売上アップと同じことで、よほど何かの要因がない限り、実際に実現することは難しいことです。

そして、先述したように、商品ロスは、作業ロスに大いに関わることとなり、人件費を高位に安定させてしまいます。

1%の商品ロスの改善は、粗利益高を増やすこと。
そして、それて関わる関連作業の工数を減らすことが可能となり、固定経費である人件費も下げることが可能となりますので、損益分岐点比率は、大幅に改善(低下)することになります。

下の図表②は、POSデータを帳票出力したものです。
これを診れば、
①商品ロス
②欠品
③作り過ぎ、出し過ぎ
④値引き、廃棄作業
など、ロスの削減(粗利益率アップ)や、作業工数削減(人件費削減)のためのヒントが見えてきます。

【図表 ②】
商人舎WEB2008②.png

実際、この表のクライアントは、この帳票を見てから、5%以上のロスを短期で減らして、欠品の改善にも目を向け、粗利益を大幅に改善しています。
このようなことは、鮮魚や精肉、惣菜や日配部門などでも行うことができます。

改善のための『仕組み』を作る

上記の図表②のような帳票の「存在を知らない人」は多いと言えます。
当然ですが、「活用している人」の数は、さらに減ることになります。
そして、「活用して、大きな成果を出している人」の数となると、激減します。

このことは、私のコンサルティングの現場で、現実を多く確認できています。

上記のことも、現場の『仕事の仕方』を大きく変えることになり、損益分岐点比率の改善に大きく関わることになります。

さらに、この図表②のような帳票を見やすく、そして、活用性を高めることを考えて、帳票に修正を加える方法を知っていれば、さらに生産性を高めます。

そしてさらに、ストアコントローラー(店舗・売上管理コンピューター)を活用して、帳票が定期的に自動で出力することを『仕組み化』すれば、帳票の出し忘れや活用忘れなどのヒューマンエラー(人為的過誤や失敗(ミス))を無くすことが可能となり、業務全体としての生産性は飛躍的に伸びていくことになります。

専門家に診てもらうのが早道

今回紹介している内容は、現場で改善(活用)できることのほんの一部ですが、現場には、大きな可能性があることを感じていただけたのではないでしょうか。

現場のコストとロスを減らすことが出来れば、会社の営業利益は確実にアップします。
ローコストオペレーションを実現することにより、低価格戦略の競合店に対して、価格対抗することも可能になります。

さらに重要なことは、増やすことができた利益を、会社のさらなる成長のために、投資(時間とお金)することです。

競争の時代、リーダーは、
「問題に気付いていない…」
「問題と考えていない…」
「知らない…」
では、済まされません。

売場の表層的な部分だけを見ていては、会社の生産性を高めることは難しいと思います。
根幹(オペレーション全体)の部分を確実に管理し鍛え上げ、将来的に確実な成長を続けられる仕組みを作り上げることが求められます。

そのためには、社内に改善のためのプロジェクト・チームを立ち上げることも良いと思います。
短時間に、現場の問題や課題(改善策)を的確に発見し、
『遣るべきこと』、『遣ってはいけないこと』を、正しく理解して、損益分岐点比率を下げるために、少しでも早く改善行動をとることが、とても重要になっています。

重要なことは、何よりも、スタートを早く切ること、そして改善のスピードを上げることです。


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新谷千里
専門家

新谷千里(経営コンサルタント)

有限会社サミットリテイリングセンター

100社以上の業績向上を実現した業務改善のプロ。売れてしまう実践的マーケティングと作業改善、そしてコスト削減。他では教えてくれない理論と実地指導で、競争の厳しい時代に確実に営業利益を向上させます。

新谷千里プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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