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下田茂

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下田茂(しもだしげる) / 弁理士

みらい国際特許事務所 長野オフィス

コラム

弁理士の立場から五輪エンブレム問題を考える

2015年9月5日 公開 / 2021年1月22日更新

テーマ:ニュース

コラムカテゴリ:法律関連


 この問題は、いろいろ難しい要素や問題を含んでいますが、知財の軽視が根底にあるように見えます。この点、STAP細胞論文問題などとも類似しています。
 (1) 問題を整理してみます。五輪エンブレムに関しては、著作権と商標権の双方を適用して考える必要があります。一言でいえば、商標法は商品等の混同を防止するためのビジネス上のルール、著作権法はパクリ(模倣)を防止するためのルールです。優先順位として、著作権をクリアし、さらに商標権をクリアすることが本来の順序です。
 しかし、商標権は「登録」が前提のため類似調査は容易ですが、著作権は「登録なし」で存在するため、類似調査は困難な側面があります。だからといって手を抜くことはできません。それ故に今回の問題が発生しています。
 個人的には、エンブレムが決定したら速やかに世界に公表し、例えば、3ケ月程度の経過を待って最終決定することが有効と考えています。実際の使用についてのゴーサインはこの後でよいと思います。つまり、より慎重な対応が必要であり、これは特許等の異議申立制度と同じ考え方になります。できれば、このような世界共通のルール作りも必要ではと感じています。
 なお、ニュースによれば、公表した場合、第三者に先に商標登録される虞れがあると、コメントを出した関係者がいました。しかし、日本(世界も同じとは思いますが)の場合ですと公表後の第三者の出願(法律上悪意の出願)は公序良俗違反や他の要件違反を理由に登録を阻止できると考えられます。仮に、登録されたとしてもパクリとしてバッシング(今回の例)を受けるでしょうし、企業であれば、コンプライアンスの欠けた企業として信用が失墜してしまいます。そのようなリスクをとる人がいるとは思えません。
 (2) 一方、デザイナー側の著作権軽視も問題です。ドライバーは、自動車の運転時に最低限守るべき必要なルールは道路交通法、守れなければ運転する資格はありません。デザイナーは、最低限守るべき必要なルールが著作権法です。
 他人の作品を「ヒント(参考)」にするのと「模倣」するのとでは、180°方向が異なります。特に、最近発覚した、使用態様例の写真について、ウェブ上の他人の写真の一部をそのまま流用するとともに、「Copy Light」の文字を削除していた件は、問題の大きさと深刻さを象徴しています。他人のバッグを黙って持ち去り、バッグに表示されていた持ち主の名前を消し、自分のバッグのように使用していることと何ら変わりません。エンブレム作者本人でないとしても、このような意識が内部にあることは残念です。
 (3) 今の時代、個人レベルでも知財意識を高めることが、より重要になっています。
 写真一枚でも、オリジナルの写真は、その人の思い入れにより、長い年月とお金をかけ、やっと辿り着いた場所の貴重な写真かもしれません。一方、今は、その他人の写真を指の操作一つで手に入れることができる時代です。著作権は、いわば、このようなオリジナルの写真(著作物)を保護する権利です。
 今回の問題は、日本の相対的な知財意識が低下しているようにも見えます。今の時代、我々個人レベルでも知財を正しく理解し、その重要性を認識しなければ、予想を越える遙かに大きな跳ね返りを受けてしまいます。

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