弁理士の立場から五輪エンブレム問題を考える
先月24日付の読売新聞のWebニュースに、大企業が優位な立場を使い、中小企業の独自技術やノウハウを不当に入手していないか、公正取引委員会が実態調査に乗り出すとの記事が掲載されていました。
また、このニュースのコメント欄には、中小企業の社員と思われる方々のコメントも書き込まれており、“自分も同じような経験があった”とのコメントもありました。
「知的財産」は無形の財産であり、その財産的価値は把握しにくい側面を持っていますが、有形の財産と同様、或いはそれ以上の財産的価値を有しています。
したがって、強い立場を利用して他社の独自技術やノウハウを不当に手に入れることは、基本的に窃盗行為と変わりません。
ところで、「知的財産権制度」は、本来、このような問題が生じないように、立場の弱い中小企業等を、大企業等に対して保護するためにつくられた制度でもあります。このような問題に直面し、困っている中小企業があるとすれば、ある意味、本来の「知的財産権制度」を上手に利用していないのではという側面も考えられます。
確かに、日本の場合、大企業と中小企業の関係は、「下請け」的な関係になっているケースが多くあるため、発注者の要求を呑まざるを得ない状況は理解できます。
しかし、大企業から中小企業に対して、「高い精度の○○○を作ってほしい」という依頼(発注)があれば、中小企業は、独自の技術に基づいて高い精度の○○○を作って納入します。言い方をかえれば、この技術は、大企業にはないものであり、それ故、大企業は、中小企業の保有する技術に基づき、高い精度の○○○をつくってもらうことを意味します。したがって、中小企業は知的財産を上手に活用するチャンスがあるともいえます。
この問題は、話題の「下町ロケット」のドラマが参考になると思います。このドラマの場合、「知的財産権制度」を上手に利用したケースとなりますが、下手に利用し、又は全く利用しなければ、中小企業の技術が大企業により不当に実施されるケースにもなってしまいます。
ただし、基本的には、ビジネス優先であり、知的財産権のみに固執するのはよくありません。技術力をアピールしつつ、ビジネスをより有利に進めるツールとして活用することが重要であり、それが中小企業にとっての強み(チャンス)になると思っています。
このように、特許や商標等の「知的財産権」は、そもそも、表題のような“知財巡る「下請いじめ」”を回避するための制度、いわば中小企業を保護するための制度です。もし、知財が関係する取引において、“何かおかしい”と感じた際には、遠慮なく我々に相談して頂きたいと思いっています。