生産性を上げる、戦略的人事考課 【商人舎magazine12月号】原稿

新谷千里

新谷千里

テーマ:スーパーマーケットの経営戦略

生産性を向上させる上で、人事評価(考課)制度は、業務改善の重要課題であり、戦略として捉えるべきです。

生産性を上げるためには、戦略の策定、オペレーションの改善、各種仕組みの変更、そしてリーダーシップなど、現場には数多くの業務改善の課題とその解決方法が存在します。
しかし、これらの取り組みとその成果には、企業間格差がとても大きいものがあります。

そして、戦略の目標達成のための重要な仕組み、それが、人事評価制度です。


業務改善の重要ツール


人、物、金、情報などの経営資源の中で、最も重要なもの、そして、大きな可能性を秘めているもの、それは、何と言っても『人』でしょう。

「従業員の満足」は、確実に「お客様の満足」に繋がります。
そして、その人やチームが、目標達成に向けて「良い気分」で効率よく、仕事に取り組んでくれれば、生産性は確実に向上します。

このことに焦点を当てて、人事制度を考え人事評価の仕組みをつくれば、会社の発展への可能性は高いものとなるでしょう。

しかし、残念ながら、このことに気付いていない、そして、戦略的に人事評価制度の策定に取り組んでいない企業の割合は少なくないように思います。

私は、人事の専門家でもなければ、社会保険労務士でもありません。
しかし、ビジネス発展のために、会社の生産性を上げるという視点に立って、「従業員の成長」「お客様の満足」そして、「会社の成長」の実現のために、人事評価を戦略的に考えるべきだと思っています。

戦略的に考えられた人事評価は、単なる過去の実績評価に留まらず、会社のコンセプト(経営理念)や戦略、そしてそのゴールの共有化、原理原則の教育、プロセス管理、個人やチームの目標設定など、会社に大きな成果をもたらす重要なツールとして期待できます。


人事評価は戦略


会社は、
1.何がゴールなのか
2.その為に何処に向かうのか
3.どんな方法で行くのか
そして、
4.何時までにそこに到達するのか
など、戦略(方向性)を明確にする必要が有ります。

人事評価制度は、それらを明確にすることによって、出来るだけ現場の活動の無駄を少なくして、効率よく前に進むための手引き書にもなるのです。

また、併せて、
1.社会人としてのルール
そして、
2.会社のルール(コンセプトやモラル)
3.戦略や戦術
4.今期の方針
などを従業員に解りやすく解説する役目も果たしてくれます。

ですから、重要なことは、
1.「何をすれば、認めてくれるのか」という行動指針
2.「何をすれば、褒められるのか」という報酬との関わり
などを、全従業員に対して、会社が解りやすく説明することです。

前号で書いたように、幾ら良い戦略や方針を立てても、その為のプロセスが実行されなければ、何の効果も得られませんし、会社は強くなれません。
1人ひとりの従業員が、日々小さい努力を続けてくれなければ目標は達成できません。当然目指すゴールには近づけません。


生産性を上げるための人事部の仕事


「遣っても褒められない(評価されない)」のであれば、そのうちだれも遣らなくなります。
そういう意味では、現場だけではなく、人事部もそのための努力をすることが求められます。

人事部の仕事は、給与計算や新規募集、人事評価を遣っていれば良いということではありません。
今後会社が目指す方向性や目標、そして、それを実現のするために、社員に求めるものを『見える化』して、社員のモチベーションを向上させる様な、戦略的に考えられた人事評価制度の確立をすることが求められます。

「会社の戦略や方針を人事評価と結びつけること」が人事制度の大きな役目で有り、その為の仕組みを構築することが人事部の務めであると思います。
これらは、業務改善の中でも重要な、根幹の部分でもあるのです。


社員が、「やる気を無くす」人事評価


・「評価制度が有るけど、結局は社長が決めるから・・・」
だから、「そもそも、評価に時間をかけることがムダです」

・「私たちが意見を言っても、社長はほとんど聞いてくれないから・・・」

・「評価基準があいまいで、評価のしようがない・・・」

・「予算も達成していない人が、社長のお気に入りだから昇給した・・・」

など、現場では、会社の評価の仕方に対して、多くの不満や諦めの声が聞こえてきます。
この様に、従業員の意見や思いを、正しく理解していないオーナーや経営幹部も多いように思います。

「何で評価されているのか分からない・・・」
「評価制度はあるけど、何の役にも立っていない・・・」
これらが、多くの現場で聞こえてくる声です。

これでは、個人やチームが本気でやる気を出す訳が有りませんし、目標を達成することも、成長のスピードを速めることも叶いません。


「やる気を出させる」人事評価・・・「この会社は、私を成長さ


先述した様に、従業員が「良い気分で仕事をしている」ときが、生産性は高まります。

人事評価は、単に社員の賃金や賞与、昇進などを決めるためだけではなく、
1.会社の進むべき方向を知らせる
2.そのために遣るべきこと、「なぜ遣るか」を教える
3.そのために必要な知識や技能を計画的に習得させる
4.成長度や貢献度に対して、どうなるか(昇給や昇進)を教える
5.次の課題(目標設定)を教えて、更に個人の成長を促してあげる
という、戦略的な視点が必要です。

そして、なんと言っても、透明性が高く、「出来る限り公正であること」が、従業員の会社に対する信頼感と、モチベーション・アップに繋がるのです。


実行手引書(マニュアル)としての人事考課


紙に書いた戦略や評価基準が無くても、立派に機能している会社はいくらでも有ります。

しかし、経営者が交代したり、会社の規模が拡大して、新卒や自社とは違うDNAを持った中途採用者などが入社してくるようになったりすると、そうはいかなくなります。

ですから、会社の理念(コンセプト)、戦略や方針。ゴールや目標などを明確に基準書として作成し、会社内で共有化できるような仕組みが必要になってきます。

船が航海をするときに、現在の位置から目的地に到達するための最も合理的な、方向や速度を決定する為の知識と技術が必要なように、従業員が問題にぶつかった時でも、適時実行手引書(マニュアル)を確認すことで、無駄な時間を使うことなく問題解決が容易に出来るようになります。

その時に、戦略的につくられた人事考課の仕組みが有れば、効果を発揮する重要なツールとなるのです。


プロセスを評価する


『社員の成長を支える』という基本的な考え方が、人事評価制度の重要な柱になります。
(具体的事例は、次号で解説を加えます。)

評価時点の売上高や粗利益高などの実績数値は、過去のものでしかありません。
問題は、良くも悪くも、実績を叩き出した、これまでのプロセスが大事です。

「会社のルール(理念やコンセプト)に則って行動したか」は言うまでも有りませんが、
1.会社やチームの目標に対して、どう貢献したか
2.個人の目標は、達成できたか
3.その為の行動は、問題なく実行できたか
などが、重要な評価課題になってきます。

仮に目標に達することが出来なかったとしても、正しいプロセスを実行していれば、何れ近いうちに達成できるはずです。

そして、更に重要なことは、上長が、
1.どう関わり
2.どの様なアドバイスを加え
3.目標達成に向けてフォローしたか
というようなリーダーシップが、部下のスキルアップやチーム力向上を大きく左右する、上長としての評価課題でもあるのです。


評価制度の中身


一般的な人事考課の資料を確認すると、
1.業績考課・・・業務成果や業績(成績)とその過程について
2.能力考課・・・有する(習得した)知識や能力に関して
3.情意考課・・・勤務態度や職場のモラル維持などに関して
4.目標管理能力・・・自己やチームの目標管理、達成度などについて
などの枠組みで考えられているようです。

会社が目指すゴールとそれを実現するための戦略と目標。
その目標を達成するためのオペレーションと仕組みづくり。
またそのための、スキルアップ計画、作業改善、在庫削減、仕組み変更など、具体的実行計画の策定が重要になります。

それと連動して、人事評価を戦略的に組み立てていきます。

◇人事評価・体系図【リーダー用】
人事考課体系図1

◇人事評価・体系図【一般社員・パート社員用】
人事考課体系図2


具体的な中身については、次号で解説していきます。

■ 『スーパーの経営戦略』 その他の参考記事
  参考記事はこちらから、ご覧ください ⇒ スーパーの経営戦略


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