第3回 店長の仕事、スタッフの仕事。役割を分ける勇気

「自分より仕事ができる新人が入ってきた」。 リーダーにとって、これは脅威でしょうか? それとも幸運でしょうか。 多くのリーダーは、部下の優秀さに焦り、自分の存在意義を見失いそうになります。 しかし、そこにはリーダーが成長するための「最大のヒント」が隠されています。 第11回は、優秀な新人の行動を分析することで見えてきた、仕事ができる人の「思考のクセ」を解剖します。
組織運営のステージに足を踏み入れた店長から、ある日、驚きと戸惑いの混じった報告を受けました。 「新しく入ったスタッフさんに業務指示を出してみたんですが……正直、私より売場づくりが上手なんです。思いのほか仕事ができて、驚いています」
彼は苦笑いしていましたが、どこか自信をなさげにも見えました。 「自分は店長なのに、現場のスキルで負けてしまっていいのだろうか」という葛藤があったのでしょう。
私は、そのスタッフを「すごいね」で終わらせるのではなく、なぜ彼女が「持っていた期待以上の成果」を出せるのか、そのメカニズムを店長と一緒に分析することにしました。 これは、店長自身が今後スタッフを育成していく上で、不可欠な「言語化」のトレーニングでもあります。
【仕事ができる人の「2つのステップ」】
分析の結果、仕事ができる人は業務指示を受けた際、無意識に以下の2つのステップを踏んでいることが分かりました。
1.「なぜ」を考える: 単に「売場を作れ」と言われたからやるのではなく、「なぜ今、この商品がこの場所に、このボリュームで必要なのか」という目的を考え、より効果的な見せ方を自ら判断している。
2.「キャリア」を活かす: 過去の経験(キャリア)の引き出しから、今の状況に最適な「正解」を瞬時に取り出し、行動に結びつけている。
つまり、彼女は指示の「文字通り」ではなく、指示の「背景」を汲み取っていたのです。
【「質」がなければ「効率」は生まれない】
ここで店長は、自分自身の「仕事の進め方」に対する大きな勘違いに気づかされました。 彼は常に「効率的に進めたい」と口にしていましたが、その「効率」の中身が空っぽだったのです。
私は彼に、成長のロードマップを示しました。 ① 経験を積み、判断基準を持つことで、まず「質の高い仕事」ができるようになる。 ② 質の高い仕事ができるようになって初めて、それを短時間でこなす「効率化」が可能になる。
そもそも、質の高い仕事をするための「キャリア(経験値)」がない人が、効率だけを求めても、それは単なる「手抜き」にしかなりません。
店長は、この新人の行動から「自分がスタッフに伝えるべきは、作業の手順ではなく、仕事の目的と背景なのだ」という、リーダーシップの本質を学び取ったのです。
【コーチの視点】
部下が自分より優秀であることは、リーダーにとって最高のギフトです。 なぜなら、その部下の「思考回路」を分析し、組織全体の「仕組み」として横展開すれば、チームの底上げが一気に進むからです。 現場のスキルで競うのはやめましょう。リーダーの仕事は、優秀な部下がさらに力を発揮できる「土壌」を作ることなのです。
次回は、「第12回 「質」の伴わない効率化は、ただの手抜きである」です。


