交通事故解決までの道のり~物損編(6)~

笠中晴司

笠中晴司

テーマ:交通事故 実際の例など

☆弁護士委任から後の具体的流れ

1 弁護士への委任

  弁護士に委任していただく際には原則として,弁護士と面談していただきます。

 その際,事故の状況をお聞かせいただくのはもちろん,これまでの交渉内容についても確認させていただき,双方の主張の相違点を確認させていただきます。

 そのうえで,依頼者のご希望をお聞きしたうえで,今後の方針を決定していくことになります。

 今後の方針を決定するうえで,一番考慮するのは「解決までに要する時間」の要素です。

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(1)解決までに要する時間は,どの程度まで許容できるか。
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 一般の売り買いの交渉の原則からもご想像いただけると思いますが,「早く交渉をまとめたい」というのと「条件を有利にしたい」というのは,なかなか両立できません。
 つまり,「早く売りたい」のなら,「価格は安くせざるを得ない」となってしまうのが,普通かと思います。

 逆に,「少しでも高い金額で売りたい」というのでしたら,「時間をじっくりとかけて,良い条件を出す顧客を探す必要がある」のです。

 損害賠償も売買と同様,「交渉」ですので,「早く交渉をまとめて,解決したい」となると,「条件」つまり,「相手からもらう損害賠償金額は低く」なります。

 具体的に言うと,弁護士は,通常任意保険会社との交渉から開始しますが,訴訟前の交渉では,訴訟では認められるはずのもの(特に顕著なのは,「評価損」や「代車費用」等)がなかなか認められなかったり,また,過失についても,それほど譲歩が引き出せない可能性が高いです。

 ですので,いくら弁護士に委任しても,任意の交渉では,なかなか,当事者が希望される水準まで持っていくことが難しいことも多いというのが,実情です。

 ただ,かと言って,「金額がそれほど多くない」場合や,「できるだけ早く修理をしたいが手元に置修理するお金もなく,修理にかかれない」というような事情により,「条件をより良く解決する」という要素より,「早期に解決する」を優先せざるを得ない事案も多数ありますので,その点の判断も弁護士の腕の見せ所かと思います。


2 方針決定 ~ 訴訟へ

 訴訟前の交渉段階で解決する場合は,早い場合は,1週間程度で示談が成立し,1か月以内に相手方保険会社から示談金を受領できる場合もあります。
  
 また長い場合でも,物損の事案であれば,2か月程度たっても,示談のめどが立たない場合は,次の段階(多くは訴訟)に行かざるを得ないでしょう。

 訴訟となった場合のおおよそのスケジュールは下記のとおりです。

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(1)訴状を作成し,裁判所に提出。
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 訴訟を裁判所に提起する場合は,請求する側が裁判所にまず,自身の言い分を記載した「訴状」を提出する(訴状を提出した側を「原告」,訴状を原告から提出された相手方を「被告」と言います)必要があります。
 訴訟に移行する場合は,訴状の作成をできるだけ早くして,裁判所に提出します。


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(2)裁判所からの訴状が相手に到着。第1回期日を指定。
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 裁判所に提出された訴状は,裁判所から相手に送付(正式には「送達」と言います)されます。
 その際,第1回期日が,訴状提出から1か月から2か月の間くらいの日(第1回期日の決定は,裁判所と原告側代理人弁護士との間で調整されたうえで行われ,原告代理人弁護士が出頭できる日が指定されます)で指定され,その日に相手も裁判所に出頭するよう,裁判所から指示があります。


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(3)第1回期日(訴状提出から1~2か月後)
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 第1回期日の1週間前までに相手(被告)から,答弁書が出るのが原則です(但し,1週間前までには出ず,第1回期日の直前に出る場合もあります)。

 答弁書は,原告訴状の主張に対する認否(訴状記載の事実を「認める」のか「否認する」のか,「不知(知らない)」というのかの三択です)と反論が記載されています。

 相手に任意保険会社がついている場合は,だいたいの場合,この段階で弁護士をつけて対応してきます。
 
 ただ,答弁書は,「受任して間もないので,打ち合わせの時間がない」ということで,簡単に原告の請求内容を「争う」とだけ,記載して提出し,詳細な「認否」と「反論」は第2回期日に行うというケースもあります。


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(4)第2回期日以降(訴訟はおおむね1か月間隔くらいで次回期日が入ります)
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 被告からの認否と反論があれば,原告からそれに対し,反論をするケースが多いです。
 また,被告から,相手の損害について,反対に請求してくる訴訟(「反訴」)が出てくるケースもあり,その場合は,反訴の請求に対し,原告側が答弁書を提出する必要も出てきます。

 そのようなやりとりで,1回から3回程度,期日が重ねられます。


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(5)証人尋問(正確に言うと,「当事者尋問」の場合あり)
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 双方の主張がそろった段階で,さらに過失などにつき,双方の主張が大きく異なる場合は,当事者本人が,裁判所に出頭し,事故の状況などにつき,裁判所に対し,証言することになります。
 ただ,証言すると言っても,あらかじめ,自身が依頼している代理人弁護士が「陳述書」という形で,当事者の言いたいことはまとめていますので,実際に裁判所で行われることは,その「陳述書」の内容につき,「齟齬(つじつまが合わない)」や「虚偽(うそ,いつわり)」がないかを相手方や裁判所から問われるということになります。

 なお,それほど双方の主張に隔たりのない事案については,証人尋問をする前に和解の勧告が裁判所からされて,その和解案について検討することもあります。


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(6)和解の勧告(正確には「和解の勧試」と言います)
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 裁判所は,いつでも,和解の勧告ができます。
 和解の勧告を受けた当事者は,和解案につき,検討して,双方が受諾(受け入れ)可能であれば,その時点で,和解が成立することになります。
 実際には,「双方の主張・反論がそろった段階」か「証人尋問が終了した段階」で行われることが多いです。

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(7)結審,そして,判決言渡
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 和解の勧告をしても和解のめどがない場合,結審(期日での審理(主張・反論,立証すべての手続きを総称して審理と言います)を終了すること)し,判決言渡しとなります。

 訴訟の場合,調停と異なり,必ず,「判決」という形で結論が出ます。

 判決は,通常,結審してから,1か月~2か月後に言渡しされます。

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(8)控訴,上告
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 社会の授業で習われたと思いますが,日本の裁判は,「三審制」で,不服があれば,2度まで異議を申し立てるため,次の裁判所で審理をしてもらえます。
 ですので,1審での判決が出ても,控訴・上告まで行く可能性があります。


3 まとめ

  以上,長々と読んでいただき,ありがとうございます。

  書いていても,疲れましたので,読んでいる方は,大変だったでしょう。

  こんなに手間がかかるのなら,「裁判なんかとんでもない」という気になられた方も多数いるかもしれません。

  ただ,時間はかかりますが,実際に裁判所に行くのは,「証人尋問」以外は,委任した弁護士のみです。

  また,委任した弁護士から依頼されること以外は,特にしていただく必要はありませんので,実際には当事者に方はそこまで,訴訟のことを気にしていただく必要はありません。

  そして,これまで記載したような,面倒を回避できるからこそ,弁護士に委任(依頼)する意味があるのだと思います。


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笠中晴司
専門家

笠中晴司(弁護士)

丹波橋法律事務所

大学卒業後,民間企業(地元銀行)で10年間勤務。その後,志をもって弁護士を目指し,弁護士になってから丸17年の経験を積みました。経験に基づく,バランス感覚は,他の弁護士より優れていると自負しています。

笠中晴司プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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