【第4部】2026年カスハラ等の法改正への対策~正当な指導を守る規律構築~
はじめに
第2部では、令和8年10月施行の改正ポイントや過料リスク、ガイドラインの内容を解説しました。
第3部では、この法改正が企業の「財務(資金繰りや利益構造)」と「労務(現場の雇用管理)」に対してどのような影響を与えるのかを整理します。
財務へのインパクト:人件費・法定福利費の増加とキャッシュフローへの影響
パート・有期社員の待遇を正社員の基準へ引き上げる場合、人件費が増加します。
労務コストの増加は、単に基本給や手当の金額にとどまりません。賃金総額が増えることで、企業が折半負担する健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料といった「法定福利費」も比例して増加します。法定福利費の会社負担分は給与支給額の約15%程度を見込む必要があるため、人件費予算を検討する際には注意が必要です。
労働者政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2023年)によると、同一労働同一賃金の対応を行った中小企業のうち、約9割の企業で毎月支給される給与が増加したと回答しています。 粗利率が低い業種ほど、利益に大きな影響を与えます。
事前の資金繰りシミュレーションを行わずに賃金改定を進めると、半年後に資金がショートし、追加融資を依頼するといった事態にもなりかねません。
安易な正社員待遇引き下げ(手当廃止等)が招く経営リスク
「パートの待遇を引き上げる原資がないから、正社員の手当を廃止・縮小して不合理な差を無くそう」と考えるケースも考えられます。しかし、これは非常に大きなリスクがあります。 法改正に伴う「同一労働同一賃金ガイドライン」においても、「正社員とパート社員との不合理な待遇差を解消する際には、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パート社員の労働条件の改善が求められる」と明記されています。
労務の視点から考えると、合理的な理由なく正社員の手当を減額・廃止することは「労働条件の不利益変更(労働契約法第10条)」に該当し、従業員側との同意がなければ無効とされる可能性が極めて高いです。それ以上に、正社員のモチベーション低下やキーマンの人材の離職を招けば、企業の生産性は低下し、財務基盤そのものが崩壊することに繋がります。
労務へのインパクト:説明義務の厳格化と現場の負担
対応が難しいのが、「待遇差に関する説明義務(法第14条)」です。
パート社員から「なぜ私の基本給や手当は正社員より低いのですか?」と問われた際、事業主は客観的かつ具体的な理由を説明しなければなりません。この際、「パートだから」「将来の役割期待が異なるから」といった主観的・抽象的な説明は認められません。
賃金決定の基準やルールの違いを、職務内容や人事異動の範囲などの客観的実態に照らして説明できなければ、法律違反(説明義務違反)となります。就業規則や賃金規定の改定はもちろん、雇用契約書の見直しや、質問された際に説得力のある「説明ロジックの構築」が必要です。
まとめ
【今回のポイント】
- 非正規の待遇改善に伴い、給与支給額だけでなく法定福利費(会社負担分)も増加し、キャッシュフローを圧迫
- 不合理差の解消を目的に正社員の待遇を引き下げる対応は、不利益変更トラブルや人材流出のリスクが高い
- 「パートだから」という抽象的な説明は不可であり、客観的なデータや基準に基づく説明体制の構築が必要
第4部では、経営者が押さえるべき具体的な説明ロジックの考え方と、公的支援ツールや助成金の活用法について解説します。
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