【民法・不動産登記法】の改正要綱案
※2018年10月現在での記載内容となっています。「現行」との表記は、その時点での現行法を意味します。
新たな知見や情報を創出する情報処理結果の提供に付随する軽微利
改正法は、新たな知見や情報を創出する情報処理結果の提供に付随する軽微利用の場合の規定として、新47条の5を設けています。これは、権利者に及ぶ不利益が軽微な行為類型として、先の2つの条文と比べていくぶん柔軟性の低い規定とされています。
今回は、新47条の5について説明します。
新47条の5第1項の条文
新47条の5は、現行47条の6に対応する規定で、1項と2項とが設けられています。
本文柱書
新47条の5の1項本文柱書は、次のとおりです。
「電子計算機を用いた情報処理により
新たな知見又は情報を創出することによって
著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者は、
公衆への提供又は提示が行われた著作物について、
当該各号に掲げる行為の目的上必要と認められる限度において、
当該行為に付随して、
いずれの方法によるかを問わず、
利用(軽微なものに限る。)を行うことができる。」
簡単に言うと、各号に掲げられた行為を行う際、これに付随して、提供・提示済みの著作物の軽微な利用ができるということです。
本文各号
「各号に掲げる行為」として、
「一 電子計算機を用いて、
検索により求める情報が記録された著作物の題号又は著作者名、
送信可能化された検索情報に係る送信元識別符号
その他の検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、
及びその結果を提供すること。」
情報検索サービス(現行47条の6に対応)を1号に、
「二 電子計算機による情報解析を行い、
及びその結果を提供すること。」
新たに情報解析サービスを2号にそれぞれ規定し、
さらに「前二号に掲げるもののほか」として、「
「三 電子計算機による情報処理により、
新たな知見又は情報を創出し、
及びその結果を提供する行為であって、
国民生活の利便性の向上に寄与するものとして
政令で定めるもの」
政令で対象行為を定めることができるとしています。
新47条の5 1項1号 現行47条の6
先の2条と比べると、著作物の利用ができる者を定める各号が例示でなく、限定的な列挙とされています。
その分、柔軟性が低く、外延が明確になる規定ぶりとなっています。柔軟性は、政令委任のレベルで確保されています。
また、ここでも「いずれの方法によるかを問わず」利用できるとされていますが、著作権者の利益に対する配慮として、「軽微なものに限」られています。
軽微かどうかは、「利用に供される部分の占める割合、その部分の量、表示の精度などの要素」を総合的に考慮して判断することになっています。
但書
新47条の5の1項但書は、次のとおりです。
「ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合はこの限りでない。」
不当に害することの判断は、
「当該著作物の種類及び用途並びに当該軽微利用の態様に照らし」て判断することとされています。
そしてその例として、
「当該著作物に係る公衆への提供又は提示が著作権を侵害するものであることを知りながら軽微利用を行う場合」
が挙げられています。
新47条の5第2項の条文
新47条の5の2項本文は、次のとおりです。
「前項各号に掲げる行為の準備を行う者は、
公衆への提供又は提示が行われた著作物について、
同項の規定による軽微利用の準備のために必要と認められる限度において、
複製若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては送信可能化を含む。)を行い、
又はその複製物による頒布を行うことができる。」
1項の情報検索サービスや情報検索サービスのためのデータベースの作成などについても権利制限の対象としています。
同様に但書により、
「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。」
とし、不当に害するかどうかは、
「著作物の種類及び用途並びに当該複製又は頒布の部数及び当該複製、公衆送信又は頒布の態様に照らし」て判断することとされています。
実務的な影響
現行47条の6では、インターネット情報検索サービスだけを対象にしていました。新47条の5により、書籍の検索サービスや論文の剽窃検証サービスなども対象になったと文化庁は説明しています。
また、新47条の5は「次の各号に掲げる行為を行う者は」と規定していますので、各号を例示ではなく限定列挙と考えられますが、将来のニーズに法改正せず対応するため、政令に委任する方法を採用しています。
文化庁は、新たなニーズが将来生じたとしても法改正せずに対応が可能であると説明しています。
雑感
規定の柔軟性を高めると、立法を待たずに新たな利用行為に対応できるというメリットがありますが、他方で、予測可能性が低下して行動が委縮するというデメリットもあります。
多くの企業はレピュテーションリスクを嫌って訴訟を回避したいと考えるでしょうから、例示の場合から大きく外れる行動はとらないと予想され、混乱することはないと踏んでの法改正であるようです。
新30条の4の「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」というのは、文化庁の説明によると、大量のデータをAIのディープラーニングに利用する場合が想定されているようです。
この場合、たとえば特定の写真家の写真をAIに学習させ、その学習によりアマチュア写真家の写真を加工することを目的とするのは、この場合にあたらないのでしょうか。