生産性を上げる、戦略的人事考課 【商人舎magazine12月号】原稿
私は、若いころ(と言うか数年前まで)、目標設定をする習慣がなかった。
人は、コツコツと日々やっていれば、そのうちそれなりのレベルに到達できると考えていた。目標設定することが面倒くさいとさえ思っていたし、そのことの正しい意味と意義が分からなかった。
それなりに真面目に仕事に打ち込み、その行動を見ていてくれていた多くの方々のお蔭でコンサルタントの仕事も続けてこられた。
しかし、ある時、高い目標設定をすることの意味を世界的に有名な何人かのコンサルタントのセミナーやコンサルティング、また多くの本で教えてもらった。
その後、私は、高い目標(ゴール)設定をすること、そして、その為の戦略(方法)を考えるようになる。
戦略を考えると、実現のためのプロセス(オペレーション)を組み立てるようになる。
この仕組みで物事を考えていくと、実に時間的な無駄が少ない。遠回りすることが少なくなる。失敗しても、すぐに次のやり方を考えられるようになった。
事実、確実に結果が出てくるようになった。習慣にもなり、「何をすれば・・・」「何をするべきか・・・」が、時間を掛けずに分かるようになった。
これらの仕組みは、自分自身の仕事に使うと同時に、クライアントのコンサルティングに応用すると、今まで以上に、実に多くの業績向上に繋がることとなった。
目標は高い方が良い
今回の記事のタイトルは、『営業利益2倍を実現する‼』である。
「そんなの絶対に無理」と殆どの人が言う。
何故か・・・。ほとんどの人は、考えたこともないし、当然やったことが無い。
いわゆる「前例が無い」ということだ。
そして、SM業界の人達の多くは、算数が得意でない人が意外に多い。
ここで言う算数とは、難しい数式を知っているとか、計算が速いという意味ではない。
考え方が数学的、科学的に出来るという意味である。要するに、計画(戦略)を立てるという時の考え方のことである。
「やったことが無い」「算数に弱い」、この2つの要素が重なると、「とりあえずこんなもんで・・・」という程度の予算設定になってしまう。
そして、多くの場合、目標が『売上高』や『粗利益高』になっていて、営業利益ではない。
「とりあえず2、3%アップの売上」程度の予算設定で終わってしまう。これでは、時間を取って予算を組んでいる意味がない。
ここで言う目標は、売上高や粗利益高ではなく、営業利益高だ。ハッキリ言って、売上高を1年で2倍にすることは、非常に難しい。
しかし、現状の営業利益率が1~2%程度の企業であれば、それを2倍にすることは、決して不可能ではない。
そして何より、目標が高ければ、戦略、オペレーション、生産性など、それを実現するためのプロセスを考えることに集中することになる。決して運では達成できない。
ここが、目標を高く設定することによる重要なところである。
ビジネスの目的
ビジネスの真の目的は、本業の営業利益を最大化することである。
このことを言うと「金の亡者」的に考える人もいると思うが、決してそうではない。
売上は、安売りしても拡大することが出来る。
しかし、会社は利益が残らなければ存続できなくなる。また、この場合の多くは、従業員の報酬は低位に抑えられることとなる。
ドラックストアや業務スーパーなどのディスカウント店が商圏内に出店してくれば、閉店までのカウントダウンが始まることとなる。
厳しさを増す競争環境や少子高齢化や人口減少など、売り上げ拡大が望みにくい中、企業が成長するためには、営業利益に焦点を当て生産性を高めるべきである。
会社が継続して営業利益を拡大、維持するためには、商品開発や企画開発、マーケティングや生産性を上げるための各種システムへの投資。従業員のスキルアップ計画への投資など、これらを疎かにすることは出来ない。
「従業員とお客の支持を得る」ための戦略的投資を実行しなければならない。
その為には、生産性を確実に向上させて、営業利益率アップを実現する必要が有る。
ゴールから逆算して考える・・・算数を正しく理解する
図①をご覧いただきたい。これは、損益計算書を図式化したものである。
この表だと、新入社員でもある程度の理解をしてもらえるのではないだろうか。
ズバリ、「ビジネスの目的は、営業利益の拡大」で有り、売上高や粗利益高は、それを実現するための一要素であることがお解りいただけると思う。
そして、算数が弱い方でも、営業利益を拡大するためには、売上や粗利益だけではなく、その他多くの改善ポイントが有ることに気付いていただけるのではないだろうか。
私が前述した、算数を理解するという意味は、ここにある。
【図①】
焦点を営業利益に当てるとは、「ゴールから逆算して考える」ということであり、その為の改善課題を明確にするということになる。
営業利益改善ポイントは、数多く存在する
下の図②を見ていただくと、営業利益拡大のためには、多くの手段が有ることに気付くと思う。
自社で出来ること。すぐに出来ること。簡単にできること。そして、お金を掛けないでできること。など、すぐに結果を出せる方法は数多く存在する。
同時に、売上高を拡大することが、決して営業利益の拡大に繋がる訳ではないことも確認していただけると思う。
場合によっては、固定費(人件費やその他の経費)が増えて、営業利益を下げてしまうことだって有りえる。
ここのことをしっかり理解してもらいたいと思う。
【図②】
そして、改善のための勘所としては、以下のようなものが有る。
決してこれが全てではないが、重要な要点が含まれているので、自社の現状と照らし合わせて考えてもらいたい。
営業利益拡大のために、「何が出来るか」のヒントが発見できるのではないだろうか。
【改善のための勘所】
A)値入高・・・計画粗利のこと(値入高-ロス高=粗利益高)
①競合店が販売していないものについては、値入幅を拡大できる
②商品自体の持つ価値を十分に伝えることが出来れば、値入幅を拡大することは可能となる
③商品を買うことによって実現する何か(フューチャーペーシング)を教えてあげることによっても値入幅を拡大することは可能となる
B)売上原価・・・売上を上げるために使った在庫の合計高
(期首原価在庫高+期中仕入高-期末原価在庫高)
大量購入や効率的な物流改善などによって、原価を下げることは可能となる
C)機会ロス①・・・現在、自社の店舗で販売していない、商品やサービス
自店で販売していない商品やサービスを新規導入して販売を開始する。特に、既存商品と味や機能がバッティングしないものは、売り上げ拡大や粗利益拡大の可能性が高い
D)商品ロス・・・値引きや廃棄による損出
数量管理や品質管理を強化して、適正発注及びその管理を行い、過剰在庫や品質低下による値引き高や廃棄高を少なくする
E)機会ロス②・・・欠品や品切れによる損出
発注量が不足して起こる欠品は、実地確認やPOSデータの履歴(最終販売時間など)確認を行い、予測精度を上げることによって減らすことが可能
加工や補充のミスで起こる欠品については、リーダーが作業指示を早めに出すことや人員配備の改善を適時行うことによって減らすことが可能
F)売上高・・・売上原価+値入高-ロス高
①A)値入高の拡大
②C)機会ロス①の削減
③D)商品ロスの削減
④E)機会ロス②の削減
などにより、売上高をアップさせる
G)粗利益高
①A)値入高の拡大
②B)売上原価の低減
③C)機会ロス①の削減
④D)商品ロスの削減
⑤E)機会ロス②の削減
などにより、粗利益をアップさせる
H)固定費・・・売上の変動に関係なく、毎月固定的に発生する経費
人件費、他営業経費の削減を行う
I)変動費・・・売上の変動によって変動する経費
商品や包装資材など、固定費と同じく原価低減交渉を行う
J)人件費・・・直接人件費+間接人件費
作業工数削減のために、現状のあらゆる作業や仕組みの見直しを行う
特には、在庫削減や作業訓練、作業指示書の活用、人時予算の策定と稼働計画等は、削減効果が高い
更に、物流システム(時間やロットなど)、POSシステム(データ管理)、アウトソーシング(商品加工、データ処理他)などによって、店内工数削減を行う
K)他経費・・・人件費以外の営業経費
販促費、水道光熱費、物流費、地代家賃など、金額の大きい経費は、節約やベンダーの相見積もりなどの折衝交渉によって削減可能なものもある
L)営業利益高・・・粗利益高-固定費
上記項目の改善を行い、粗利益の拡大と固定費の削減を行う
業務改善課題リスト
下の表は、営業利益の拡大を目的にした業務改善のための、課題のセルフチェック表である。
自社の現状を実地調査して、課題を洗い出してもらう時に使ってもらうと良い。
各改善活動は、
①改善効果の高い課題に焦点を当てて、優先順位を付ける
②改善作業にすぐに取り掛かれるもの、準備を要するもの
③コストが掛からないもの、コスト投入を必要とするもの
というように、各改善課題を簡単なマトリックスに振り分けて考えてみると、改善のためのスケジュールづくりがやりやすい。
このことによって、優先順位を付けやすいと同時に、戦略的にどれを優先するかが判断しやすい。
改善活動に取り掛かる場合、出来るだけ改善効果の高いもの(AとB枠)を優先して取り掛かりたい。
また、コストも殆ど掛からず、今日からでも出来るものは、即取り掛かることは言うまでもない。
具体的な改善事例は、以下のようなものが有ります。
【粗利益のアップのための改善課題(事例)】
1.売場の管理
①重点商品の売場管理強化(週間・日別他)
②低回転商品のフェイシング縮小
③開店時、100%品揃えの実現(欠品の削減)
④ピーク時前、ボリューム陳列の実現
⑤夜間、重点商品の適正陳列量の実現(欠品防止)
⑥時間帯別、フェイシングのアコーディオン化の徹底
⑦新規商品の導入のスピードアップ
⑧鮮度・品質チェック(生鮮15:00、グロッサリー19:00)の徹底
⑨関連陳列販売の強化徹底(部門内・部門間)
⑩メニュー提案の徹底
2.売場の管理
①単品別、日別・曜日別、販売数の把握
②重点商品のデータ管理強化(月間・週間・日別他)
③マグネット売場の強化(ex.主通路・ゴンドラエンド・平台の強化)
④売買差益を週単位でチェック
⑤見切り値下げ高と廃棄ロス高の実績把握
⑥見切り値下げ・廃棄ロス高の改善
⑦過剰在庫の早期処理
⑧歩留まりチェック
⑨入荷品への入荷日記入
⑩バックルーム在庫の期限内売り切り
【経費削減のための改善課題】
1.人件費の削減
①年間人時予算策定と月間稼動計画書の作成と管理の徹底
②作業割り当て表の作成と活用
③作業指示書の作成と効果的活用
④チームメンバーの作業遂行状況チェック
⑤投入人時数をカットしたワークスケジュールを編成する
⑥人時売上高を週単位でチェックする
⑦カートの効率的活用
⑧作業動作・手順の改善
⑨仕越し作業の徹底
⑩パート、アルバイトの戦力アップ
2.管理費の削減
①バックルーム在庫の削減(適正化)
②包装資材費の削減
③定番在庫の見える化
④バックルーム・レイアウトの改善
⑤定位置管理の徹底
⑥作業導線の設定
⑦陳列、補充頻度を20%削減(シフト化)する
⑧発注時間の20%削減と売れ筋の明確化で発注精度アップ
⑨不必要な商品、什器、備品などの処理
⑩光熱水費、包材費、通信費の予算余し・運動を行う
営業利益2倍を考える
上記の40項目のうちから改善を行い、粗利益率0.5%をアップさせて、固定費率を0.5%削減することができれば、営業利益率は1%アップすることになる。
仮に、年間10億円の店舗であれば、1,000万円の営業利益が増えることになる。
現状1%以下の経常利益率の店舗であれば、営業利益高は前年対比2倍以上となる。
上記40項目を基に、自社の現場で課題を確認(発見)することをしてほしい。
当然、企業、店舗、部門によって、課題は違うし、得られる改善効果に差が有ることも分かる。
また、上記改善項目の他にも、改善課題は多く存在する。
その分、営業利益率2倍にする方法や組み合わせは、幾らでもあると考えてほしい。
更に、40項目の店舗の改善課題の他に、物流やアウトソーシング、POSシステムなどの会社の仕組みを変えることによって、店舗の作業工数を減らす方法も多く存在する。今までの仕組みを当たり前と考えてはいけない。
実践とルールを守る
改善活動を展開すると、2、3ケ月の短期で何百万円もの大きな成果が出てくることも少なくない。
しかし、結果を継続させなければ意味がない。
重要なことは、会社のルール(理念やコンセプト)の中で、目標設定を行い、
戦略を立てて、戦術を描くことだ。このことで、会社の理念やコンセプトは、更に磨きを掛けられることになる。
そして、目標に向かって改善プロセスを出来るだけ早くスタートして実行することで、結果は確実に変化することになる。
また、改善活動を確実に実行するためには、各チームリーダーのリーダーシップが重要となることは言うまでもない。経営幹部は勿論、各チームリーダーの力が大いに試されることとなる。
ここ数年が、正念場
深刻な人手不足や人件費の高騰。長時間労働やサービス残業。賃金の不払いの問題など、問題を抱えている経営者の声を多く聞く。
去年の商人舎Magazine・2月号でも取り上げているのであるが、いよいよ現実のものとなって来た。
私のところにも、コンサルティングやセミナーの依頼が多く届くようになって来ている。
その根本にあるのは、現場の『生産性の低さ』である。
スーパーマーケットの生産性の低さは多くの現場で確認できるが、まさに今、「どうやって生産性を高めて、営業利益を拡大できるのか」を真剣に考えて行動を変える時が来ていると考える。
小手先のテクニックに振り回されて、大事な時間を無駄にしないよう、「お客に信頼される店」そして、「従業員に信頼される会社」になるための正しい行動を行うことが重要である。
営業戦略上の『差別化戦略』に磨きを掛けて、他者に引けを取る要素の『中立化』をはかることが重要であることは、理解してもらえると思うが、それは、その土台となる生産性を上げることによって実現できるのであって、ここを絶対に忘れてはならない。
効率を優先すれば、顧客満足度が上がる
現場の多くでは、売上高と粗利益高を追いかけている。
しかし、それでは、余りにも勿体ないことだ。これだけコントロールすることの出来る数値が有るのですから、知らない手(使わない手)はない。
人手不足と騒がれているが、正確には、スキル(オペレーション力)不足で有る場合が殆どだ。
時給が高いことが問題ではなく、時給に見合う生産量や付加価値(粗利益)を生んでいない『仕事の仕方』が問題なのである。
今一度、現場を確認してもらいたい。
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