2025年問題 ~年金制度の改正~
はじめに
第1部では、2026年7月の全国企業倒産件数が1,028件と2カ月連続で1,000件を超え、人手不足倒産も過去最多の63件に達した最新の動向をお伝えしました。
人件費高騰を理由とする倒産が前年同月比2.1倍に急増するなか、多くの企業が業績改善なき防衛的賃上げを余儀なくされています。
第2部では、原資なき賃上げが企業のキャッシュフローをどのように圧迫し、財務にどんな影響を与えるのかを解説します。
人件費の増加がキャッシュフローに与える打撃
賃上げを実施する際、認識すべき点は「人件費は一度上げると下げるのが極めて難しい固定費である」という点です。
売上や利益が増加しないまま基本給を引き上げると、増えた人件費はダイレクトに利益を減らし、キャッシュフローを圧迫します。
例えば売上高2億円、売上総利益8,000万円の企業が、人件費を年間500万円引き上げたとします。
売上や利益率が変わらなければ、利益およびキャッシュフローは500万円減少します。売上増や経費削減という原資がない賃上げは、手元預金を確実に削ります。
見るべき財務指標の一つ:「収益償還年数」
確認する財務指標の一つが「収益償還年数」です。
収益償還年数は、
要償還債務(有利子負債 - キャッシュフローのタイムラグ)÷営業キャッシュフロー
で算出され、要償還債務が営業キャッシュフローで何年で返済できるか、を示します。
金融庁の監督指針等でも意識される指標であり、一般的に10年以内が健全とされます。
営業利益が減少すると分母となる営業キャッシュフローが小さくなるため、収益償還年数は長期化します。
たとえば要償還債務5,000万円、営業キャッシュフローが1,000万円の企業(償還年数5年)が、賃上げで営業キャッシュフローが500万円に減少すると、債務償還年数は10年になります。
損益分岐点売上高、必要売上高の試算と資金繰りシミュレーション
原資なき賃上げによる資金ショートを防ぐためには、賃上げに伴い「損益分岐点売上高」がどれだけ上昇するか、そして「現在の利益を維持するためにいくら売上を伸ばす必要があるか」を把握することが不可欠です。
固定費である人件費が増加すると、利益を圧迫し損益分岐点売上は上昇します。賃上げを検討する際は、感覚や他社の動向で決定するのではなく、まずは以下の式を用いて影響額を可視化することが重要です。
- 限界利益率の確認:限界利益率 =(売上高ー変動費)÷ 売上高
- 損益分岐点売上高の把握:損益分岐点売上高 =固定費(増加後人件費含む)÷ 限界利益率
- 利益を維持するための必要売上高:必要売上高=人件費の年間増加額 ÷ 限界利益率
例えば、限界利益率が40%の企業で人件費が400万円増加する場合、利益を維持するためには「400万円 ÷ 40% = 1,000万円」の売上増加(同等の価格転嫁)、または粗利改善が必要となります。
目標値を明確にしたうえで、今後1〜2年の資金繰り表を作成し、シミュレーションを行います。売上が据え置きだった場合、価格転嫁が実現できた場合、売上増加目標を達成できた場合のそれぞれで、キャッシュフローと資金残高の推移を確認します。
資金残高がマイナスに転じる時期や、追加融資が必要となるタイミングをあらかじめ可視化し、「何でいくら稼ぐか」の着地点を明確にしておくことこそが、安定した資金繰りと攻めの賃上げを両立させる鍵となります。
まとめ
【今回のポイント】
- 原資のない賃上げは固定費を増加させ、キャッシュフローを悪化させる
- 利益の減少は収益償還年数を長期化させ、与信判断に影響を与える可能性がある
- 損益分岐点売上高を把握し、資金繰り表を用いたシミュレーションが必要
第3部では、「給与を上げても社員が辞める」組織の共通点と、評価制度や業務効率化と連動しない賃上げが引き起こす労務リスクについて解説します。
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