【第4部】人件費増を吸収する財務と労務の対策~生産性向上・価格転嫁・公的支援の三位一体策~

江崎充豊

江崎充豊

テーマ:経営


 こんにちは、マネジスタ湘南社労士事務所です。

はじめに

 第3部では、業務改善や評価制度が伴わない賃上げが現場の不満を生み、中堅社員やキーマンの退職を引き起こす労務リスクについて解説しました。
利益が減る中での人件費増加は資金繰り悪化だけでなく、組織の崩壊も招く恐れがあります。

  第4部では、増加する人件費を吸収し、事業を継続・成長させるための財務と労務の対策について解説します。

労務費の価格転嫁交渉を進める財務戦略

 人件費の増加分を吸収するためには、適切な価格転嫁が不可欠です。
公正取引委員会が公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」でも、原材料費だけでなく労務費の上昇を理由とした価格交渉が認められています。

  取引先との交渉を成功させる鍵は、数値根拠の提示です。
感覚的な値上げ要請ではなく、最低賃金の改定率や自社の人件費増加、材料費高騰による原価上昇などを算出し、書面でロジカルに提示することが求められます。
計算に基づいた、客観的で具体的かつ蓋然性の高い価格転嫁交渉を行う必要があります。

IT・設備投資による業務プロセス再構築と生産性向上

 単に価格転嫁を行うだけでなく、社内の生産性を高めて付加価値向上を図ることが重要です。人件費の増加に対応するには、少ない人数でこれまで以上の成果を生み出す業務プロセスの再構築が欠かせません。
 
 例えば、クラウド型バックオフィスシステムや製造・サービス現場におけるITツール導入により、手作業での集計や伝票処理などの非生産的な業務時間を大幅に削減できます。浮いた時間を顧客対応やコア業務に充てることで、労働生産性を向上させることが可能です。
 業務負担の軽減は現場の過重労働を防ぎ、従業員のエンゲージメント向上や離職防止にもつながります。

公的支援の活用

 生産性向上と賃上げを同時に推進する企業を支援するため、厚生労働省などの公的機関から助成金制度が提供されています。これらを活用することで、財務負担を軽減できます。

1.業務改善助成金
 事業場内最低賃金を引き上げ、ITシステムなどの設備投資を行った場合に支給
2.キャリアアップ助成金(正社員化コース・賃金規定等改定コース)
 有期雇用労働者の正社員化や基本給の増額改定を行った場合に支給

 助成金は返済不要のため、将来の返済負担なく原資を確保することができます。

まとめ

【今回のポイント】

  • 労務費の適切な価格転嫁交渉には、客観的なデータに基づいた根拠の提示が不可欠である
  • ITツールの導入やプロセス見直しにより生産性を向上させる
  • 助成金を活用し、賃上げと設備投資に伴う資金負担を軽減する
  • 価格転嫁、生産性向上、公的支援の三位一体策が、財務構造と労務環境の改善につながる


 第5部では、自社の事業継続性を確かめる「人件費×資金繰り」セルフチェックリストと、専門家相談の進め方について解説します。

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江崎充豊
専門家

江崎充豊(社会保険労務士)

マネジスタ湘南社労士事務所

現役銀行員としての財務分析力、社労士としての労務知識を融合させ企業を支援。資金調達や事業計画、人事労務体制整備からデジタルツール導入まで、経営者が本業に集中できる環境作りをアシストする。

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