就業規則「懲戒規定」何を書くのか~いきいき就業規則の作り方のコツ

神野沙樹

神野沙樹

テーマ:就業規則に関すること

就業規則 懲戒


「懲戒規定」において一般的に書いてある内容とは




みなさんの会社の「懲戒規定」には、どんな内容が記されていますか?

また、懲戒規定と聞いてどんな内容を思い浮かべるでしょうか。

厚生労働省や一般的にインターネットに出ている就業規則のひな型では、
次のような内容が書かれています。

1.懲戒の種類
 (1)けん責(戒める・始末書の提出)
 (2)減給(始末書+ペナルティとして給料を減らす)
 (3)出勤停止(始末書+出勤停止(その間の給与は支払われない)
 (4)諭旨退職(諭(さと)して退職を奨める、退職勧奨のこと)
 (5)懲戒解雇(一方的に、解雇を通告し、雇用関係を終了させること)

2.懲戒事由
 (1)どんなこと・どんなときに、けん責・減給・出勤停止とするか
 (2)どんなこと・どんなときに、諭旨解雇・懲戒解雇とするか

例えば、「無断欠勤が〇日以上続いたとき」、
「社内秘密を故意に漏らした時」などの事柄が列挙されています。

おそらく始めて読まれる社員の方、
あるいは普段就業規則をご覧になることは少ないであろう経営者の方にしてみると
「○○したら罰します」という、、いかにも取り締まるための規定であると感じられるのではないでしょうか。

たしかに、懲戒規定は「悪いこと(行動)をしたときに罰するため」という意味合いがあります。

それに加えて、実はもう一つの意味合いも含んでいます。
なぜ懲戒規定を定めるのか、次の項目で見ていきましょう。

懲戒規定は何のために存在するのか~2つの大きな役割



懲戒規定とは「就業規則に絶対に書いておかなければならない事柄か」というと、
実はそうではありません。

相対的記載事項といって
「もし懲戒について社内的に定めるのであれば記載しなければならない」というものなのです。

記載事項について詳しく知りたい方は、世界一わかりやすい「かんたん就業規則解説~就業規則に記載すべき内容とは~をご覧ください。

ですから、「ウチの会社は懲戒規定は作りません」という場合は書かなくてよいのですが、
これまで「懲戒規定が書かれていない就業規則」を見たことがありません。

それはなぜなのでしょうか。

役割1.悪いことをした時に厳しく罰するため

1つ目の役割をみるにあたって、知っておきたい言葉があります。

それが「限定列挙」という言葉です。
限定列挙とは、「挙げられたこと(書かれたこと)しか認められない」ということ。

実は、懲戒規定は「限定列挙である」とされています。
言い方を変えると「書かれていなければ罰することができない」ということです。

例えば、社内の情報漏えいをしようと、無断で1か月以上来なくなろうと、
「書かれていなければ罰することができない」のです。

書かれていなければ罰することができないからこそ、
懲戒規定を見てみるとズラリと「○○をしたとき」という項目が並んでいるわけです。

本当にズラリと並べることが良いかは後述するとして、
会社は組織である以上、「何をしても許される」わけではありません。

もし、情報漏えいをした社員、人に迷惑をかける行為をした社員がいた場合は
厳しく「NO」と伝える必要があります。

それが「懲戒規定」として定める理由の一つです。

役割2.悪いことをしないようにするため

もう一つ知っておきたい「懲戒規定を定める理由」、
それは、「これは許さない、という項目を明記しておくことで、出来心を起こさないようにする」
という意味です。

人ですから、「よし頑張ろう」という時もあれば
「今日くらいはいいか」とサボる気持ちがでることもあるでしょう。

そんなとき「会社として、仲間としてこれは許せないこと」を明らかにしておくことで、
そのような行動をを事前に防ぐことができるというわけです。

例えば、トイレに入った時、
「トイレットペーパーを節約しましょう。10センチ節約すれば、ケニヤの木が一本守れます」とあれば、
「いつもより少なめに使おう」と思いませんか?

極端な例かもしれませんが、
明示するということは「あらかじめその行為が起きないようにする」という意味合いがあります。

懲戒規定も同じで、「これは許せない」ということを明示することで、魔がさすことを防ぐ役割があります。

あえて問題提起をしてみます~その「懲戒事由」は必要ですか



御社の就業規則、あるいはインターネットに出ている「懲戒事由」
(~したら懲戒処分にします、という事柄)を見てみてください。

おそらくたくさんの項目が列挙されていることと思います。

ここで、みなさんにあえて問題提起をします。
その1つ1つの懲戒事由は必要でしょうか。

不要なものは無いでしょうか。

なぜこのような問いかけをするかというと、
私どもも非常に考えさせられるきっかけとなった「ある社員さんの意見」がありました。

一般的に、懲戒事由の中に次のような起債があります。

「無断欠勤5日以上したとき(正当な理由なく5日以上出勤しないとき)」

確かにこの文章だけを見ると、
「そりゃ、5日間も無断欠勤しているのだから、始末書なり何らかの懲戒処分になるだろう」と思います。

しかし、ある企業の社員さんと懲戒規定について考えていた時のこと、ポロッと言われたのです。

「…5日以上って書いてありますが、無断欠勤で5日になる前に連絡を取ると思うんですけど…」と。

言われてみれば、その通りだと思いました。

「何かあったら罰せるようにしておかないと」という発想が懲戒事由を複雑にしていますが、
そもそも健全な職場・率直な視点からみると、異質なものばかりですね。

もちろん、企業の発展に従って「不測の事態」が起こるかもしれません。

しかし、就業規則は万能ではありません。
就業規則に書いてあるから、厳しく罰せられるからという理由だけでは「良い会社」にはなりません。

ズラリと並んでいる懲戒事由は「本当に」必要でしょうか。
わが社にとって「本当に」必要な懲戒事由は何でしょうか。

改めて考えてみられてはいかがでしょうか。

■まとめ


今回は、「懲戒規定」とはなにか、また懲戒規定が果たす役割について見てきました。

これらを踏まえ、懲戒規定はぜひ全社員(あるいはプロジェクトメンバー)で考えることをお勧めします。

経営者が一方的に決めた懲戒規定は、
いくら本質であったとしても「縛られている」という感をぬぐえないこと、
また、知らなければ気を付けようもないからです。

話し合う時は、具体的に次のような質問をしてみます。

「仲間として、こんな考え方・こんな行動・こんな仕事は許せない、という行為はなんですか?」と。

仕事に対しての行為がたくさん出る会社もあれば、
お客様に対する迷惑行為が許せないという会社も、
社内の仲間を大切にしない時に許せない、という意見がたくさん出る会社もあります。

この答えを考える中で、御社、そして御社の社員さまが
「何を大切に仕事をしているのか」がわかるでしょう。

その中で、経営者しか見えていない(感じていない)視点があれば付け加えるのも有効です。

大切なことは「ともに考える」ということ。
この過程が、必ず会社を次のステージにステップアップさせてくれるはずです。

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神野沙樹
専門家

神野沙樹(社会保険労務士)

株式会社Niesul(ニースル社労士事務所併設)

経営者様、社員のみなさん自身による「就業規則」や「評価制度」づくりをサポートする社会保険労務士。第三者の立場として「制度づくり+人づくり」を促し、真にイキイキとした職場づくりを提案します。

神野沙樹プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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