「 チラシに魅かれて観た芝居 」
◆「珠希の言葉に寄り添って」(小笠原清子)
わたしが朗読した作品は「決心の干物」~玉乃井珠希のこんだて帖~
物語は、主人公「玉乃井珠希」が自分の体調の変化に気づき、
病院へ出掛ける朝のシーンから始まります。
「どっちかな。どっちだろ」
「おめでとうございます。おめでたですよ」
「生活」というものが苦手だと思っている珠希は、
赤ん坊ができて、嬉しいのか嬉しくないのか、よくわからなかった。
三年交際している彼はいるが、結婚の話は出たことがなかった。
結婚の話も出ていないのに「赤ん坊」ができた。
「だって産まないってしたら、つまりはあんたの世界を私が消しちゃうってことでしょ」
「でもあんたを生むことは、私の世界が大きく変化するってことだし・・・」
その時、自分が足を通した「ペタンコ靴」が目に入る。
「私、結果がはっきりしないのに、ペタンコ靴をはいたんだ・・・」
珠希は戸惑いの中、病院帰りの商店街で、
若い頃の母親に似た女性の姿につられて魚屋にはいる。
『干物にするんだけど』 女性が言った言葉に驚く珠希
『えっ、干物って作れるの?』
「家で食べていた干物は、お母さんがつくったものだったのかな…』
「じゃあ、私も鯵とイカ」 つられて珠希は言っていた。
母親に電話して干物の作り方をおしえてもらう珠希。
ついでに、珠希は母にきいてみる。
『お母さん、お母さんになって良かったとおもう?』
自分のやけにまっすぐな声が、耳に届く。
母は一瞬黙ったのち、電話口で笑い転げた。
『良かったか良くなかったかなんて思ったことないわ~
だって、なんだか産まれたときから、珠希のお母さんだったような気がするんだもの』
その言葉をきいて、珠希の心に変化があらわれる。
「もしかしたら、ここにいる誰かも、ずっとずっとどこかで、私と会うのを待っているのかも」
「私も、おかあさんになるよ」
母から干物の作り方を教えてもらった珠希は、干物の存在をきっかけに、
母親の深い愛情を知り、母になる決心をするのだった。
今回、ドクターの声を俳優の戸石みつるさんに、魚屋と珠希の彼で一平くんを声優の米山陸さん、
母に似た女性を吉田睦美さん、母親玉乃井雅子の声を早坂ふく子さんに出演していただきました。
皆さんの声の出演により「決心の干物」という物語が、より一層いきいきとして
朗読が立体的に表現されたように思えました。
この物語「決心の干物」の、珠希自身の幼い記憶から現在に至るまで、
無意識のうちに訪れる、様々な偶然と必然が織り成すシーンは、
不思議なほど自然で、細やかに表現されていると感じました。
無意識に「小さな命」をかばう優しさ、珠希に芽生えた愛情。
これまでの自分の性格、暮らしとはかけ離れた新しい自分の発見の、
「記念すべき一日の出来事」だと思います。
仕事ではテキパキと行動できる、キャリアウーマンの珠希ですが、
小さな命を宿した自分に驚きと戸惑いと不安のなか、
どうしたらよいかわからずに、母親に電話をします。
「母と娘」は、やはり「特別な関係」なのでしょうか?
珠希の母は、珠希のことを「ずっと親子でつながっていた」と言い
「母親ではない自分なんて想像できない」というほど強い絆で結ばれている……
家庭的ではない自分のこと、性格、家事全般全く自信なし、でも……
無意識の不思議な感覚と、母親になる「母性愛の芽生え」に気づく…珠希。
母親に似た女性に若き日の思い出を重ね、魚屋の前に立つ母親を思い出す不思議。
料理は苦手なはずなのにつられて買ってしまう魚。
どうしてよいかわからないまま、まるで幼子が母親を頼るかのように
「全て無意識がさせた必然」のように思えてなりませんでした。
「母になる決心をする」までの長い一日が、全て母親の面影なしでは語れない世界として広がり、
ひとりの強気な女性が、優しい母性愛を目覚めるほどの母親の強さ…
「生命の誕生」とは尊いことなのだと感じました。
同時に珠希に訪れた自我の目覚めの再来として、珠希の心情を皆さまへお届けしなければと…
しっかりと受けとめながら臨んだ、私の「決心の朗読」でもありました。
私が大切にしている言葉があります。それは、ステージ・アップの先輩の言葉です。
『ステージ・アップの朗読は、前の読み手から受け取ったバトンを、
次の読み手へ心を込めて渡す、リレーのようなもの。
相手のことを想い、チームワークで作品を大切に紡ぐことにより、
読み手の心も一つになる…温かみのあるチームワークの朗読…』
わたしはこの言葉を胸に、お聞き頂く皆さまへ心をこめた朗読ができるように
長野先生の指導のもと、稽古に励んできました。
私の「決心の干物」から続く作品は、熟年夫婦の深い愛情を描いた「玉乃井雅子」の物語
「結婚三十年目のグラタン」へと、バトンを繋ぐこととなります。
「わたしもお母さんになるよ」と電話で報告した珠希のセリフを受けて、
幸せ溢れる喜びの声からスタートする「玉乃井雅子のこんだて帖」へ
まさに「幸せのリレー」となります。
長野先生とステージ・アップの共演者の皆さま、たいへんお世話になりました。
皆さまと朗読劇「彼女のこんだて帖」に参加できましたことを、心から嬉しく思っております。
そして、私達のために時間をつくってお越しいただきましたお客様。
お客様に見守られながら上演できる嬉しさと、この日を迎えることができたことに
感謝の気持ちでいっぱいです。
珠希の気持ちに寄り添うことで、私も生い立ちから現在までを振り返ることができました。
今日は私も、母に感謝の気持ちを電話で伝えたいと思います。
珠希の言葉に寄り添いながら…… (小笠原清子)
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